繰り返しの日々はいつかの大切な思い出
ある日の夜、いつもの時間とは違う時間に離れて暮らす母から電話が入っていた。
何だか、胸騒ぎがしてすぐにかけ直す。
父が末期の癌で緊急入院したという連絡だった。
話の途中で病院の人から呼び出されたのか、「ちょっとゴメン」と電話が切れた。
父はまだ68歳。
初めて父が、いずれは両親がいなくなることを想像した。
突然の入院だったので、母も心の準備ができておらず、
家族みんなで過ごした、1人には大きすぎる家で過ごすことになり、
傷心しているのが電話から伝わってきた。
私は会社の上司に状況を話し、一週間の休みをもらい実家に帰ることにした。
仕事をしながら、家の全てのことをこなしてきた母は
父が元気なときには、お父さんがいなくなったらやっと自由になれるなんて言っていたが、実際にそうなりそうな状況になり、とても寂しがっていて自分でもこんなに寂しいと思っていなかったと、何度も言っている。
特に夜になると寂しいと。
私はてっきり、誰もいない暗闇が怖いのかと思っていたが、
話を聞いてみるとそうではないらしい。
ずっと家族で過ごしてきた家に1人になる寂しさが怖いと。
想像はできるけれど、今の私にはまだその怖さが分からない。
寂しがる母の隣で眠りにつくが、街頭もほとんどない田舎の為、電気を消すと真っ暗になる。
暗闇と風の音。
私は寂しさよりも目に見えない何かの方が怖かった。
なかなか、寝付くことが出来ず色々と考えてしまう。
母と2人こんなに長期間過ごすのも久しぶりだった。
母は元気とはいえ、年を重ねて一緒にいると老いを感じる。
父と母と兄と私。4人で住んでいたこの家で過ごした日々。
それは今思うと一瞬で、家族が集まることはあっても
あの時に戻ることはできないと初めて意識した。
母はその寂しさを感じているのだろうか?
20代までは今が永遠に続くと思っていた。
頭ではそうではないと知ってたが、
終わりを意識したことがなかった。
家族や友人、大切な人と過ごすかけがいのない時間。
どんなことがあっても、今という時間には良くも悪くも戻れない。
せめて、もう一度だけこの家で家族みんなで過ごしたい。
昔よりも家族が増えて賑やかな時間を。
写真はいつも植物がキラキラの父の庭より。