見出し画像

イバン族の夢占い  05/05

翌日、その方にホテルのロビーで会うと、予想通りの紳士的な方で、日本人であれば知らない人はいない某旅行会社の社名と名前を告げられた。道中、穏やかな感じで、サラワクの旅行業やサラワクの観光地に関して尋ねられたが、少しばかり、いつもの旅行会社の企画担当の視察の方とは異なる質問が気になっていたが、約2時間程で、グヌン・ガディン国立公園に到着した。実際は、ラフレシアが咲いているのは電話で確認済みで、少しばかり斜面の崖を降りて、川を越えたあたりにあるのは知っていた。しかし、車中で、咲いているかどうかを教えてしまうと、期待感がなくなるだろうという姑息な手段で、私は知らない振りをしていた。その咲いている場所へは、普通のトレッキングの道とは別の方向にあるので、ラフレシアの場所へ向かう為に道路から直接藪をかき分け森へ入っていった。15分程、大木のある深い森を越えると、急勾配の斜面を、公園スタッフが設置しているロープをつたって、10mほどおりると、川に辿り着いた。その向こう側に綺麗に開花したラフレシアは見えている。いつも、私が観光客の人に対してやる手で、私は既にその場所を知っているのに、あえて演技をする。「ラフレシアの匂いがしますね。多分、この辺にある筈です。一緒に探してみましょう」と言って、その人に探してもらう様に促した。しかし、その人は、私の視線をちゃんと追っていたのか、すぐさま、「あそこにあるじゃないか」と即座に言って、エナメルの靴を脱ぎ出した。その川は、流れが強いものの浅いので、橋はなく、岩を超えて行かなければならない。潔く裸足になったその人と濡れながら、対岸迄渡り、異彩を放つラフレシアを間近に見た。ジャングルの暗い林床にある巨大なオレンジ色のラフレシア。その人は、数枚写真を撮ったかと思うと、すぐに、「じゃ、帰りましょう」とあっさりと言った。我々は、来た道を戻り、ズボンも濡れたままで、車に乗り、帰路についた。

帰路の途中、その人は思い出したかの様に切り出した。「そうそう、さっきのあなたの演技は、下手だね。もう少し、お客さんにばれない様に演技しないと。行く時、知らないと言ってたけど、ラフレシアが咲いているのは、あなたの表情ですぐ分かるし、突然、藪に入っていった段階で、咲いている事を確信した。だって、咲いていない場所に行く為に、藪に入っていくのは、変だよ。どう考えたって。もう少し、普通のトレッキングの道を行ってから、あの方角に行かないと。もっと、付け焼刃じゃなく、ちゃんと演技しないとみえみえだよ」。一瞬、私の手の内が全て見抜かれている事に赤面しながら、一方で、この人は一体何者なんだという疑念が沸いた。あまりにも、全てを見据えている人だ。ホテルに到着する直前に、その人は「失礼、失礼、ホテルを出発した時から話に夢中になって、忘れていたよ。名刺を渡しておこう」と言った。そういえば、ホテルのロビーでその人と会った時、私は名刺を渡したのだが、その人は、車内で渡すからと言って、そのままだった。その人が名刺を私に渡した瞬間にホテルに到着し、その人と軽く挨拶をして分かれた。その人は、最後に「頑張ってください」と言って、ホテルのロビーへ消えていった。そして、私は、車に戻り、その人の名刺を見てみると、日本人であれば知らない人はいない某旅行会社の「代表取締役社長」と書いてあった。その後、何人かの同程度の役職の人に会うことが立て続いた。これも、イバン族の夢占いは的中だった。さらに、数年後、同じイバン族の少年弟分が、今度は、私が沢山のワニに囲まれて、川にいる夢を見たそうだ。その頃には、次に、何が出てくるんだってな感じで、逆に、その夢占いを楽しんでいた。この時は、しばらくたって、突如として、サラワク州の政財界では著名な人々と日本に数日だが行く事になって、これも夢占いは的中した。
最近では、その少年弟分も、私がワニと一緒にいる夢を殆どみていない。多分、私の邪念があるからかもしれない。私も、ワニと一緒にいる夢はみることが出来ない。邪念が多過ぎるからだ。歯が抜ける夢を出来るだけ見ない様に、歯医者には適度に通っている。歯が痛いと、歯の夢を見る気がして怖いからだ。もう一つ。あなたの洋服(布地)が盗まれたり、取られたりする夢は、あなたの大切な人が奪われるという夢だそうです。そういう夢を見た人は、あなたの大切な人の事を今以上に思いやって下さい。

「あらゆるできごとは、もしそれが意味をもつとすれば、それは、矛盾をふくんでいるからである」(ヘンリー・ミラー「北回帰線」)
PS. 今回は、イバン族の夢占いでした。うっかり、イバン族の人の前で夢の話をすると、その意味を言ってきますので、出来るだけ、夢の話をしないようにしてます。良い予兆だったら良いですけど・・・。
 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?