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イバン族の夢占い  02/05

 ある日、私がそのロングハウスを訪れた時に、ふと、いつもの景色と異なるのを感じた。そのロングハウスの対岸の木がなくなっていたのだ。いつも、午後になると、子供たちがその木の登れる所迄登って、川へ一斉に飛び込む、そんな風景が印象的な木であった。私は、鉄砲水で流されたのだと思ったが、村の人に尋ねると、こういう事だった。その村のシャーマンが夢を見た。その夢の中で、いつもの様に、子供たちが、次から次へと、その木から川へ飛び込んでいた。少したって、その木から飛び込んだ子供の一人が、血を流して、川に流され、見えなくなってしまった。この夢を見たシャーマンは、翌朝、村の酋長に話をして(その酋長自身もシャーマンの能力を持っているのだが)、結果、この木は災いをもたらすかも知れないという事で、即日伐ってしまったそうだ。イバン族の人々にとって、夢=万の神々の啓示である。これは、シャーマンが見た夢であったからだけでもなく、シャーマンの能力を持たない人の夢も参考にされる。その判断は、シャーマンや酋長が行うのだが、不吉な夢を見た時には、その人々は、必ずと言って良いほど、シャーマンや酋長に相談をする。この夢は、非常に分かりやすい直接的な夢ではあるが、一方で、間接的な夢、比喩的な夢があり、その判断は、シャーマンに委ねられる。



 別の日に、イバン族のロングハウスに滞在していた時の話。私の八重歯が、虫歯が原因で、痛くて痛くて堪らなかった。我慢できなかったので、村の人に頼んで、抜いてもらった。地酒アルコールの消毒のおかげで、そんなに痛みはなかった(実際は、歯の芯は残っていた)。その夜、持っていた痛み止めの錠剤を呑んで寝た。そして、夢を見た。私のその八重歯が抜ける夢だった。その夢の痛さで目を覚ました後、ふと、歯を抜かれた時の事を思い出し、笑った。自分で抜いてくれと頼んだ割には、おびえていた自分。やんややんやの村人達の大騒ぎ。よく見ると、ほとんどの人が、1個以上は、歯がない村人。中には前歯全部ない人もいた。鎮痛剤の為と老婆が持って来た腐った薬草。私が歯を抜かれるの笑いながら飲んでいた連中。そんな光景を思い出しながら、きっと、さっき歯を抜いたから、こんな夢を見たんだな、と思い、暗い中で、一人思い出し笑いをしていた。目覚めた時と同じ寝相で寝ると、夢の続きを見るというイバン族の風習を思い出して、目覚めた時と違う寝相で寝た。

翌朝、村人に、この歯の抜ける夢の話をした。その村人は、笑うどころか、真剣な顔をして、シャーマンに話しなさいと言った。私は、シャーマンにその夢を告げると、彼は、神妙な顔をして言った。「歯が抜ける夢は、良くない夢だ。歯が抜けるのは、お前に関係する人が、病気か、亡くなった知らせだ。前歯であれば、あなたに非常に近い身内の人。奥歯であれば、身内でもないが自分の知っている人」と。私は、急に怖くなってきたが、それでも、今の世の中、歯が抜ける夢を見たのが、そういう知らせなんておかしい。たまたま、昨日、歯を抜いたから、それで、そんな夢を見たんだ。と、自分に言い聞かせた。そのロングハウスの滞在も終わり、クチンの街中へ戻り、この夢の事もすっかり忘れていた。

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