リーサル・ウェポン

森田靖也(旧表記:オマル マン)氏との対談、第75回目。

K「加藤さんこんにちは!  今、茂木氏の動画を見ていて、ちょっと気になったので、ピックアップします。茂木健一郎氏のお笑い論。」

#茂木健一郎 #脳の教養チャンネル #クオリア日記
日本のお笑い市場のリアルとスタンダップの未来
https://www.youtube.com/watch?v=gC_3KfGxvG4&t=88

「お笑い芸人のぜんじろう曰く、日本のマーケットでは、ロジックよりリズムだと。お笑い市場はリズムの笑いが主流。 ウケている人は、リズムがあると。もうひとつが「自虐」と。[茂木氏は]講演などで慣性で、目の前の聴衆に合わせてしまうので、 そうなると、どうしても世の中に散在するマイノリティを取りこぼしてしまう。その市場原理主義では取りこぼしている、ロジックの笑いを、自分は届けていきたいと。茂木氏はグレングールドを例に挙げつつ、意見を述べている。なぜか、タイムリーに思い浮かべたのが、下記の池内恵のツイート。 たまたま目に入ってたんですよね。」

Satoshi Ikeuchi 池内恵@chutoislam·7月12日
なお今でも大学人文・社会系界隈では、「あいつは反共」だと言うのが「バカ認定」である世界が存在している。以前は「共産主義に反対するなんて知識人とは言えない、バカだ」だったのが最近は「今どき反共なんて古い、バカだ」に論理が変わっているのだが、党派性は変わらない。
https://twitter.com/chutoislam/status/1546817931270447105?s=20&t=0DSaeZHfjNqG2hMmlwJ0tg&fbclid=IwAR1PGkOHvnSYPm9yBtg8At1GBV4tGqkODBy6oRQAQT_TIoPLStJqAgrvXZY

「茂木健一郎氏のいう「ロジック」とは何か? 以前、茂木氏は「歴史なんか糞どうでもいい」とユーチューブで言い放って、炎上したが、この茂木氏の「歴史主義」イコール「バカ認定」ということと、 (池内氏のツイートの問題提起とに)微妙な「線」がある気がしています。ぜんじろう氏の笑いが、基本的には「政治」を背景にしている点もあわせて気になる。茂木氏はそのようなぜんじろうのスタンスに全幅に共感。たびたび称賛しているのが、ジョーローガンエクスペリエンス。「俺はお笑いレジスタンスだ!」と。私はこの茂木氏の態度を、非常に興味深く見ています。」

K「森田さん、こんにちは。今、茂木氏の動画を見ました。ぜんじろうを私は全く知らず、地上波テレビを見ることがこの20年来ほとんどないので、申し訳ありませんが、意味は一応理解できました。丸山真男の問題ですよね。森田さんが言いたいのは。」

M「丸山真男の問題ですね。」

K「丸山真男の「蛸壷型」(日本)と「ささら型」(西欧)の議論。」

M「茂木の「タコツボ」と「ササラ」、そのどちらの方向とも異なった視点を提示しようとする。その挑戦。我々はかねてより、茂木氏をさまざまな角度から批判してきたが、 裏を返せば、そのくらい評価が高いわけですよね。 例えば、加藤さんの「師」でもある工藤哲巳ともアナロジー可能ですらあると。」

K「茂木氏と、上記の池内氏のツイートの間にある「線」とは、どういうことでしょうか?」

M「池内恵のツイートと、茂木氏については、「弱いつながり」、でしかないですが、茂木氏のある「仕草」についてのアナロジーですね。歴史主義=オワコン、という茂木氏の仕草。池内氏が言及しているのは、歴史主義ではなく、かつての知識人層の「マルクス主義」へのスタンスなのですけど。このかつてのインテリ像の仕草と、茂木氏の現在の仕草との「つながり」。改めて言うまでもないことですが、茂木氏は、場当たり的な言説をするようないい加減な人物ではありません。根底には一貫した「ロジック」があるはずです。」

K「茂木氏にはロジックがありますね。明瞭です。いろいろな表現手段を使っているが、コメディだったり、走るという身体性を伴いながら語ったり。それらが繋がっている。内容的に。」

M「つながっているのですよね。」

K「自己の身体や思考に、信頼があるのですね。あるいは、意志してそうしようと。そこに忠実であろうと。」

M「そして、その思考は、他人から見て想像できる範囲をはるかに超えて、複雑なのでしょう。ただ私個人の所感ですけど、なんとなーく、茂木健一郎の「思想」はつかめている気がしています。もう何年も彼のユーチューブを見ているので。」

K「その信頼を手放したら終わりだと。一つには、日本の蛸壷型空間に還元吸収されてしまうことへの、抵抗。」

M「そうですね。茂木氏はナショナルなもの、リベラルなもの、どちらも嫌いだと。それはタコツボへの道だと。だから、じつはもっとも丸山真男的な図式へ、抵抗している。そして今回の安倍元首相の事件においても、やはり彼のこの抵抗的な身体性は炸裂している。」

K「だから、ぜんじろう氏のリズム中心の日本的お笑いの身体性の有効さを認めつつ、ロジック方向のそれを、茂木氏は丸山的な区分けにも逆らいつつ、どうしようとしているのかという。そこに、森田さんは茂木氏の複雑さを見ている。」

「茂木氏、炸裂していますね。茂木氏に銃弾が貫通したような。まさに。」

M「そこに、茂木氏の日本人離れした「ロジック」を見るのですね。彼がやりたいことは歴史学的な「解釈」ではなく、そこを離れて、もっと大きな流れをつくりだしたい、という志向性なのです。」

K「茂木氏曰く「偶有性の海へ飛び込め」という。」

M「そうですね。それは、日本的な感性ではない。安倍元首相が凶弾に倒れてまだ1週間たってないですが、Twitterを見ると、酷い状況になっています。こうしたものは、まさに日本的感性。」

K「私がコロナ最初期の時期に奇しくも開催した個展に掲げた主題、「危機とルーレット」とも、重なるものだと私は思いました。危機の中で、「何が起こるのか分からない」、まだ方向が定まっていない、ルーレットがくるくる回っているような時空。」

M「そのようなときにどう動くかが、真価が問われる。後付け軍師はいらない。スイミーもいらない。解釈もいらない。「危機とルーレット」ですね。危険と戯れる。茂木氏がどこまで「危機とルーレット」に肉薄できるか?という点はさておき。」

K「私自身、美術で想起すると、彦坂尚嘉氏の語る歴史主義的思考に、面白くなさを感じていた。リニアな。銃弾とか、ルーレットとか、全く関係ないのですよね、彦坂氏の身体や思考は。座布団の上で一人で語っている。」

M「ドンくさいですよね。歴史的態度の信用が落ちている、というのはありますね。ここ10年くらいで失墜した憾。これは体感するところです。リベラルも駄目、保守右翼も駄目...と。」

K「彦坂氏の話を聞いていて、私はブチッと途中で切ってしまう。」

M「マイノリティとマジョリティの対立項を提示して、「マイノリティ」側の人間は想像界の顔でしかない...とか。タコツボぉ~な。」

K「リニアな(病床でページを繰る美術全集と、「現実」を照合した)美術論というのは、真に現実を生きている身体と思考には、面白くも何ともなくて、当然ですね。」

M「そういう態度の、どんくささ、「緊急性」の欠如というか。茂木氏が毎度「政治」の中心にむかって身体ごと突っ込んでいっているのとはそこが違う。」

K「茂木氏は突っ込んでいっている。」

M「つっこんでますよね。すごい。しかも、常に、なんだかマイノリティに肩入れする態度も、面白い。」

K「池内氏にもない。それは。自分の規定の陣営から言葉を発している。そういう政治性。政治性の質が茂木氏は違う。」

M「池内氏は、ある意味潔い(笑)。信用はできる。」

K「東大の中に基地があるような。それはそれで、大勢(体制)の中で懸命に時間をかけて形成した。少数派の基地。それを根拠地に。」

M「タコツボ感はすごいですよね。」

K「どうしても、そうなりますね。年下の小泉悠氏の監督というよりはステージママのような。「家庭」モデル化を、私は感じてしまう。」

M「ただ今回の件、そうとう舵取りが難しいと、感じました。2020年以降、いままでいろんなことがありましたが、ついに、真打が出てきた感じです。シャレにならない。バランスをとるために、それぞれの言論人も、今まで以上に考えているとは思うのですね。」

K「上記、茂木氏と工藤哲巳のアナロジーって、どういうところでしょうか? 身体?」

M「工藤哲巳的「可愛い」身体性の今日における体現版みたいな。「政治」にあの可愛い体ごとつっこんでいく、とか。そういう部分ですね。あの工藤哲巳の、観客にスプレーを吹きかけるパフォーマンス。あの方向性を茂木氏に見れる気がしている。そのロジックについても[1]。」

[1] 参照。

K「なるほど、「可愛い」の方向ですか。確かに。工藤はよくパリの街頭で外国人と乱闘していたことを、当時の同時代の美術人が証言している。同時に「可愛い」がられていた。渡欧した60年代初頭から、末の「5月革命」の時期ですね。」

M「そうですね。5月革命の時期の。なんだか、今の時代の空気ともシンクロしているような。」

K「殺伐さが、リンクしているか。」

M「そうですね!不穏ですよ。」

K「美術全集的な世界観では、もはや収まらない。「美術史オタク」っていう、90年代以後の範型のアナロジーでは。」

M「いままでの、「あれは右だ、いや左だ」的なオタク的、床屋談義的な世間は、古くなってしまうかもしれない。今後は、徹底的に首尾一貫した人間だけが信用される世の中になるかもしれません。そのような世の中は、必ずしも、良い世の中ではないかもしれないけれど。だから、茂木氏は「ロジック」と。一つ言えるのは、世界全体視的に見ても、世界は貧しくなっていっている。貧しく、混乱した世界に。」

K「ロジックは、丸山ではささらの方向ですよね。サロンとか教会の空間性(?)。横断的な思考が可能な。ロジックは、蛸壷の壁を飛び越える。」

M「そうですね。ただし、丸山的「ササラ」のロジックとは、また茂木氏のいうロジックは違う感じがしますね。横断性という点では親和性があるが。どちらかというと、茂木氏のやり方は「政治」を起爆剤にして、身体をダッシュさせるような。そこが結果的に「横断的」に見えるというか。」

K「貧しく。」

David Atkinson@atkindm·7月13日
世界の人口増1%割れ 戦後成長の支え、転機に: 日本経済新聞
https://twitter.com/atkindm/status/1547013322771660800

M「ピケティなんかも、かなり前から言ってましたね。いまの世界の成長の仕方をみると、この成長ロジックのままでは、21世紀はもたないと。人口が増え続けて、健全に人口移動が起きて、はじめて成立すると。20世紀後半の人口増があってはじめて成り立つ現象ということですね。ピケティを読むと「~だから、戦争はたびたび必要」という、恐ろしい裏解釈も。もちろんピケティはそんなこと言わないけど。」

K「戦争と、人口の増減は、通時的にどのような相関が? 一般的に。一時的に減って、その後ぐんと増えるという方式ですか?」

M「ピケティ曰く、20世紀初頭に一度、経済が飽和するのですね。世界大戦によって大幅に人口が減り、資産家たちの資産が四散して、そこからまた成長の軌跡に乗った。それは統計データを見れば如実に分かると。」

K「筋トレも同じですね。負荷により筋繊維が破壊され、それを補い増える過程の弾みで、倍増すると。」

M「で、20世紀後半からは、ずっと成長を続けていたのですが、このままのグラフを続けるのは、21世紀には200億人とか(うろ覚えですが)そのくらい人口がないと無理と。人口的にも物資的にも領土的にもいずれ、限界がくると。この惑星がもたない。ゆえに今後世界が「貧しくなる」のは私たちのせいではない。構造的な問題の帰結です。世界大戦が来たら、一気に事情が変わるだろうが、もしそうなれば、少なくとも私は生き残っていないだろう(笑)。すごい勢いで、世界が動いています。」

K「経済成長志向は、必然的に戦争によるその人口増減のダイナミズムを必要とすると。ゆえに、「世界大戦待望」論。万人の無意識の中に。しかし、現実には、世界大戦の気配はない。戦争は局所集中し。「貧しくなる」というのでは、私は先端ですね。」

M「同じく私も。」

K「他の美術業界人の誰よりも。制作費に当てられる、月額だけ見ても。確実に私は最下層だと思いますが、実は不満もない。」

M「同じくです。不満などない。全力で闘っている。兄は金持ちだが、見ていて不憫に。私の方がハッピーです。毎日卵かけご飯しか食べてないけど。しかも超健康体というべき。漁師なみに早起きだし。」

K「森田さんの身体は、最先端。文明の最先端の、表象ですね。」

M「「ササラ」を真に体現しているのは加藤さんでしょうね。」

K「ああ、先日[対談外の雑談で]語った、「骨組みだけ」の言語性志向。」

M「その頭脳は、茂木氏をも超えている。現代アートのリーサルウェポン。加藤豪を、殺す(by 会田誠)。」

K「そうそう、(笑)。会田も私を言語性、厳密性みたいな揶揄を、よくしていました。曰く「言葉に反応する」と、小沢剛も私を称して。」

M「真に「無意識」へ接続するには、言語が必要です。茂木氏もそこは気付いていると思っています。そのロジックの中心に「政治」があると、私は睨んでいる。」

K「そうですね。>真に「無意識」へ接続するには、言語が必要です。」

M「ちなみにホリエモンと箕輪厚介が対談してる動画で、箕輪氏が鬱な顔になってて、調子のいいことを言えないと。こんな事件があっては...と。「調子のいいこと」が言いずらくなってしまった。その通りだなと思います。」

K「箕輪厚介氏って、私はよくは知りませんが、ニヤニヤしてトークする人ですよね。その質感だけ、記憶がある。」

M「そうそう。調子のよい感じの編集者。幻冬舎の若頭ですね。」

K「あ、編集者ですね。Lineでの著者とのやりとりが暴露され、前に取り沙汰された。」

M「そうですね。死ぬこと以外かすり傷...とか吹いてた。ピーヒャラと調子こいてた人間が駆逐されはじめている。2020年以降、圧力が上がり過ぎている気がしますね。ロンブー淳とか、いまや言論人に変身しているし。」

K「「調子のいいこと」が言いずらくなってしまった、それはリアルですね。貴重な証言者。現在の。」

M「茂木氏が「チャラい奴は嫌いだ!」とシャウトするときに、思い浮かべているのは、きっと箕輪氏(笑)。」

K「まさに。ドンピシャの感覚。」

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