「POISON〜言いたい事も言えないこんな世の中は〜」の大サビ前、宙に浮いた「POISON」についての考察
人生で初めて見たドラマが「GTO」だったので、人生で最初に好きになった有名人が反町隆史でした。
数年前、「名作ドラマの主題歌100選」みたいな感じで「POISON〜言いたい事も言えないこんな世の中は〜」が流れていて、このときの反町隆史が「首元が上まである色のアウター(ファーがついていない)」を着ていたんですが、この形のアウターは私が1番好きなアウターで、きっと幼きころにこの反町隆史を見て「この形のアウター=かっこいい」の図式ができたのだと思っています。
そんなことはさておき、そのMVで久々にPOISONを聴いた私は、早速Apple Musicでダウンロード。そして子供の頃から聴いたこの曲を繰り返し聴くうちに、ひとつの違和感にたどり着いたのです。
大サビ前のPOISONは、宙に浮いている。
何を言っているかわからないと思いますが、この謎について本気で向き合った結果、「POISON〜言いたい事も言えないこんな世の中は〜」の歌詞の素晴らしさに気付いたので、ぜひ共有させていただきたいのです。
この曲で最も有名な歌詞は間違いなくこれでしょう。
後世に残るパンチラインですね…。
発売から20年以上経ち、「言いたい事も言えないこんな世の中」の風潮はますます強くなっているようにも思えます。
この歌詞で出てくるPOISONは4回。
1番のサビ:
2番のサビ
このふたつのPOISONは理解できます。このPOISONは前の文章と繋がっているからです。
言いたい事も言えないこんな世の中じゃPOISON(毒)だよね、
小さな夢も見れないこんな世の中じゃ POISON(毒)だよね、
言い回しは多少独特ですが、文章として理解はできるのです。
「言いたいことも言えないこんな世の中」や「小さな夢も見れないこんな世の中」に対して、息苦しい自分の気持ちをしっかり書くこともできると思うんですが、こんな世の中を「POISON(毒)」というたった4文字に集約して、
1番は
2番は
という自分の信念が続く歌詞になっています。
ただ、大サビ前に少し静かなサビ(一般的なCメロの位置ですが、メロディはサビと同じなので、「大サビ前」とします)があって、この「POISON」だけが明らかに「宙に浮いてる」んです。
大サビ前
このPOISONは、前の歌詞にも後の歌詞にもかからない「POISON」です。
「汚い嘘や言葉で操られたくない」「素直な気持ちから目を逸らしたくない」という信念の間に挿入される、宙に浮いたPOISON。
この「宙に浮いたPOISON」と向き合ってきた方はいるのでしょうか?
反町隆史 POISON Cメロ
反町隆史 POISON 大サビ前
汚い嘘や言葉に騙されたくない POISON
反町 宙に浮いたPOISON
いろいろ検索した結果、この「宙に浮いたPOISON」についての言及は見当たりませんでした(あったら絶対に教えてください)。
このあと、大サビでは
という通常のPOISONに戻ります。1番のサビと大サビは歌詞が全く同じです。
「宙に浮いたPOISON」を解釈するためには、歌詞の全体像をもう一度把握する必要があるのはないでしょうか。
※これ以降の考察は、歌詞の中の「俺」(作中主体)を仮に「若き日の反町隆史」として「若反町」として進めます。
歌詞は
で始まります。若反町の独白のようですね。
この「生きる意味」に近い言葉は2番のサビにも現れます。
1番Aメロでは「生きる意味があるはず」という、断定しきれない口調でしたが、ここでは「自由に生きてく意味を大切にしたい」という願望に変わります。しかも、ただの願望ではなく「行きたい道を今歩き出す」という行動につながっています。
歌詞に「戦うことも必要」とあるように
「自分(若反町) VS (言いたい事も言えないこんな)世の中」
という対立構造だと思っている方は多いのではないでしょうか。
実際、私もそう思っていたのですが、歌詞を通して聴くと、実はこの「自分/世の中」の関係性が、単に断絶した対立関係ではない気もしてきたのです。
1番には
というフレーズがあり、「冷めた目で笑いかけてる魂を侵されたやつ」を「自分」と対極の存在として批判・揶揄しているようにも読み取れます。
ここだけ見ると、「世の中に染まりたくない俺」VS「そんな俺を冷めた目で笑いかける世の中」という感じを受けますが、2番を見ると少し印象が変わります。
2番のAメロは若反町の回想から始まります。
ここで注目したいのは、当時は
「階段にすわりこんで終らない夢の話を夜が明けるまで語り続けてた」相手がいたはずなのに、この曲は「自分」に近しい仲間のような存在が見えてこず、一人で戦っているイメージがあります。
この歌詞は「俺たち」ではなく、どこまでも「俺」なのです。
今は、終らない夢の話を夜が明けるまで語り続けた相手はいない。これは、単に物理的にいなくなった(死別や転居など)のではなく、「大人になって変わってしまった」のではないかと思います。
「終らない夢の話」と書いているのに、実際には
「夜は明ける」し、
「さりげなく季節は変わ」るし、
「視線を落と」すのは「無意識」で、
流されることに「慣れてゆく」。
全て「知らず知らずのうちに変わってゆくこと」の描写になっていると思いませんか?
この回想を挟むことで、1番で描かれた
「冷めた目で笑いかけてる魂を侵されたやつ」も、昔からそういう人間だったのではなく、かつては夢を語ったこともあったのではないか…と、きっと若反町も想像できたはずです。
もしかしたら、
(かつては)終らない夢の話を夜が明けるまで語り続けた相手
=(いま)冷めた目で笑いかけてる魂を侵されたやつ
という可能性すらあるのです。
「夢を語り続けた」人を「冷めた目で笑いかけてる魂を冒されたやつ」に変えてしまうもの
=世の中の空気
=POISON
という構図が見えてきます。
しかし、若反町は
2番サビ終わりに
という決断をします。
普通ならここで歌詞が終わってもいいくらいです。でも、ここで歌詞は終わらない。
そして間奏を挟んで出てくるのが問題の「宙に浮いたPOISON」です。
若反町の願望の合間に挿入される「POISON」。
「POISON」は言うまでもなく、毒です。
「毒」と言っても、私のイメージでは、毒殺に使われるような即効性のあるものではなく、空気中の有毒物質のように徐々に身体に蓄積し、長く作用して身体を蝕み変容させていくものと考えられます。
POISONは「徐々に自分を蝕んでいくもの」で、2番で描かれた「知らず知らずのうちに変わってゆく」というイメージと合致します。
この「宙に浮いたPOISON」の正体は
「汚い嘘や言葉で操られたくない」
「素直な気持ちから目を逸らしたくない」
と若反町が思っている間にも、「空気中に漂っているPOISON」。
このPOISONはこの間にも若反町に作用し続けているのではないでしょうか。
そして変わってしまった人を見てきた若反町は、おそらくそれに気付いているはずです。自分もいつか蓄積したPOISONにより、「冷めた目で笑いかける」人間になっていくかもしれないことを。
私は、POISONで描かれる「自分/世の中」の関係性が、単に断絶した対立関係ではないのではないか、と書いたのは、「(POISONの漂う)世の中」のなかに、若反町も含まれているからです。
若反町と世の中は断絶しているのではなく、つながっており、だからこそ流されずに戦う決意をし続けなければいけないのです。
その上で、大サビでは
という、1番のサビと全く同じ歌詞に帰結します。
2番の回想を経て、若反町も「自分もいつかPOISONにおかされるかも」という懸念を抱いたうえで、空気中のPOISONが作用していることも分かってなお、自分は初心を忘れないように「変わらない決意」をするわけです。
1番のサビと大サビが全く同じということが、「変わらない決意」を強調する構造になっているのが巧いですね。
POISON〜言いたい事も言えないこんな世の中は〜……めちゃくちゃ良い歌詞やな…!!!!
と、ここまで書いてから
反町隆史のデビュー曲「Forever」の歌詞を見たところ、新たな発見がありました。
この部分は明らかにPOISONの2番の歌詞(階段にすわりこんで終らない夢の話を夜が明けるまで語り続けてた)とリンクしています。
さらに
POISONで夢を語り合った相手
=Foreverの「おまえ」
と考えても良いでしょう。
そして、「おまえと二人またここで逢いたい」ということは、今は「おまえ」はおらず、若反町は「乗り越えられる道を探して」る途中だと考えられます。
という歌詞で終わっており、POISONで描かれた「変わってゆくこと」=「時は止められない」イメージに合致します。
世の中や時という大きなものに対する、抗えなさを感じつつ、「今を忘れないさ」と自分自身の決意を示す、という意味で、POISONとForeverは非常に近い構造の歌詞になっているのです。
ちなみに、2回も「言いたいことも言えないこんな世の中じゃPOISON」って言ってるんですが、この曲のタイトルは
「POISON〜言いたいことも言えないこんな世の中は〜」。
歌詞の中では
「言いたいことも言えないこんな世の中じゃ」と言っているのに、タイトルは「は」なのです。覚えておきましょう。
【普段は短歌をやっています】
短歌の「すみっこ」を伝えるwebマガジン TANKANESS
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