5億年ボタン
森田靖也(旧表記:オマル マン)氏との対談、第63回目。
K「森田さん、こんにちは。対談テーマ、また何かあったら、よろしくお願いします。日々、考えていることなどでも。あるいは、「一番大きな」テーマでも良いですが。例えば、現代文明について。また、かねてから森田さんが「美」に着目しているのは、私は大変面白いと思っています。」
M「加藤さん、こんばんは! 日々考えていることは、私もいろいろありますね。ネットの方というか、現実のリアルの職場の方で。特に。もちろん、私もそうですし、私の親とかもそうですけど。人って、歳をとると、ある種の傾向が出てくるんだなと。二種類に分かれていく。親族とのコンプレックスを解消できた人と、そうじゃない人、というか。あきらかに苦しそうというか。どうも、歳をとってますますヒステリーな感じの人がいて、もう一方で、悟っているような感じの人がいて。かくいう自分も解消できているかは、わかりませんが。芸術の問題とも、根っこでつながっている気がします。」
K「親族とのコンプレックスの問題、これへの言及が多い研究者として、かつて私の知人であったフロイト・ラカン派の清田友則氏がいます。氏は日本の男性は(隠しているが)ほとんどマザコンだとSNSで発言していましたね。発言がかなり大胆な人です。母娘密着についても、Twitterで発言して炎上。氏曰く「SNSで命を捨てるほどには、愚か者であることを自認」と。」
「参照。」
M「加藤さん、こんにちは! 展開ありがとうございます。上記の問題提示、興味深く読みました。これはマイノリティの問題ではなく、万人が向き合わないといけない問題だと。ここ数年の社会傾向を見ても。深く確信するところです。このような、あまりに、 あまりにクリティカル過ぎる問題を思考するときに、 たいていの人が見せるのが、 「そうとはいってもさ...」で思考を切断する身振り。 「現実みようよ」と。 しかしその者がいう「現実」には、まったく現実感がない。」
K「清田さんの「絶望論」はそういうものでした。だからマイノリティに焦点を合わせた、現代思想を否定。主語は「我々」でなければならないと。」
M「マイノリティの問題に囲い込むことで、(大半の人たちに)「君たちはそのままでよいよ」と。端的にいって「その君の雑な頭のままでいいよ」と。」
K「そうですね。」
M「その言及性が、その大半の人達のかかえている欲望にむかうと、破壊されることなるでしょうから。大量の犠牲者が出る。」
K「例えば、発達障害の当事者問題に集中させることで、既製の(例えば、現代アートという)制度内に囲い込むと。よく見る光景。」
M「今まで、私たちが直接/間接的に言及してきたことですね。一貫して。自己の問題を、ぎりぎりのところで回避することができる。わかりやすいEXIT機能としての発達障害。「これはあなたの問題ではないです。この呪われた者の問題なんです」と。深層心理で「ホッ」とさせるのですね。うまく出来ている。ここ数年、何度も何度もその骨法のマーケティングを見てきた。」
K「(同時に、)あくせく働く「社会」を下に見て、「反資本主義」を意匠として纏えば、そのような大枠の「我々」を問わずに、業界制度内で安定して「自己」実現できるという現代アートの方式。その紋切り型。」
M「私は、数年ぶりに筆をとり、絵画を描いて。 その自分の作品を眺めて、空虚さに慄いたのでした。 そうだったのか。空虚さが、自分の本性だったのか、と。今、話している問題と、深くつながっているのです。加藤さんに深く感謝しないといけないと思っているのです。ほんとうに、なんにも考えずに、描いたのです。そして描いた作品を見たら。」
K「私は、何かを持続しているのか、美術家として(例外的に)やはり・・。」
M「「殺し屋イチ」っていう、心理学を援用して成功した漫画があって。 かなりエログロですが、 一般的にいっても、ヒット作なんですけど。 あれも今思うと「空虚さ」がテーマだった。90年代末、ゼロ年代はじめ頃。」
K「今、画像検索して見ましたが、登場人物がやたら泣いていますね。」
M「主人公が、泣きながら。登場人物を殺しまくるんです。」
K「なるほど。」
M「清田氏の言説の質と、とっても似ている。あの漫画の世界観は。漫画のオチをいうと「...それでも欲望には限りがある」。主人公も欲望がすっかり、東京に吸い取られて、普通の人になって終わる。」
K「殺しまくって、普通の人として終わる。何かリアルですね。」
M「「空虚」をよく表している。」
K「そうですね。「自分」の欲望なんてなかったと。」
M「そう。自分の欲望なんて、ほんとうはない。凡人は「無為」には耐えられないと。じっさい、その通りではないか?」
K「うーん。」
M「「みんなのトニオちゃん」って漫画があって、「5億年ボタン」ってあって。 これもネットで大ヒットしたやつですね。 かなり怖い漫画なんですけど。 5億年、異空間でじっとしてたら、100万あげる、って漫画で。これもゼロ年代ですね。」
K「100万!(笑)。面白いですね。」
M「めっちゃ怖いんですよ...。人間の本性をよく描いてて。私も知らぬ間に、めちゃめちゃ影響を受けた。」
K
M「そう、これこれ。極端な表現かもしれないけど。清田氏の提示している問題と、深い部分で、つながっているのではないか?」
K「すごく怖くて面白い。私のようだ(?)(笑)。」
M「加害者、加藤豪。」
K「つながっていますね。」
M「つながっている。だから、メガヒットしたのですよ。けっきょく、自分を無視しているんですよ。ほぼ99%の人。やっぱり、そこだけは、見たくないから。」
K「自分を見たくない。鬱になるから。」
M「ほぼほぼ、鬱になると思う。毒親!とか言ってた方が、まだヘルシーですよね。でもアーティストですら、例外なくその身振りっていうのは、モラル違反では?という想いも。というかTwitter見ると、アーティストこそ、毒親!とか発達障害!とか。言いまくってますよね。」
K「処方箋ですね、「毒親!って言っていなさい」と、アーティストの。言っていますね。」
M「「お前なんで美大行けたんだ!」って話で。つっこみ所しかない。」
K「確かにそうですね。「精神分析」が流行るのも、根治目的ではない。」
M「そうですね。ですが、根治目的を行使すると、死人がでるかもしれない。」
K「確実にそうですね。もう出ているし。清田さん自身、この後心臓の難病に罹ってしまった。鬱病薬と、アルコールと、ホラービデオの反復の結果(?)。」
M「一方で、おそらく、優れている人ほど、本質的に、空虚ではない。誰よりも、自己と向き合っているだろうし。自己への配慮ということでしょうが。」
K「私は空虚ではありません!」
M「そこは、もちろん!」
K「人を愛しているし、芸術を実践している。」
M「生産的ですね。加藤さんの生産的な生き方。ボイスの空虚さ。」
K「ヨーゼフ・ボイス=会田誠の空虚さですね。その空虚さを肯定する、「格付け」の彦坂尚嘉。業界人の群れ。」