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困った患者さんの話②
前回紹介した職場でたまに遭遇する困った(患者)さん。思いの外記事が長くなったので半分に区切って後半はコチラで紹介したいと思う。ここからは接客がメインになる飲食店や他の業界などでも共通しそうな内容なんじゃないだろうか・・・。
前回のお話はコチラ↓
「ああ、うちでもあるわ~」なんて共感して頂けたらなんとなく嬉しい。
そんなわけでさっそく本題へ。
困った度(★★★★☆)
今回のケースは時期は限定されておらず、強いていうなら日常的に一番多いパターン。
そして『困ったさん』は決して大人ばかりとは限らない。
物心がついているだろうお子様にも多いのだ。
ある日の事、ちょうど午後の診療が始まって少ししたくらいだったと思う。
予約の受診が多い日は、同時間帯に患者が集中することもあり、そういう時に限って子供同士の喧嘩が勃発し「ギャアアアアアーーーー」と大きな泣き声がしたり、それを叱り付ける親の声がしたりでちょっと大変な時もある。
ひどいと電話の通話中の相手の声とかかき消されるから。
けど、一つハッキリと声を大にして言いたいのは、問題なのは騒いでいるお子様じゃなくてその親御さんの方だ。
わが子が待合室で騒いでいても、お金を払っていない商品のドリンクのプルタブを勝手に引き抜いても、自動ドアから道路に飛び出して行こうとしても全く気づいていない。
まあ、無関心。
「やめなさい」って口では言っても行動が伴っていない事が多い。
だって「やめなさい」って言ってるその視線は子供の方ではなく既にスマホの液晶に向いているのだから。
小さい子供にとって、家の中から一歩でればそこは「いつもと違う遊び場」。
ここが「病人さんがお薬をもらいに来る場所」だとは思っていない。
もちろんそれは物心がまだつかない年齢の話。
わかっていなきゃいけない年齢の子だとなおさら困る。
親がまともに注意しないとは言え、スタッフもはっきりと営業妨害?と思えるよほどの事でもない限り下手に注意できなかったりする。
待合室の他の患者さんの中にもごくたまに年配の方が「危ないよ!」とか「やめなさい!」とか子供に注意している場面もあるのだが、そこで初めて子供の母親が「あ~、すいませーん」と抑揚のない声で出てきて子供をひっぱって連れていく。
そういう子供の親が自分達とそう変わらない世代だから余計に悲しいなぁと思うこともあるのだ。
あまりに無関心で野放しにされている子供がすぐ近くで騒いでいるとき、とりあえずこっそり実践していることがある。
それは子供の方に目を向けて「静かにしろ~静かにしろ~」と催眠術をかけるように心の中で唱え、こっちに気づくように促す方法。
決して「うるさい!」とかいった類の強い言葉を念じてはいけない。
そうすると目線もキツくなって睨んでしまうから。
だから子供にだけ気づくような視線をじーっと送り続ける。
(これはハッキリ言って私が勝手にやっているだけなので全くオススメはできないが、たまーに効果がある。)
視線って不思議なもので見られているっていうのを感じると必ず振り向くものだ。
やっと気づいた子供と目が合った。
何度も言うが睨んではいけない。
目が合ったら今度は目線で訴える。
「さあ、ここはどこだ?向こうに体調の悪そうなおばあちゃんがいるよね?ここは大きな声を出す場所じゃないよ。わかったら静かにしなさい」とひたすら心の中で念じながらその子の目を見る。
そしたらちょっと間して子供が黙る。
まさか私の心の中が読めるわけはないだろうから、「ヘンなおばちゃんがガンたれてくる」とかでも思ったのか黙って母親の元へ逃げていったりすればこっちのもの。
そうこうしている間に薬も準備できて投薬の順番も回ってくる。
ただこういう患者様って意外と次回の予約も多くて月に何度かいらっしゃる。
毎回は効果がないので一番ひどいときだけ使用する手段。聞き分けのないお子様(もといその親御さん)に困っちゃうケース。
頻度が高めなので★4つ。
さて、いよいよ登場するのが最強の困ったさんだ。
困った度(★★★★★)
これは年に1回あるかないかくらい。
ないことを願いたいがその患者様がいらっしゃる時は覚悟が必要。
なぜなら数日に渡って面倒なことが長引くからだ。
これも数年前に実際にあった出来事。
毎回皮膚科を受診されてうちの職場に訪れるある女性の患者様。
(以下Aさんとしておきます)
パッとみた感じは別に違和感もないごく普通の女性。ところが、毎回投薬後の会計の段階で必ずモメる。
ちなみにその時はこうだった。
口唇ヘルペスができ、抗生物質の入った塗り薬と内服薬が2種類出た。
お薬を用意し、監査も済ませ投薬カウンターへ。
Aさんの名前をお呼びし、症状を確認しながら今回出ている薬の内容を説明する。
ここまでは別に何も起こらない。
「では、今回は2,250円になります」
そう薬剤師が言った瞬間初めて言葉を発した。
「え、なんでそんなに高いんですか?」
医薬品にはそれぞれ国で定められた薬価というものがあり、それを元に処方された全量や処方日数で金額が決まる。
元々薬価が高い抗生物質が出ていることで保険がきいても今回の金額になってしまうんですと説明したら、
「じゃあ、飲み薬の方は要らないです」というではないか。
投薬にあたった薬剤師は彼女の服薬の履歴を再度確認する。
そこには2年前にも同じ症状で軟膏が処方されたがあまり効き目がなかったため、今回内服の錠剤が追加されたのだろうと思われた。
「前回こちらのお薬だけでは効果が得られなかったので今回は飲み薬も処方されたんだと思いますが、塗り薬だけでも大丈夫でしょうか?」と確認したら「同じ薬が家にも余ってるんでそれでいいです」とのこと。
どちらにしても一旦処方されたお薬を薬局の判断で勝手に中止したり増減したりはできない。
処方医に確認してキャンセルしてもらわないといけないため、その旨を伝えて薬剤師は病院に確認をとる。
医師の承諾のうえで飲み薬の処方はキャンセルとなった。
「じゃあ今回は塗り薬のみになりましたので540円になります」
なんとか会計を終えてお帰り頂けた。
・・・・・・と思った翌日の朝。
薬局の夜間転送用になっている会社の携帯電話を持ち帰っていた同僚薬剤師がげんなりした顔で出勤してきた。
「どうしたんですか?」と聞くと、例のAさんから夜中電話がかかってきて、「家に帰ったら飲み薬がなくて貰いたいんだけど薬を出してくれ」と電話があったらしい。
いや、あなたが「家に余っているから要らない」って言ったんじゃ?と思ったものの、現場で不在だった為投薬時の内容を知らないその同僚は「処方箋がないとお薬はお渡しできませんので申し訳ありませんが明日再度病院を受診して頂けますか」と言ったそうだ。
そこからしばらくゴネられ、挙句に逆ギレされて電話を切られてしまったらしい。
すぐに上司と投薬にあたった薬剤師のKさんに話が及んだ。
実はこの患者様の今回のような件はこれが初めてではなくもう三度目。
「今度電話があったら僕が出ます」とKさんが言ったその時、薬局の電話が鳴った。
後輩が電話をとってくれたのだが、話している途中で何度か聞き返しているかと思ったら「あ・・・切れちゃった」と首をかしげる。
電話の主はAさんだ。
ところが電話の声が遠かったのかほとんど内容が聞き取れなくて後輩も一生懸命聞き返してくれてたのだが、急にプツっと切れたらしい。
するとすぐさままた電話が鳴る。
今度は私が出た。
私が名乗るより先に「電話切れたんですけど」とキレられる。しかもやっぱり聞き取りづらくてほとんど内容が聞こえない。
「申し訳ありませんが、お薬の件でしょうか?」と聞き返したところやはりブツっと電話が切れる。
なんなんだ?!
「また電話切れた・・・」
それもどうも女性が相手だと声色というかトーンが全然変わってすごく怖い。
昨日の投薬時の時と随分雰囲気が違う。
再度電話が鳴る。
今度はKさんが出た。
ところが三度目の電話は向かいの病院の受付からだった。
内容は先ほど何度も電話をかけてこられたそのAさんの件だ。
どうやら飲み薬を処方してもらいたいので今日再度受診され、昨日キャンセルした薬を処方することになったようだ。
本人に改めて処方箋を持っていってもらうので薬を準備しておいてもらえないかということだった。
病院の受付の事務さんも呆れた口調。
こりゃきっと院内でもなんかあったな?
とりあえずそこからほどなくしてAさんが薬局へやってきた。
さんざん振り回されたが追加の飲み薬を受け取ってもらいようやく一件落着したかと思ったらその日の晩にまた電話があったらしい。
「処方された飲み薬を飲んでも効かないんだけど、残りの薬を返品してもいいか?」とのこと。
もちろん答えはNOである。
それにたった1回薬を飲んだくらいで治るなら5日分も処方されないでしょ。
本当にこれは勘弁してほしい。
あれから今のところご来局はないようだが以前は外来の受付の一番ラストにAさんが来られたことがあった。
その時も今回のように投薬口でモメて、結局19時半過ぎまで帰れなかったことがある。
全く薬剤師泣かせな困ったさんだ。
そんなわけで数々の困った患者さんのエピソードをご紹介したが、たまにとても心が和むような患者さんも来られるので次回はそういったお話をしてみたいと思う。
それにしても、もう何年も同じ職場にいるとは言え、やっぱりこういう対応ってなかなか慣れないものですね。
自分は接客業には向いてないなってつくづく思います。