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今日のジャズ: 9月18-19日、2008年@ボストン
Sep. 18-19, 2008
“Chris Botti in Boston”
by Chris Botti, Billy Childs, Robert Hurst, Mark Whitfield, Boston Pops and Special Guests at Symphony Hall, Boston for Decca
見た目も良ければ演奏も良い、という具体例がこの作品。現ジャズ界随一のイケメンでもあるトランペッターのクリスボッティが、ボストンポップス(後述)を率いて、共演歴のある多彩なゲスト10名を招き、著名曲を演奏するという集大成的なドキュメンタリー映像を収めたのが、この作品。
音声のみならず映像の品質も高い作品のため、ホームシアター環境のリファレンスソースとしても活用できる。映像については黒色の濃淡、青色と赤色の鮮やかさなどを、解像度等と共に確認してみるとディスプレイの特性が明らかになる。
ステージは、”An Evening with Chris Botti”的な、ボッティがエンタテインメントショーをMC兼奏者として進行する体裁。こんな感じ。
チェロ奏者の大家”The One And Only”、ヨーヨーマが加わる名曲『シネマパラダイス』のテーマでは、弦楽器のふくよかな中音域の優雅な木の鳴りが堪能できる。
イタリア韓国ハーフのバイオリニスト、ルチアミカッレリとの、フランス音楽家ミシェルコロンビエによる名曲、ジャズではスティーブキューンも取り上げている”Emmanuel”の高域に響き渡るバイオリンを交えた演奏も耳のみならず目も惹く。
レナードコーエンの名曲で、アニメ映画『シング』や『シュレック』で取り上げられている『ハレルヤ』の、ジャズギタリストのマークホイットフィールドとのほぼデュオ演奏もある。夭折したジェフバックリーのカバーが特に有名な曲で、ボッティとバックリーが同じ時期に同じスタジオで共にデビューアルバムを制作していたというエピソードをボッティが語っている。
2006年開催のアメリカンアイドル準優勝者、歌唱力だけでは無く美貌も兼ね備えたキャサリンマクフィーが現れて、フランクシナトラの十八番、”I’ve Got You Under My Skin”を優雅に歌うと、その華々しさでステージの雰囲気がガラリと変わる。ボッティもホィットフィールドも魅了されて嬉しそう。因みにマクフィーの現在の配偶者は、16ものグラミー賞を獲得している著名プロデューサーのデビッドフォスター。フォスターが作品を手がけているのが二人の共通項。
ロック界随一の脂の乗ったモテ男、ジョンメイヤーがロジャースとハーツの名コンビによるスタンダード曲、それもバラードを歌詞に沿ったトーンで寂しげに歌っているのも見どころの一つ。マクフィーの陽の雰囲気とは対照的な陰的な進行だが、こちらもボッティがメイヤーに紹介したという同曲のシナトラの名演をなぞるかのような歌唱です。
「成功するためのたった四つの要素がある。鍛錬(Practice)、鍛錬、鍛錬、そしてスティングと友達になること」とボッティが語り、恩人としているジャズに造詣の深いスティングも盟友ギタリストのドミニクミラーと共に登場して、名盤”Ten Summoner’s Tales”からの代表曲”Seven Days”や”If I Ever Lose My Faith in You”も披露されている。ボッティも特別なイベントに特別な人を迎えて感慨深そう。
錚々たる顔ぶれの中で、この作品のクライマックスは、地元ボストン出身バンド、エアロスミスのボーカリストであるスティーブンタイラーがロックスターの王道の手本を示すかのように華々しく登場、エアロスミスの名曲”Cryin’”を艶やかに歌った後に、父親を前に喜劇王チャップリンによるジャズスタンダード曲、”Smile”を披露したドラマチックなくだり。由緒あるシンフォニーホールといえどもタイラーはタキシード的な正装をする事なく、見慣れたロックファッションで登場するのも面白い。
この登場で、その前の演奏が全て上書かれてしまうほどのインパクト。”Smile”は、2005年リリースのボッティのアルバム、”To Love Again”でタイラーと共に収録している楽曲の再演。因みにエアロスミスでジャズといって思い起こすのは、ライブ盤での”Train Kept a Rollin’”でシナトラの”Strangers in the Nights”のフレーズが登場しているところ(以下、3:13秒過ぎ)。そのエアロスミスは中断されたフェアウェルツアーが今月から北米で再開される予定だったが、タイラーの声帯が芳しく無く、残念ながらキャンセルとなっている。もうツアーには出ず、スポットかレコーディングだけの活動になるというのは寂しくなる。
本作は、目立たないものの長きに亘って質の高い演奏で活躍するピアノのビリーチャイルズやベースのロバートハーストも聴きどころではあるが、いち推しはドラムのビリーキルソン。キルソンがフィーチャーされているインスト曲『インディアン・サマー』でのソロが特に切れ味凄まじく、後ろの楽団員達が見惚れている姿が捉えられているほど。その鬼気迫る様は、暴れまくって太鼓を叩く雷神かのよう。演奏が終了した後、突如暴発したかのような電撃ドラミングも凄い。
因みに、この演奏ではスティングを意識してか、The Policeの”When The World Is Running Down”のメロディーラインが引用されています。
キルソンは、スタンダード曲でも絶妙な間合いでダイナミズムとスパイス的な刺激を送り込み、そのセンスが非凡な事が分かります。ボッティとの掛け合いも唐辛子のようにピリリとした溌剌さがある。
本作品は、どれも素晴らしい演奏ではあるものの、入れ替わり立ち替わり華のあるゲストが現れるために、ボストンポップスの存在感が薄まっているのが唯一の欠点かもしれない。オーケストラを味わいたい方は以下『アベマリア』を同作品のCD盤の音源でどうぞ。
そのオーケストラ、ボストン交響楽団は小澤征爾さんが1973年から2002年の長年に亘って指揮者を務められていましたが、こちらに登場する「ボストンポップス」は、その派生系として創設から四年後の1885年に生まれた、夏のオフシーズン期間限定のポピュラー曲等を取り上げるクラシック音楽普及活動の位置付け。だからこそ、こういった演奏や取り組みが存在している。『スターウォーズ』、『ジョーズ』や『インディジョーンズ』といった数多の著名な映画音楽を手掛けたジョンウィリアムズが、1980年から1993年に亘って常任指揮者を務めた。その後の映像と思われるが、本人が登場するとこんな感じになる(紹介を経た一分半過ぎからスターウォーズのテーマ)。
因みに本作で指揮を務めているのは、1995年から就任しているキースロックハート(現任)。
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ジャズ奏者のジョンピザレリも参加している
グレンミラーオーケストラ作品集
ロックハートは2002年開催のユタオリンピック開会式でのアメリカ国歌で指揮を執っている他、ボストンポップスとは、2002年スーパーボウル(ペイトリオッツ優勝)、2008年NBAファイナル(セルティックス優勝)、2018年MBAワールドシリーズ(レッドソックス優勝)といった地元チームに関わるスポーツイベント等にも登場している(ボストンは強豪揃いで羨ましい)。また、毎年恒例の建国記念日に開催されるボストン花火大会でも演奏を披露している。以下がその映像ですが、独立戦争の中心地だったこともあって、気合が入っているのが伝わって来ます。
では、本作と同じくトランペットとオーケストラの組み合わせに興味を持たれた方は、帝王マイルスによる、大定盤をどうぞ。
最後に、本バンドのギタリスト、お茶目ながら幅広いジャンルをそつなくこなすマークホイットフィールドに興味を持たれた方は、こちらの変則ドラム抜きトリオによる趣に溢れたハービーハンコック作品集をどうぞ。
本記事に最後まで付き合って下さいまして感謝です。笑顔溢れる素敵な一日になりますように。