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イバン族の食文化 09/11

その昔、彼らの狩猟の武器は、吹き矢だった。

非常に硬い木のテツボクを利用し、その吹き矢の先には、槍がついていた。

槍は、追い詰めた時に、とどめを刺すのに使われる。
矢は、ヤシの幹の硬い部分を、竹串の様な形に作り、先を尖らせ、毒を塗る。
毒は、獲物の種類や大きさによって、いろんな種類を使う。

一般的な毒は、イポーと呼ばれる種類の木で、その樹液が使われる。予め、矢の先に塗っておき、矢筒に入れておく。矢も、獲物によって、微妙につくりが異なり、特に、大きなイノシシ等は、矢が刺さっても、体を大きく動かすと、抜けてしまう事が多いので、矢に「かえし」が着いている事が多い。

その「かえし」は、近代的なものでは、鉄製のものもある。
しかし、一番手っ取り早いのは、毒のついている矢の先の部分に、切れ目を入れておく事で、イノシシが体を大きく動かすと、その切れ目の部分が折れて、毒の部分だけ体内に残る方法だ。  

最近では、吹き矢を使って狩りをするのは、ごく限られた民族だけだが、銃も誰でも購入できるという訳でもなく、現在は、新規の銃の登録は、認められていない。

今ある銃は、マレーシア独立以前に登録されていたものを、代々受け継いだものであり、銃を誰が受け継ぐかというのも、遺産相続の課題の一つになっている。

又、銃弾にも制限があって、サラワク州の森林局が、各村の銃の保有数と、森林の大きさと、狩猟可能な動物の概算生息数から割り出された、銃1本当りの1ヶ月当りの銃弾の数が限定されており、村によって配当銃弾数は異なるが、通常、1ヶ月1本当り、15~20銃弾しか配当されない。

狩猟可能な動物とは、比較的生息数の多いもので、イノシシやシカの類となる。その昔は、食べれるものは、何でも狩りをしていたが、現在、サラワク森林局による希少野生動物の保全活動の為、先住民族への啓蒙を行うと共に、厳しく制限が行われている。

例えば、以前は、クチン市内の市場で、オオコウモリ(フルーツバット)が鳥篭にぶらさがって売られていたが、90年代中期以降、オオコウモリの重要性が再認識され、今分かっているだけで、ドリアンを始めとする170種類以上の果樹等の樹木の受粉や種子の分散がオオコウモリに依存しているという事から、保護されるようになり、オオコウモリを市場で見なくなった。

イノシシやシカでも、先住民族の人が食べる為の狩りは許されても、売買を行うと、犯罪になってしまう。売買を始めると、過剰な狩猟が増える事が予想される事から禁止されている。  

といっても、先住民族の村に訪れると、いろんな珍しいものを食べさせられた。
マメジカ、オオトカゲ、ニシキヘビ、オオコウモリ、スイロク、ヒゲイノシシ、原型をとどめない鳥、ハリネズミ、センザンコウ、リス、鼈などなど、あげるときりが無い。野生動物の肉は、独特の臭いがあるので、通常、炒める時に、生姜などを入れて調理する事で、臭いを抑える。

最近では、醤油を入れたりもするので、どれも生姜炒め状態で、味を聞かれても、何とも表現が出来ない。歯ざわりや感触が違うだけで、味は、生姜炒めだ。

一度、シルバーリーフモンキーが出てきた時には、驚いたが、流石に、これだけは、食べる事が出来なかった。
原型はとどめていないのだが、そのお皿の上の食料が、猿である事を聞いてしまった以上、その皿が視界に入る度に、クチンのバコ国立公園にいるシルバーリーフモンキーの群れを思い出して、少し悲しくなったものだ。

でも、もし、それが猿の肉だと聞いていなかったら、きっと、何事もなく食べていたかもしれない。

最近では、サラワク州の森林局の指導が効果をなしているのか、ゲテモノ系の野生動物の肉を見る事が少なくなり、イノシシやシカが中心になっている。

ある意味で、効率的かもしれない。イノシシやシカは、肉の部分が多い。一方で、それ以外の動物の肉は、比較的、食用になる部分が少ない。
食用の肉は、燻製にしたり、塩と麹につけて保存食にしたりして、長期保存が可能なので、1回の狩りで獲れる肉の量が多ければ多いほど効率的だし、1発の銃弾で獲れる肉の量が多ければ多いほど、更に効率的だ。

労力も最小限で済ます事が出来る。イノシシが狩りの獲物として、一番喜ばれるのは、頷ける。  


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