ジャズ記念日: 10月20日、1966年@ロサンゼルス
Oct. 20, 1966 “Mercy, Mercy, Mercy”
by Cannonball Adderley, Nat Adderley, Joe Zawinul, Victor Gaski & Roy McCurdy
at Capitol Studio, LA for Capitol (Mercy, Mercy, Mercy! Live at “The Club”)
マイルスの名盤に参加したアルトのキャノンボールアダレイは、この曲に代表されるソウルジャズを開拓する。曲の冒頭での本人によるアナウンスは、エレキピアノを演奏するジョーザヴィヌルの作曲という紹介と、その曲に託されたストーリーを語る。
聴衆の掛け声が混じるライブ調ながら、実はキャピトルスタジオでのラウンジ風仕立ての録音との事。ザビヌルはこの後にマイルスに引き抜かれ、さらにその後、一世を風靡したウェザーリポートを結成する。この曲は万人受けするメロディーが受けてジャズとしては異例のビルボードチャートの11位にランクインした。冒頭のアダレイのコメントは以下。
簡単に言うと「逆境に直面したら、神に御慈悲を唱えなさい」というようなアドバイス。公民権運動とベトナム反戦デモがピークを迎えた動乱の情勢を意識しての楽曲と演奏なのかも知れない。もはや自分ではどうしようもない、そんな境遇に置かれたら、本曲に身を任せて気を落ち着かせるのも一つの解決策。
終始、黒人訛りの掛け声がかかるが、音楽に即座に反応するタイミングが絶妙で音楽の一部に溶け込んでいる。キャノンボールは激しくファンキーにブローするものの、割り切ってかアドリブは殆ど無い。
2:51から始まるベースと、アナログとデジタルの合いの子の特徴を持った味わい深いトーン、ウーリッツァーのエレキピアノのゆったりとした絡みが、大きくゆったりと押し寄せる波のようなノリを醸し出していて心地良い。
ウーリッツァーのエレキピアノは、鍵盤がフェルト付きのマレットに連動していて、それが物理的に金属の振動板(リード)を叩いた音をマイクで拾う方式の電子ピアノ。音をピックアップする構造はエレキギターと同じく電気で増幅しなくても音は出るし、増幅された音にエフェクトをかけることも可能という面白い楽器で、その基本的な構造は対比されるフェンダーローズも同じ(こちらは音叉)。
しかるに音色は何処か鉄琴のようなテイストがあるが、ウーリッツァーの特徴としては、ローズに比してピアノ寄りのトーンと鍵盤を強打すると露出する歪みが良い味を醸し出す、ギターで言うところのオーバードライブがかかるという特徴が演奏者にとっての魅力でもあるらしい。
ウーリッツァーエレピを使用してヒットした曲の先駆けは、レイチャールズの名曲”What I’d Say”(1959年)。レイは、ツアー先の会場にあるピアノで調律が万全では無い楽器を使う事をせずに、ウーリッツアーの持ち運び可能なエレピを自ら持ち込んで使用していたそう。
このレイ本人のエレピをダイナワシントンのバックバンドで使用したのを契機にザビヌルが採用、時を経て本作に至ったという経緯。因みに、レイのエレピと言うと、ブルースブラザーズでの名演が印象深いが、そちらはフェンダーローズ。音色の違い、わかりますでしょうか。
レイの使用に加えて、本作1966年のヒットで更にミュージシャンによる採用が加速、ピンクフロイドの”Money”(1973)、クイーンの”You’re My Best Friend”(1975)等にも登場する事になる。以下、ウーリッツアーが登場する名作です。
独特の揺らぎと歪みが耳心地良いですね。近いうちに、フェンダーローズについても取り上げたいと思います。
このウーリッツァー、シンシナティ創業で1880年からピアノの製造を開始、オルガン、ジュークボックスも手掛けて、その延長線においてエレキピアノを製造・販売した老舗メーカー。ワーリッツァーと言うと、通じる方もいらっしゃるかも知れません。
最後に、電気増幅する別の鍵盤楽器、ハモンドオルガンとその発明について興味がある方は、こちらをご覧ください。
本日も大変お疲れ様でした。