イバン族の夢占い 03/05
クチンに戻った数日後、クチンに長く住んでいる日本人の男性が、末期の癌だという事を知らされる。私は、一瞬、耳を疑った。つい数週間前、元気な様子で少し話をしたばかりだった。その人は、癖があるのだが、根は非常に良い人で(多分)、時折、ご飯を奢ってくれたりしていた。身内では無いが、少し親しくしていた人だった。その夢のお告げ通りだった。しかし、自分自身に、これは偶然だ、あの晩、歯を抜いたから、そんな夢を見ただけだ。これはそんなお告げではないと、自分に向かって言い張った。しかし、その後、数ヶ月を置いて、2度その夢を見て、実際 に同じ事が起こった。1回は、前歯が抜ける夢を見た数日後に、母方の祖母が亡くなった。そして、時期を置いて、奥歯が抜ける夢を見た数日後に、知り合いのイバン族の老婆が亡くなった。さすがに、この実証が3回もあると、信じざるを得ない。私が、こういう精神文化や、先住民族の森の掟等を笑って済ませなくなったのも、この事件からだった。現代文明や科学が解明できない、そんな何かは、世界中に至る所にある筈だ(きっと)。
別の夢の話をしよう。これは、自分で見た夢ではない。親しくしている弟分の様なイバン族の少年だ。彼は、私をいつも慕っているし、私を見ると満面の笑顔を見せてくれる。ある日、彼がとんでもない事を言う。「昨日、夢を見た。ナベがワニに食べられた夢を見た。ワニに食べられたよ」。一瞬、耳を疑ったが、聞き返しても、同じ事を言う。彼は夢判断が出来ないので、街に住むイバン族のこういう事に詳しい人に話を聞く。彼が言う。「地域によって、解釈が異なるが、イバン族にとって、ワニは非常に力強い存在だ。実際、イバン族の先祖も、ワニを畏怖し、ワニの先祖とイバン族の先祖が契約を交わしたという伝説がある。イバン族の人は、ワニを食べない代わりに、ワニもイバン族を襲わない。だから、サラワクでもワニに襲われるのは、マレー人ばっかりだろ」と言って笑った。突然、笑いを止めて真顔になり、話を続けた。「でも、ごく稀に、イバン族がワニに食べられる事もあるが、その時は、シャーマンに探させて、捕獲して、焼き討ちにする。それは、契約を破ったワニへの仕打ちだ。でも、我々イバン族は、絶対にワニを食べない。マレー人も食べないと思うけど、住んでいる場所が危険だ。中国人は何でも食べるから一番危ないけど、街に住んでいるから大丈夫かな」と言ってまた大声で笑った。 一瞬、人間とワニの契約なんていうのもおかしな話だと思ったが、そう言えば、サラワクでは、ワニに人が食べられる事件が、1年に1回位あるが、ほとんど、マレー人の人が犠牲者だ。又、海賊版のビデオで、一度だけ、イバン族の少年が食べられて、そのワニを捕獲するドキュメンタリーを見たけど、そのワニを捕獲して食べられた少年の遺体をワニのお腹から取り去った後、ワニは焼き討ちの刑にされていたな。ここ数十年で、イバン族の人がワニに食べられた事件は、このビデオの犠牲者と、その他は数えるばかりしかない筈だ。別の意味で、イバン族の人は、マレー人より、ワニや野生動物と自然の関係等をより熟知しているから、猛獣に対する防御策を元来持っているとも言える。
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