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喜怒哀楽ではなく、甘辛酸っぱいを書き留める

こういうこんにちわ。
今回は『甘辛酸っぱい感情』について本を4冊紹介していきます。

「喜怒哀楽」は、人間が持つ感情の基本的な要素だとされています。しかし、生きていると当然、喜怒哀楽以外の感情を感じますよね。好きな人と初めて手をつなごうか迷っている瞬間とか、大勢の前で発表をして緊張し、喉が詰まる思いで話したとか、叱られた後に食べた夕飯の味が分からないとか、悔しい思いをして苦虫を嚙みつぶしたような顔になるとか。

こういう喜怒哀楽では括れない「甘辛酸っぱい気持ち」。人によって個性があり、この感情を的確に表現するのって非常に難しいんです。特に、感受性に富んだこどものころに芽生えた感情って、大人になると忘れてしまうんですよね。

それゆえか、私はその表現が非常にうまい作品に出会うと「良作に会えた」と感動します。
今回は、そんな「甘辛酸っぱい気持ち」の感情表現に長けた本を紹介していこうと思います。




ライ麦畑でつかまえて J.D.サリンジャー



主人公は16歳の少年。学校の寮を飛び出して、ニューヨークの街をさまよい歩きます。彼は、世の中をまやかしに満ちた虚像と皮肉った眼で観察し、処世術に長けた大人をあざ笑い、純粋なこどもを唯一無二の存在として崇拝します。「もっと大人になりなよ」という声に抗い続けた少年は、行く当てもなく、何一つうまくいかず、次第に疲弊し、自分の恩師のもとに向かいます…

もう、なんでしょうね。読んでいて「きゃあああ///」となります(語彙力)
10代の、大人だけど大人になりきれず、世の中に対して斜に構えて生きようとする少年の姿。一方は「自分は大人だ」という背伸びした気持ちもあるので、一人前のようにふるまうも何もうまくいかないこの感じ…!
理想と現実のギャップに疲れ切った主人公は、恩師の家に着きます。物語の前半は、主人公への共感性羞恥心で読むのがつらいのですが、その恩師が説いてくれる言葉、そして主人公の妹の言葉に救われます。


君たちはどう生きるか 吉野源三郎



90年前に執筆された作品。主人公コペル君(本名:本田潤一)が、友人や叔父との会話を通し、精神的に成長していく物語。池上彰さんが紹介され、原作のもと漫画にもなり話題を集め、さらに宮崎駿監督によって映像化され、その映画は数々の賞を受賞し、国際的にも高い評価を受けました。が、今回は小説の方を紹介します。

叔父は、父親を早くに亡くしたコペルくんの親代わりとなり、ある日を境に、コペルくんに宛てたメッセージをノートに書いていきます。親(大人)から成長過程にある子へ、この先何を意識し、何を考え、何を大切に生きていかなければならないのか、叔父からのメッセージは、物語のキーポイントとして要所要所で挿入されています。

コペルくんの友だちとの友情が、物語の主軸となっています。少しクセのある友達と仲良く学生生活を送るコペルくんでしたが、ある事件をきっかけに彼らとの関係がギクシャクしてしまいます。
誰にでもある、人間関係のつまづき。大人であれば、自分自身を正当化したり、関係の修復を諦めてしまいますが、コペルくんは、目を背けず、はぐらかさず、問題を直視して、懊悩の末、ある行動をとります。

勇気が出なかった後悔、謝罪を受け入れられないかもしれないという恐怖、仲間の輪から外れた孤独…これらの感情を丁寧に描き、叔父からのメッセージをはさみながら、本作は読み手に向かって「あたなはどう生きるか」を問い続けます。

この作品が刊行された1937年に、盧溝橋事件が勃発。日本は戦争への道を突き進み、少年向けの雑誌にも軍事主義的作品や広告が多く載せられていきました。これを危惧した作者吉野源三郎は、知人の誘いで「日本少国民文庫」の編集に参加し、時世に抗して子どもにヒューマニズムを伝える作品に取り組みました。本作「君たちはどう生きるか」も、そのうちの一冊です。

最後、様々な経験を経て精神的に成長したコペルくんは「どう生きるか」について、自分の答えを出します。ぜひ一読してみてください。


窓ぎわのトットちゃん 黒柳徹子


作者黒柳徹子さんの自伝的小説。第二次世界大戦下の東京で実際にあった学校が舞台です。

個性的ゆえに集団生活に馴染めず公立の小学校を追い出された主人公トットちゃんが編入したのは、ユニークな教育方針もと、子どもたちがのびのびと過ごすトモエ学園でした。

この本を初めて読んだのは小学生のころで、子どもながらにトモエ学園のユニークな授業にワクワクしながら読みました。子どもが生まれたのと、アニメ映画化したのをきっかけに読み直したのですが、改めて素晴らしい本だと思います。
物語は一貫して主人公トットちゃんの目線から描かれており、通学で電車に乗る緊張や、トモエ学園で初めて授業を受けた時の衝撃、友だちとの関わり合いなど、小さなことにも驚きと感動を覚える子どもの新鮮な感情が目いっぱい詰まった作品です。

また、「リトミック」や「子どもの個性の尊重」など、最近やっと常識になった教育方針がすでに本作では描かれ、実践されています。「子どもの得意や好きを尊重し、伸ばしてあげることが一番大切である」という方針のもと、それを実践されたトモエ学園学長の小林宗作先生への愛と感謝にあふれた作品です。


赤毛のアン ルーシー・モード・モンゴメリ


主人公アン・シャーリーは、赤毛と大きな目とそばかすがコンプレックスの女の子。親は亡く、親戚や孤児院を渡り歩いた末に、プリンスエドワード島に住む老兄妹に引き取られます。しかし、この引き取りは手違いで、本当は農作業を手伝ってくれる男の子を探していた兄妹は、アンを孤児院へ送り返そうとしますが、明るくユニークなアンに惹かれ、引き取ることを決意。そこから巻き起こる事件や事故を通し、失敗に学びながら、周囲の人たちとの温かい交流の中で、アンは少女から大人の女性へと成長していきます。

物語は19世紀のカナダが舞台。奥ゆかしく慎ましさが求められていた時代には、アンの性格はユニークではなく「奇想天外」として、少し疎まれる存在となっています。しかし、アンを育てる老兄弟 口数少なく優しい兄マシュウと、常識的で現実的な妹マリラのもと、数々の失敗を犯しながら、アンは生来の聡明さを育み、経験から学ぶことで立派な女性へと進化していきます。

学校での女友だちとの微妙な関係、親友ダイアナと道を分かつ進路、そしてギルバートへの複雑な感情を、プリンスエドワード島の豊かな自然と共に丁寧に描いています。


ちなみに、世界名作劇場でスタジオジブリの高畑勲監督がアニメ化しており、私はこのアニメが大好きでDVDBOXを持っており、何回も見返しています。
高畑監督は「甘辛酸っぱい」感情を表現したら世界一だと思っているので(代表例:おもひでぽろぽろ)配信にはないかもしれないけど、レンタル店で見つけた際は、ぜひ観てみてください…!

原作のすばらしさを、アニメでもって昇華させる作品って本当に少なくて貴重なんですよね…


子どものころの気持ち 忘れたくはないけれど


BUMPOFCHICKEN「魔法の料理」という歌をご存じでしょうか。
子どものころに感じた気持ちは、大きくなって大人になるとちゃんと伝えることができるようになる という歌詞です。

大人になれば語彙も表現力も増え、自分の気持ちを伝えられるようになる一方、あの頃胸を占めていた不確かな気持ちは記憶の彼方に置いていかれ、もう二度と感じることは出来なくなってしまいました。
今回紹介した作品に触れることで、置き去りにしてしまった「あの頃の感情」に再び出会うことができます。子どもが生まれ、彼らが彼らの世界の中で何かを感じ取って、戸惑い、逡巡し、戦っているときに、その感情を丁寧に掬い上げることができるかどうかは、自分が「あの頃の感情」をどれだけ持っているかが大きいと思います。

今回紹介したのは、「楽しい」「悲しい」「ムカつく」「嬉しい」といった明確な感情だけではなく、子どものころに感じていた「甘辛酸っぱい気持ち」を描いてくれている素晴らしい作品たちでした。

…しかし、ここまでまとめて思ったのですが、各作品「大人と子どもの対話」をベースにしており「はねっ返りな子どもたちを、大人が良識的に諭す」といった構図が多いんですよね。やはり、私も人の子の親なので、「子どもの気持ちを知る」というより「大人として子どもに対してどうやって接していくべきか」を重視しているな、と思ってしまいました(笑)
その目線で読んでも、どの作品も素晴らしいですよ!!!


読んでいただきありがとうございました。


本の紹介はこちらの記事でも


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