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明日を迎えるにあたって

いつかの初秋、芸能活動をしている少し年上の男性と交際したことがある。

たった2週間で関係を終えたし、2日しか共に過ごさなかったため、正直ほとんど記憶が曖昧である。
全てフィクションだと思って読み進めてほしい。


自分だって妖怪のような見た目の癖に、私に対して「魔女のようだ」と言い放つような人だった。
(彼自身も妖怪である自覚があったと思う)

誰がどう聞いても穏やかだと捉えるような優しい声だったので、悪意は全く感じなかった。
私もその頃の自分を魔女っぽいと思う。当時、自覚もあった。

彼は私に対して、すごくすごく愛情深く接してくれた。

確か、難波で会った。
落ち合うとまず、彼が普段通うと言う埃っぽい喫茶店に訪れた。
煙草を吸い、コーヒーを飲み、話をして、折り紙をした。ような気がする。
折り紙でなくても、かなり折り紙に近いことをしたと思う。いや、してないかも。

彼は、よく手に馴染んだ様子で手帳を開き、何かを書き留めていた。私はそれを眺める時間が好きだった。

煙草を5本ほど吸い終えた頃、喫茶店を出て、散歩をしながらまた話をした。
私は昼間に出歩くのが好きではないので、暗いところに行きたいと思っていた。自然と仄暗い路地に向かい、ホテルにチェックインしていた。

彼が真っ昼間のホテルで一発ギャグを連発してくれたことは今でも覚えている。

私が笑っている事実に対して、喜んでくれている様子が見て取れた。愛らしい人だな、と思った。

夜はファミリーレストランで食事をして、京都を散歩し、彼の家に泊まった。
夜の散歩では、彼が彼の思い出の場所を教えてくれた。まだ出会ってから1日も経っていないのに、私は彼の大切な場所を必死に覚えようとした。

翌日は京都駅まで送ってくれて、「また」と言って別れた。

ざっくりこんなものである。どこかのタイミングで、彼の単独ライブを見たような気がする。


彼のようなタイプの人は、私のようなタイプがとても好きである。
いつも何かを考えていて、考えたことを素直に吐き出し、相手の話を訊き、取り入れた知見を含めてさらに考える。そのサイクルで生きる。
自分でも自分のことを、実直でチャーミングだと思う。

また、私も彼のようなタイプがとっても好きだ。
私が吐き出した考えを「わからない」「さあ」等と切り捨てず、多少なりとも考え、自分の意見を返却することを厭わない。
彼は聡明で、かつ自由だった。

私は彼に比べて、物事を考える効率が悪かった。
納得のいく考えに辿り着くのに寄り道が多いからか、スタミナが切れる。途中で休憩したいけれど、休むのがあまり上手ではない。

彼は私を休ませてはくれなかった。しかし彼は悪くない。私が勝手に、彼との会話に人生を捧げそうになってしまった。
小学生に戻ったみたいに、夢中になって話した。誰も「もうお終い」と言ってくれない。大人なのだから当然だ。
最終的に私は、激烈な長考により疲弊した。

上記が理由で、長く一緒に過ごすことができなかった。
単純な私は、"性的関係を持ったから"と言う理由で友達になることを簡単に諦めてしまった。
これには少し後悔している。1シーズンに1回でも話せる機会を残しておけばよかった。

しかしまあ、聡明な妖怪タイプとは付き合い続けることが難しいと分かったので、以降そのような相手と恋愛関係になることを避けている。
付き合いを続ける場合は、脳の回転速度とスタミナが自分と同列程度の人である必要がある。

今も変わらず人として大好きだし、尊敬しているし、彼がSNSでバズっていると嬉しい。
いつかまた、彼が人前に立つ姿を見に行きたいな。

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