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短編小説 / dawn girl

 寝癖うざい。
 なんでだろ、寝相良い筈なのに。
「眠、」
 真夜中の冷たい空気は好きだ。いつも私を攫ってくれる。早く真夜中になって欲しい。星なんて出なくていい。ただ、あの冷たい真夜中になって欲しい。なんて、まだ夜明けすら来てないのに。
 だから私はおひさまが嫌いだ。
 目が覚めちゃったらとりあえずベランダに出て煙草。空気を吐いて風を浴びながら、なんか色々考える。在り来りなこと。世界が止まってるみたいだーとか、地球滅亡が実は何分か経ったら来るんじゃないかとか考えて、馬鹿みたいな妄想だけで煙草吸うの好きなんだよな。
 私が煙草吸ってるのって意外なのかな。なんか無駄に格好良いとか思われてそう。嫌だな。
「不味い」
 東京の空気は恐ろしく霞んでるのに、こういう時だけそれっぽく美しく見えるの何なんだろ。
 懐かしいな。もう。あれ何年前だっけ。私まだ大学生だった。誰もいないファミレスの、一番奥から二番目だか、三番目だかの席。
 全部どうでもいいみたいな顔してたからムカついたなー。
「嫌だな、もう全部」
 煙。身体に悪い煙。
 遠くで響く電車が煩い。

『そうやって私の匂いを覚えればいい』

 何も変わってないんだな、私。多分。まぁ変わりたいとか変わりたくないとか、そんなこと気にしてても苦しくなるだけなんだけど。
 また煙草を吸って、吐いて、その煙が儚く風に流されていく。

『やめてよ』

 今何時だろ。スマホ持ってないや、時計見えるかな。
「ん、四時半」
 四時半。四時半。この前まで明るかったのに。そっか、もう秋か。
 私の知らないところで、また世界が進んでる。

『わかるでしょ?』

 昨日のことも覚えてないのに。
 なんかお腹空いちゃったな、ご飯あったっけ。昨日スーパーでカップスープ買ったな。そうだ、明日の朝は肌寒くなりますってニュース見て買ったんだった。
 でもまだいいや。空気が冷たいうちは。少しだけでも此処にいたい。

『ごめん、私帰る』

 大人になった筈なのに、子供みたいにすぐ嫌になって、お酒と煙草に逃げて、また馬鹿みたいに泣いて。
「………っ」
 無意識に詰まった感情で煙草を噛み潰してると思ったのに、私の歯は思ったより弱くて煙草はベランダの床に落ちていた。裾で涙を拭いて、その煙草を足で潰して部屋へ戻った。
 ケトルで沸かしたお湯をカップに入れてスープを作った。飲みながら、スマホのカレンダーで今日の予定を眺めて、早くまた夜が来ないかな、なんて考える。
「い〜きま〜すか〜」
 どうせ乗り越えられる今日が、また始まる。

『わかった』

 スーツに着替えて、重苦しい玄関のドアを開けて鍵かけて。電車に乗って仕事へ行く。帰りにはスーパーで割引きされたお惣菜買って、また夜中には煙草を吸う。それから、

『さよなら』

「え」
 反射的に時計を見たら9時過ぎだった。こんなに美しく眠れたのが久々すぎて混乱してる。
「やば、行かなきゃ」
 急がなきゃ何かが変わる現実と、逃げたくなった私。あー、嫌だ。嫌だ。もう。
「やっぱりまだ寝よっかな」


スタエフ文藝部『綴』一期 10月度提出作品

お題:自分と違う性の人の話

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