2020年のフェムテックとリプロダクティブ・ヘルス/ライツ
2020年、経済に影響をあたえたコロナの状況下でも、フェムテック関連の新しいイノベーションが数多く生まれていることを紹介したい。
婦人科領域からメンタルケアまで包括する、女性の健康と生きやすい人生設計のためのビジネスがたくさん生まれている。
フェムテックとは
Female(女性)とTechnology(技術)を掛け合わせた造語。生物学的女性の、見過ごされてきた健康課題である「生理」「更年期」「婦人科系疾患」「不妊・妊よう性」「出産・育児」「セクシャル・ウェルネス」などを解決するイノベーション。女性は世界人口の50%を占め、2025年ごろ市場規模は約5兆円と言われており、最近は日本発のサービスも増えてきている。
女性のヘルスケアが無視されてきた歴史
女性の健康問題は医療のジェンダーバイアスが関連している。日本で避妊やPMS緩和に使われる低用量ピル認定されたのは1999年でアメリカより約40年遅れた。
また、アメリカのような先進国でも1993年まで初期の臨床研究から女性が除外されていたり、自己免疫疾患にはホルモンによる性差があり男性の2〜10倍といわれ、慢性的な痛みを持つ女性に適切な治療がされていないという調査も出ている。
フェムテックは新市場であるだけではなく、ムーブメントとして次世代の女性中心のヘルスケアとして、独自の道を切り開きギャップを埋めようとしている。
リプロダクティブ・ヘルス/ライツとは
性と生殖に関する健康・権利と訳され、性と生殖における個人の自由と法的権利のこという。フェムテックによる健康課題解決と、タブー視を止める点で切っても切れない関係にある。
これまで紹介した日本のフェムテック・フェムケアは次の通り。
フェムテックの中の分類や企業数はカオスマップをご覧の通り多岐にわたる。
海外のフェムテックカオスマップ(2019年版)
日本は医療費が安かったり、アクセスしやすい制度も整っているので、アプリやデバイスなどの「テクノロジー」が関わるものはまだ少ない。
そのためか「フェムテック」を、女性の生活の質を向上・改善するものとして美容やウェルネスの括りでメディアで紹介されている。
日本のフェムテックのカオスマップ(2020年秋冬版)
日本のリプロダクティブ・ヘルス・ライツの出来事
コロナで中高生の望まぬ妊娠についての相談が増加。
2020年10月に緊急避妊薬(アフターピル )を政府が薬局での販売可能なよう、検討が始まった。
長らく高額な医療費を払うしかなかった不妊治療も、保険適用拡大や、体外受精の助成拡充検討も進み出した。
HPVワクチンについて、17歳未満でのHPVワクチン接種で子宮頸がんを88%減少という論文が発表された。すべての型のHPV感染を防ぐことは難しいとはいえ、日本で対象年齢をすぎると高額な自費診療となる。
WHOの調査から10%のの母親が出産後なるとされる「産後うつ」が、コロナをきっかけに倍増しているというニュースが話題に。より一層父親が育児参加しやすい環境整備と、母親のケアが必要になってきた。
精子や卵子提供で生まれた子どもの親子関係を民法で特例的に定める法案が提出された。「代理出産」の在り方の法整備も進んでいく予定。
月ごとのフェムテック関連ニュース
COVID-19の発生により、多くの企業が経済的影響を受けている。また、長期的な影響は誰にもわからない。
フェムテックは、遠隔医療を取り入れているものが多く、パンデミックがもたらした前向きな話は、遠隔医療が広がったことかもしれない。
1月
<イスラエル🇮🇱>
大麻×医療
女性の健康の分野における大麻治療を研究開発するGynicaと、イスラエル保健省から認可を受け大麻ベース製品を開発するLumir's Labが、パートナーシップを結んで子宮内膜症治療のための製品開発を開始。
<アメリカ🇺🇸>
LGBTQ向け不妊治療サービス開始
コンシェルジュ型の不妊治療サービスFutureFamilyが、LGBTQ(レズビアンとトランスのカップル向け)にreciprocal IVF(相互体外受精と訳されることもある)を開始。
お互いの卵子を提供し合い、ドナーの精子を使ってカップルのどちらかが妊娠出産をすること。トランス男性が性別適合手術前に卵子凍結をしていれば、reciprocal IVFを行うことができる。
<アメリカ🇺🇸>
オンライン×オフラインの包括的医療
女性のヘルスケアをオンラインとオフラインの医療機関との連携で包括するAdvantia Healthが、4500万ドルの新規投資を獲得。
資金提供によって産婦人科、プライマリケア(かかりつけ医)、メンタルウェルネスなどを統合して提供できるよう強化していく。
<イギリス🇬🇧>
AIによるブラフィッティング
Braristaの起業家のインタビュー。
ブラジャーのフィッティングの不適合を、エンジニアリングで解決するという面白い発想のサービス。
合わないブラジャーを装着していると、悪い姿勢になったり、慢性的な背中と肩の痛み、さらには片頭痛につながる可能性があるといわれる。
2月
<アメリカ🇺🇸>
オンライン婦人科の新たな福利厚生支援
女性に特化したデジタルクリニックのMavenがシリーズCラウンドで4500万ドルを獲得。
投資にはVC以外に女優のナタリー・ポートマン、リース・ウィザースプーン、ミンディ・カリングなどの個人投資家も含まれている。
企業の福利厚生として、「Maven Wallet」という新製品も発表。
企業が従業員に1万ドルの不妊治療サービスを提供した場合、従業員はMaven Walletを使って不妊治療サービスを見つけ、請求を最小限に抑えた設計方法で支払いうことができる。卵子凍結、養子縁組、代理出産など多岐にわたるサービスを統括して仲介するMavenならではのサービス。
<イギリス🇬🇧>
生理ショーツのTVCM
生理用品要らずの下着ブランドRuby Loveが、生理のタブー視をなくすための明るい演出のCM「PeriodPal」を発表。
<アメリカ🇺🇸>
オンライン更年期障害ケア
CurieMDは、遠隔医療を使用して、更年期障害のサポートギャップを埋めるサービスを開始。エンジェルとVCの投資で約100万ドルを調達。
遠隔医療プラットフォームを介して更年期障害の診断と治療の処方箋を提供している。
3月
<イギリス🇬🇧>
子宮内膜症に特化したフェムテック
Syrona Womenの共同創設者によると「今後フェムテックで不妊治療のものは減る」とコメント。
更年期障害と子宮内膜症といった医療でまだ未開拓の部分がある領域に注目しており、Syrona Womenはオンラインで子宮内膜症プロジェクト「ELSA」を始動。
<イギリス🇬🇧>
フェムテック白書
Elvieを開発した会社Untitled Kingdomによるフェムテックの現状と未来を調査、考察したEブック "The State of FemTech. Current state and future of the FemTech industry"が公開。
10年以上のデジタルヘルスの実績と18人以上のフェムテック起業家や専門家のコメント、各年代ごとの健康課題、Femvertising、今後盛り上がる分野など網羅的な約100ページのボリューム。
<アメリカ🇺🇸>
セクシャル・ウェルネスと広告の問題
フェムテックの領域として注目されるセクシャル・ウェルネス(Stratistics MRCのレポートで、2026年までに市場の評価額が1,230億ドルと予測)について、「セックステック」という用語を生み出した起業家シンディ・ギャロップが、オンラインでの「セックステック」に対しての広告検閲に抗議。
セックスポジティブという用語が広まる近年、女性向けの「セックステック」プロダクトやサービスに対して、セックスネガティブな検閲がFacebookやInstagramで行われていることは女性のセクシュアリティの抑圧になっている。
さらに、検閲から逃れられ、インテリアに擬態するようなブランドも出てきているが、既存の社会規範に沿って、自分たちの使命を見失わず「自分自身を影に隠さず表に出るべき」と語った。
男性向けのセクシャル・ウェルネスブランドRomanとHimsが巨額の資金調達をしており、Himsはわずか3年でスタートアップからユニコーン企業としてIPOに向けて準備を進めている。
女性起業家がセクシャル・ウェルネス分野で資金調達ができない中、Himsは女性向けのHersブランドも展開。コロナのロックダウンでセックステックの売り上げも伸びており、女性向けブランドの広告検閲が緩和されれば、事業拡大のための資金調達も増えるかもしれない。
4月
<スペイン🇪🇸>
母乳育児サービス
母乳育児を管理や意見交換コミュニティのアプリLactAppは、スペインの母乳育児中の母親の4人に1人が使用しているといわれていて、コロナで相談件数が3倍に。
自粛によって母乳育児をしている母親が病院に行けず乳腺の炎症や痛みを耐えている声も増えていた。
対面でのケアができない分、テクノロジーを介して母親たちを支えた点が評価されている。
<イギリス🇬🇧>
更年期障害ケアのウェアラブルデバイス
プロダクトデザイナーのPeter Astbury氏が開発した更年期障害による、ホットフラッシュためのウェアラブルデバイスGraceが、プロトタイプを重ね、Innovate UK(学術研究と産業界の橋渡しをするビジネス・イノベーション・技能省傘下の政府機関)の助成を得て高度なプロトタイプの構築の段階に入った。
<日本🇯🇵>
痛くない乳がん用診断装置
開発している東大発スタートアップ「Lily MedTech」がNEDOに採択され約2.4億円を獲得。
<アメリカ🇺🇸>
卵子凍結コンシェルジュサービス
アメリカの有名なアクセラレーターY Combinatorが支援する卵子凍結コンシェルジュサービスLiliaが140万ドルのシードラウンドを調達。
約500ドルの年間メンバーシップを支払うと、卵子凍結、不妊治療クリニックの紹介と予約、他ユーザーのレビューや、医師の経歴や論文チェックができる。
5月
<日本🇯🇵>
ピルについて学べるファクトブック発表
日本のフェムテック系ベンチャーのスマルナが、避妊と生理の悩みについて学べる「ピルファクトブック」を公開。ピルの避妊効果意外に、PMSをはじめとした様々な効果があることを学べるもの。サイトで無料公開し、希望する教育機関にも冊子を提供。
<日本🇯🇵>
日本製の生理ショーツ
「ベア(Bé-A)」が発売開始発表。
5層構造でタンポン12本相当の吸水力を実現した機能性が売り。
<アメリカ🇺🇸>
オンライン×オフラインの包括的医療
婦人科DXで、ウェルネスアプリ、実際のクリニック、遠隔医療サービスを包括したTiaが2400万ドルをシリーズAで調達。
婦人科のみではなく、女性がホルモンの影響でかかりやすいメンタルヘルスや自己免疫疾患など全体の健康を重視している。
6月
<日本🇯🇵>
日本製の生理ショーツ
日本のナプキン不要の生理ショーツのブランド「Nagi」が資金調達。
<日本🇯🇵>
日本発の更年期障害ケアサービス
更年期に特化したオンラインサービス『TRULY』が提供開始。
<イギリス🇬🇧>
PCOS(多嚢胞性卵巣症候群)ケアに特化したサービス
Perla Healthが設立。10人に1人の女性が抱えるとされる問題で、CEO自身もPCOSで悩んでおり、適切な治療方法を女性に提供するため立ち上げた。CEOのKathrin Folkendt氏はFemtech Insiderというフェムテックメディアも運営している。
<アメリカ🇺🇸>
更年期障害ケアのジャーニーマップ
更年期障害のGennevは遠隔医療や自社プロダクトやコミュニティの事業をするシアトルの会社。世界中の50,000人の女性のデータから、5つの更年期障害のタイプを検証した更年期ジャーニーマップを公開。
更年期障害も多様な症状があることを長年の調査と研究で示した。
7月
<アメリカ🇺🇸>
更年期障害の在宅ホルモンテスト
パーソナライズ更年期障害ケアのThe Cuspが、在宅ホルモンテストを開始。ホルモンテストが必要なケアを、コロナ禍でも遠隔で行えるようにした。
<ケニア🇰🇪>
アフリカのフェムテックEコマース&コミュニティ
ケニアのベビー用品のオンラインショップMumsVillageとナイジェリアのBabyBlissが合併。eコマースとコミュニティプラットフォームのBlissGroupを設立。
CEOのIsis Nyong'o Madison氏は、デジタル人口からみても遅れているアフリカの女性の変化するニーズに対応するため、フェムテック商品にも力を入れると語っている。
<イギリス🇬🇧>
ピルをレビューするプラットフォーム
The LowdownのCEOインタビュー。ピルに関する現在20万以上のデータポイントを収集しており、婦人科医とユーザーとのマッチングプラットフォームも構築中。
8月
<アメリカ🇺🇸>
オンライン婦人科が偏頭痛ケアも開始
低容量ピルや性感染症(STI)の検査をオンラインで注文できて在宅検査可能なNurxはコロナで需要が拡大。さらに2,250万ドルを調達。
この機会に多くの女性が悩まされる偏頭痛に関するサービスも開始。(片頭痛は男性よりも女性の方が約3.6倍多いという説も)
<アメリカ🇺🇸>
乳がん患者サポートサービス
Y Combinatorが支援するLiyfe Clinicは乳がん患者をサポートするオンラインサービスを開始。
乳がん患者に対して、診断前から治療後までの情報、相談、サポートを提供する。医学物理学者の共同創設者兼CEOのLily Tang曰く「乳がん患者は平均して17分かけて腫瘍専門医に診てもらっているが、治療法を理解しているのはわずか5%」 という課題意識から開発に至った。
<イギリス🇬🇧>
生理用品D2C
Callalyが170万ポンド資金調達。
サブスクリプション型でオーガニックな製品を提供しているデザインに力を入れたブランドで、国際的に事業を拡大をしていく予定。
デザイン性が評価され、2020年のChina’s Design Intelligence Awardsで銀賞を受賞している。
<イスラエル🇮🇱>
AIによる子宮頸がん検診
EVAシステムを開発するMobileODTが400万ドルのシリーズC資金調達ラウンドの完了。携帯型医療機器とAIの掛け合わせで、女性のがんの死因2位(1位は乳がん)子宮頸がんの早期発見を目指している。
<東アフリカ ルワンダ🇷🇼 ケニア🇰🇪>
アフリカ初のフェムテックEコマース
KashaのCEOが、インタビューで「10年後にはフェムテックは巨大な市場になる」と語る。
女性のヘルスケアに関連するベビー用品や生理用品などをオンラインで提供し、65%のユーザーは低所得層で構成されている。
10月後半にはスウェーデンのSwedfundから100万ドルを調達。他のアフリカ諸国への拡大を計画中。
9月
<アメリカ🇺🇸>
膣や子宮内フローラ(マイクロバイオーム)の在宅検査キット
腸内フローラのように、膣や子宮内フローラ(マイクロバイオーム)が注目されているなかで、Juno Bioが家庭用の検査キットを発売。
フローラに不均衡がある場合、月経、生殖能力、妊娠に影響を与える可能性があり、尿路感染症(UTI)や細菌性膣炎(BV)、早産(PTB)なども懸念されている。
この領域ではLUCA Biologicsも注目されている。
<日本🇯🇵>
日本発子宮内フローラ検査
ゲノム解析を不妊治療に生かす日本のバリノスが3億円の資金調達。先ほどあげたJuno BioやLUCA Biologics同様に、子宮内フローラ検査に取り組んでいる。
<スペイン🇪🇸>
スペイン発のセクシャルウェルネスアプリ
Emjoyが300万ドルを調達。音声メディア型のサブスクリプションモデルで、セックスセラピストやメンタルヘルスの専門家からの専門的な指導を元に作られている。
日本ではない挑戦的な領域なものの、トランスジェンダー女性が使えるものではないという批判も起きている。
<アメリカ🇺🇸>
ウェアラブルIoT搾乳器
Willowは約57.8億円を調達。母乳育児をする母親が搾乳行為に手間をかけられている課題から、ウェアラブルモバイル搾乳器を開発し大ヒット。国際市場に拡大しようとしている。
<アメリカ🇺🇸>
妊活系フェムテックのリブランディング
妊活を尿検査デバイスとアプリでトラッキングできるmyLotusがMyloに社名とプロダクト名を変更し、ロンドンのクリエイティブ・エージェンシー
Ragged Edgeによってリブランディング。
<アメリカ🇺🇸>
妊活系フェムテックがアメリカのスーパーで買えるように
ウォルマートが、在宅で使える妊娠検査キットと排卵検査キットのModern Fertilityを販売開始。
オンラインでのコミュニティ育成に苦戦していたというModern Fertilityには強い販売チャンネルができたことになる。
2019年にWalmart Healthを立ち上げ、医療費が高額なアメリカで保険に関係なく医療が受けられるサービスを提供している。簡易な顧客向け(toC)医療という点でウォルマートとModern Fertilityは共通している。不妊治療に関するものが身近に手に入ることは手軽さと共に日常の当たり前を目指す。
10月
<ドイツ🇩🇪>
呼吸器測定技術の妊活用デバイス
「breathe ilo」を開発するCarbomedが300万ユーロの資金調達。呼吸器測定技術に特化し、呼吸の中の二酸化炭素の含有量から受胎可能な状態を測定する革新的なデバイスを開発。デバイスのデータはアプリに送られ、学習アルゴリズムが排卵を予測する。
現在イギリスなどヨーロッパ各地とアメリカでの販売やレンタルモデルを始めている。
<イギリス🇬🇧>
ウェアラブルIoT搾乳器
最も資金調達額が多いとされているフェムテックハードウェア企業のイギリスのElvieは、人気の搾乳デバイスに新商品のカップを追加。
<イギリス🇬🇧>
女性に特化したメンタルヘルステック
コロナで女性に影響の大きい、メンタルヘルスに関連するフェムテックClementineが110万ユーロの資金調達。
<アメリカ🇺🇸>
包括的オンライン婦人科
NYブルックリンを拠点とする妊娠ケアのスタートアップ Oulaは、320万ドルのシード資金調達ラウンドを終了。
2021年初頭にブルックリンに実際のクリニック開院予定。
助産師、産婦人科医だけでなく、ドーラ(産前産後の介護をする人)、授乳相談員、セラピスト、栄養士などで構成される共同ケアモデル。
妊娠前から産後までのケアをアプリによるバーチャルコーチングとモニタリングで行う予定。対面ケアとバーチャルケアを組み合わせは増加傾向。
<アメリカ🇺🇸>
低価格なオンライン婦人科
女性に特化した遠隔医療サービスを今までアクセスできなかった低所得層やセクシャルマイノリティに、FDA承認の避妊薬を届けるNYのTwentyeight Healthが、シードラウンドにて510万ドルの資金調達。アメリカでのサービス提供エリアを拡大予定。
<アメリカ🇺🇸・日本🇯🇵>
妊活IoTデバイス
日本のフェムテックファンドFermata Fundが、アメリカ発の妊活デバイスkeggに投資。シンガポールをはじめ、日本とカナダも順次発売予定。
<イスラエル🇮🇱>
イスラエル最大の病院がフェムテックに特化したWomen's Health Innovation Centerを開設
Sheba MedicalCenterは、もともとCOVID-19の期間中に患者と医師の安全性を確保するために施設を設立。
今後、遠隔医療に進化は女性の健康のために不可欠になることと、イスラエルでフェムテックへの注目度が高まっていることからWomen's Health Innovation Center設立に至った。ハイリスク妊娠、産後のフォローアップ、避妊、体外受精、婦人科腫瘍学、その他さまざまな研究の場として、デジタルヘルススタートアップと連携していく。
<日本🇯🇵>
日本製の生理ショーツ
ほぼ日から生理中使える吸水型ショーツを含む、生理ケアブランド『つきのみせ。』発表。
<日本🇯🇵>
無印良品が生理用品の販売開始
生理用品のパッケージデザインは、ここ数年多様化してきたなかで、日用品としてシンプルなデザインで無印良品が発表したことが話題になった。
<日本🇯🇵>
フェムテック振興議員連盟の発足
自民党で「フェムテック振興議員連盟」が10月30日発足。
11月
<イギリス🇬🇧>
自然療法の更年期障害ケア食品
イギリスの更年期障害のためのフェムテックMPowderが55万ユーロのシードラウンドを終了。高タンパクのビーガンパウダーが主要商品。
<イギリス🇬🇧>
不妊治療福利厚生プラットフォーム
福利厚生に不妊治療を提供するFertifaが100万ポンド(約130万ドル)のシードラウンドを調達。
2019年8月に設立されたスタートアップで、イギリスの国民健康保険「NHS」 では不妊治療を自費負担する割合が問題視されており、FertifaやVCは福利厚生モデルにチャンスを見出している。
現時点で約70万人のイギリスの契約している企業の従業員たちにサービスを提供している。
<スウェーデン🇸🇪>
妊活IoTがウェアラブルデバイスを開発スタート
フェムテック黎明期の2013年にスウェーデンで設立したNaturalCyclesが開発した、体温計の測定と月経周期管理のアプリを連携させた妊活IoTは、2018年にアメリカのFDA(食品医薬品局)が承認された。
しかし、Natural Cyclesは、朝の検温を忘れるユーザーが多いため、夜寝ている間に体温を測れるウェアラブルデバイスの開発を開始。
現在サイト上でウェイティングリストの受付をしている。
<アメリカ🇺🇸>
スマートウォッチに妊娠中の健康管理や陣痛タイマーが追加
フィットネスウェアラブルメーカーのGarminは昨年から月経周期のトラッキング機能をつけていたが、妊娠中もアクティブに過ごすための健康トラッキング機能や、陣痛を迎えた際、間隔の長さと頻度を記録できるタイマー機能が追加された。
12月
<アメリカ🇺🇸>
産後ケアのキュレーションキットを提供するMomboxが50万ドルを調達。創業者自身の経験から出産後の母親のためのキットを考案。オーガニックのナイトパッド、洗浄ボトル、アイスパック、産後用のパンツなどが入ったもの。現在はギフト利用が多いが、今後はサブスクリプションでの提供も検討中。
<インド🇮🇳>
バンガロール発のPCOS(多嚢胞性卵巣症候群)に特化したフェムテックavaのCEOインタビュー。
インドでは5人に1人の女性がPCOSに悩まされているらしく、女性が抱える慢性疾患を管理して健康な状態に導くことを目的として、まずはPCOSのサポートから開始。
<イスラエル🇮🇱>
小型IUB(ボール型子宮内避妊器具)を開発するOCON Healthcareが、資金調達ラウンドを完了。現在日本でも普及しているT型IUD(子宮内避妊用具)で起こる位置ずれや子宮内膜への刺激をボール型で軽減することで、女性の健康問題を解決を目指している。
<アメリカ🇺🇸>
7月のニュースで紹介した、パーソナライズ更年期障害ケアThe Cuspがコロナの影響でサービスを停止。
<アメリカ🇺🇸>
従業員の福利厚生として不妊治療を提供するCarrot Fertilityが、日本展開のためのローカライゼーションを開始。
2020年の所感
生理周期管理アプリや妊活関連のサービスが多かったが、バイオやメンタルヘルスケアと融合したり、オンライン診察と実際の医療機関が連携したサービスなど領域横断がどんどん加速している。
コロナの影響で動きが鈍化するかと思われたが、むしろ紹介した母乳育児アプリなどは3倍の相談量になったり、オンライン診察系が資金調達していたりと、需要が顕在化されたのがわかる。
フェムテックは日本も増えつつあるが、美容の領域もフェムテックと定義していることから、サプリメントやケア用品も同じ括りなのは世界とズレを感じるもののサービスも増えてきているのでフェムテックとフェミニンケアは分かれてきそう。
探し方が悪かったのか、日本以外のアジアの情報がほぼなかった。
社会的意義の高まり
フェムテックは、ビジネスの新領域としてだけではない社会的意義も多数ある。
コロナで後退が危惧されるジェンダー平等
国連の研究で、パンデミックは男女平等の進歩を数十年を希釈する可能性があると警告している。より一層女性のケアをし、経済としても女性プレイヤーが活躍しやすいフェムテック分野に期待したい。
押し進めるべきSDGs
コロナであっても押し進めるべきSDGsの項目に含まれる、医療やジェンダーに関連することは、より一層社会的意義と紐づいている。
医療のジェンダーギャップ
冒頭で「女性のヘルスケアが無視されてきた歴史」があると挙げたとおり、医学は男性によって支配され、男性のために開発されてきたという医学科学の深い制度的な問題があるといわれている。
これから求められるフェムテック
懸念点
女性の生殖や性の健康と権利(リプロダクティブヘルス/ライツ)はフェムテックと関連するところが多く、またフェミニズムとの親和性も高い。
現代のフェミニズムで問題提起されているのが、女性が企業の上層部にリーン・イン(内側に取り込む)することを推奨し、シェリル・サンドバーグをはじめとするリベラル ・フェミニズム(企業フェミニズム)は世界に数%しかない「支配層の機会均等」と批判されている。途上国のフェムテック(Kasha、BlissGroup)や、貧困層支援(Twentyeight Health)をしているフェムテックも増えてきたが、資金調達額も大きくなり、リプロダクティブヘルス/ライツが標榜する包括性からズレない注意が必要。
また、ジェンダーの多様化が進む中で、フェムテックというラベルは、トランスジェンダーやノンバイナリーの人を包括していないという指摘もあるので、各ブランドは二元的な性別カテゴリーではなく、LGBTQフレンドリーを打ち出して排除していないことを表そうとしている。
D2Cヘルスケアは、エビデンスに関する不信感が生まれる事例も出てきている。オンライン診察では、男性用のウェルネスケアでユニコーン企業となったHims(女性向けにはHers)で、薬を安易に処方しすぎるという批判や、在宅検査キットで卵子の残数を検査できるものへの正確性への疑問視がされている。
アプリサービスの多くが、ユーザーデータを広告主やマーケターと共有してマネタイズするビジネスモデルで、フェムテックの性生活や妊娠など極めて個人的な情報が活用されていることへの疑問視が出ている。
データを渡すことを了解した上で、トレードオフの価値としてアプリを継続利用する女性も少なくない。
ヘルスケアVCからのヒント
アメリカのフェムテック企業51社の分析によると、資金調達の大部分は、不妊、妊娠、母親ケアを扱うソリューションに向けられていた。(Rock Health Digital Health Funding Databaseより)
これらのソリューションの多くは、保険に加入している若い女性をターゲットにしている傾向がある。女性の多様な年代や健康上のニーズを満たすために、フェムテックの定義を広げることが重要になってくるとのこと。日本にも当てはまる点はあるはず。
バーチャル・ケアの推進
コロナという世界規模の問題がありつつ、地方で車移動が必要な人や、育児中の母親など、受診が困難な人々へ医療やケアが行き届けること。
LGBTQの女性の包括的なケア
LGBTQの人が医療の場にアクセスしにくい問題と向き合い、フェムテックの、Female(女性)の定義を多数派だけを対象にしないこと。クィアやトランスのコミュニティに属する人々も対象にする企業をさらに増やしていく必要がある。
現在はQueerly Health、Folx Health、 Included Health、Violet、Woven Bodiesといった家族計画やホルモン療法やメンタルヘルスをサポートするサービスが出てきている。
性教育格差を無くす
冒頭であげた日本のニュースで、コロナ中、中高生が望まぬ妊娠が増加した点からも、オンラインで知識を得ることと、いつでも悩みを相談できるサービスが必要。
アメリカでは低価格でAIと遠隔医療でケアを提供するKiira Healthや、女性やノンバイナリーの人のために教育を提供するプラットフォームLOOMがある。
相談しにくいことを相談しやすく
日本での割合は不明なものの、アメリカでは3人に1人以上の女性が骨盤底障害(例:尿失禁、便失禁)の悩みを抱えており、医療機関に相談しにくいことをオンライン診察やアプリを介したコミュニケーションは対面でない分、ケアしやすい可能性が高い。
更年期障害のケア
日本でもサービスができたりして盛り上がりつつあるものの、まだまだタブー視されており、そもそも当事者が更年期障害の症状に無自覚な場合もある。いくつかのフェムテック企業が生理に対してのタブーを無くすことに成功しつつあるように、更年期障害のケアも当たり前のものとして広める必要がある。
最新のフェムテック情報は、6月にPerla Healthを設立したKathrin Folkendt氏が運営するフェムテックのメディアFemtech Insiderのニュースレター登録がおすすめ。2020年のまとめ記事でニュースレターの内容も振り替えられる。
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テクノロジー×クリエイティブ×社会課題解決を融合させたものづくりが好きなので、お気軽にTwitterのDMなどでお声かけください。
https://twitter.com/nakama_desu
過去のフェムテックnote。
啓蒙関連イベントの企画から運営までご協力します。
これまでのフェムテック関連のイベント例。
フェムテックの連載「フェムテックジャーナル」
LGBTQファミリー支援の記事。
フェミニンケアとフェムテックの記事。
取材いただいた記事。
Photo by Huha Inc. on Unsplash