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リメイクのブランケットに包まれて

犬は、大事な人物を失った際にどのように感じるかを想像して書いた創作文です。

ちなみに、本文に登場するサブローは、先日旅立った私の愛犬をモチーフにしています。

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「ねぇ、お母さん。サブローがまた悲しそうな顔をしているよ」

祖母のゆき子さんが天国に旅立って初七日を迎えた昼下がり、
ラブラドールレトリバーのサブローはいつもゆき子さんが座っていた
椅子の近くで目を伏せていた。

母はサブローに近づき、頭をそっと撫でた。
「サブローは私たちよりずっと長くお母さんと一緒にいたからねぇ」

ゆき子さんは、元々この家で祖父とサブローと一緒に暮らしていたが
祖父が2年前にがんで亡くなり、長男である父の私たち家族3人が
引っ越してきたのだ。

その引っ越してきた当日に、祖母は私に向かって
「毎日おばあちゃんと呼ばれるのは嫌だから、
私のことは“ゆき子さん”と呼ぶように」と宣言したのである。

祖母をゆき子さんと呼ぶにはかなりの抵抗感があったが
以前のように「おばあちゃん」と呼ぶと
顔はやさしいのに「ゆき子さんでしょう」とドスの効いた声で
返されてしまい、気をつけて呼ぶようになったらいつの間にか習慣になったものだ。

ゆき子さんはとてもおしゃれで洋服はピンクやイエローの
明るい色を中心にさりげなく着こなし、
まわりからは「しゃれて50代くらいに見えるわ」と言われるほど
若々しかった。

また、ゆき子さんは洋服同様に下着にもこだわって
大好きなシルクを中心に様々な色を揃えて大切に扱っていたようである。

今日はちょうど、ゆき子さんが着ていた下着を
母がたたんでいたら、サブローがものすごい勢いで母の元に寄り、
鼻をクンクンさせて、自分の頬に下着になすりつけている。

「ゆき子さんのにおいがわかるのかしら?」
母と私は驚いて顔を見合わせた。

ゆき子さんにとてもなついていたサブロー。
そのサブローがゆき子さんがいないことで気が塞がれている・・・。

その時、私はふっと
「ゆき子さんの下着を何かに使えないだろうか」と母に伝えると、
ゆき子さんの下着をリメイクしてサブローに
プレゼントしてはどうかということになった。

リメイクするのはサブローが普段使っている緑のブランケットに決まり、
早速2人でクローゼットからゆき子さんの下着をすべて出してから
数枚の下着を見比べて、リメイクのイメージを膨らませた。

そしてハサミで切り取った下着をサブローのブランケットに
丁寧に糸で縫いつけていく。
「まるでパッチワークみたい」と私たちは楽しい気持ちになって
作業を続けた。

「できたーーー!」
思わず2人で叫ぶと、寝そべっていたサブローが何事かとびっくりして顔を上げた。
「おいでサブロー」と私が呼ぶと、大きい体をのそのそと揺らしながら
やってきて、色とりどりの下着が加わったブランケットをのぞき込んだ。

「あれ?」
と言うような素振りを見せたサブローに
ブランケットを広げてそっと体をくるむ。

すると、サブローはゆき子さんのにおいや面影?を感じて安心したように
ふーっと息を吐き、次第に小さな寝息を立て始めた。

ゆき子さんの下着は姿を変えて、サブローのリメイクブランケットに。
この姿を見て、ゆき子さんが「まぁうまくやったものね」と笑っていると
いいなぁ。

書き続ける楽しみを感じています、その想いが伝われば嬉しいです~