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オタクを包み込む天使の降臨-MOSAIC.WAVの大名曲『GAMER'S ACTRESS~My Sweet xxx Voice~』-


アキバ・ポップのスーパー・ユニット「MOSAIC.WAV」を自分は深夜によく聴いている。

彼らが歌いあげるアキバ賛歌・オタク賛歌は本当に美しくポップで、ついつい涙腺を刺激されてしまうんですよ……

MOSAIC.WAVといえば気軽にイェイ!と楽しめる”電波曲”……そんなイメージだけ抱いている方も多いだろう。実際、自分もそうだった!


もちろん、そういった楽曲を作らせたら右に出る者がいないほどすごいアーティストではありますよ。電音部蓮ノ空に提供した楽曲も、それぞれ本当に素晴らしかった!

あとは一昨年発表のエロゲ『あねつまみ ~魅惑の幼なじみお姉さん人妻とのめちゃエロ同棲LoveLife~』主題歌とか、本当に最高すぎて超ヘビロテしてますから。



自分は「萌研」というサークルの同人誌ブログによく原稿を書かせてもらうのですが、いつも執筆中にはMOSAIC.WAVをガンガン流してますからね!聴きながらだと筆がノってしゃーない!!

(いつかMOSAIC.WAVに我らが萌研のキャラクター・朝桜もゆ会長の歌とか作ってもらうのが、ごくごく個人的な夢……)


そんな彼らは特定のお題と美少女モチーフを落語の「三題噺」のごとく組み合わせ、オタク文化や美少女を絡めて展開することを得意とするアーティストなんです!

一聴してお気楽に聞こえる電波ソングを練りに練られた世界観から発射される歌詞で彩るそのスタイルは、リリシストと称するに相応しい。


美少女×「疑似科学」なら『ギリギリ科学少女ふぉるしぃ』

美少女×「通販」なら『商品おすすめソシエちゃん』

美少女×「迷惑メール」なら『迷惑メーリングGIRL

…………とまぁこんな風に、美少女キャラクターと「お題」のコラボだけでも挙げだしたらキリがない。ぜ~んぶ最高ですよ?


まぁ何が言いたいのかと言えば、MOSAIC.WAVの少々きわどいテーマを非実在性の高い美少女モチーフと組み合わせることで戯画化し、萌え色にコーティングしていくそのスタイルは、まさに唯一無二ということ!


普通にやってはギリギリすぎる・ニッチすぎるテーマは、様々な意味でスリリング。それを「美少女キャラクター」という虚構すぎるレイヤーを挟むことで聞きやすいものとする……

MOSAIC.WAVの天才的なバランス感覚は、テーマ性のスリリングさとそれを梱包する電波な言葉選びの良い塩梅にこそあるのです!


ではこの絶妙なバランスの構成要素がガラリと変わったような楽曲は、たとえMOSAIC.WAVによるものだとしても、「MOSAIC.WAVたりえる」仕上がりにはならないのか?といえば…………

……それは否であると強く言い切りたい。


むしろそうしたポップな楽曲世界の黄金比をちょっぴりだけズラすことによって、ディスコグラフィ上に燦然と輝く、罪深いまでの楽曲が爆誕することがあるのです!

たとえそれが所謂「電波ソングユニット」みたいなMOSAIC.WAVのパブリックイメージに沿わないものだとしても、ね!

MOSAIC.WAVが単なる電波でポップなミュージシャンではなく、むしろパンクとすら解釈できるアーティストであることはこちらの弊記事で確認済みです。


オタクたちが日々心に抱える言葉にできない不安と憂鬱を、音楽という形で掬い上げる。それがMOSAIC.WAVの神髄なんです。

決して電波ソングを歌うアーティストがオタクを題材にしたパンクも歌う……ではないんです。それは前後関係が逆になっている。


「オタクを題材にしたパンク」のバリエーションの一つとして在るのが、MOSAIC.WAVの電波ソングなんですよ。



だから時には電波じゃない形で、オタクを救うこともある。
それは若干珍しい形式の楽曲だからこそ、深く僕へ刺さるんです。

それが今回の文章でメインに取り上げる、『GAMER'S ACTRESS~My Sweet xxx Voice~』



ここから未聴の方向けに、楽曲の歌詞も追いながら訥々とその魅力を語っていきたいと思う。

ただ確実に、原曲を聴いて得られる感動の方がこの文章を読んで得られるかもしれない「なにか」よりも素晴らしいはず!

なのでここで一回、リスニング時間を設けてほしい。MOSAIC.WAVの世界観を堪能してからでないと見えない世界は確実にあるからね!




…………いいですか?全員聞いたと信じて、ここからは『GAMER'S ACTRESS』の魅力をガンガン語っていきます。まずはあらすじから。


新人エロゲ声優の「わたし」がボイス収録に挑んでいく様を、(恐らくリアルな)収録現場あるあると共に歌い上げる……といった内容の本楽曲。

いつかこのゲームを買ってくれる人がいるんだ……!そうオタクに思いを馳せながら、過酷な収録に挑む「わたし」は数々の困難にもめげずに嬌声を吹き込んでいきます。

「エロゲの台本、分厚すぎ!」「収録ブース狭すぎ!」みたいに精度の高いあるあるは聴くだけで面白く、お仕事ものアニメみたいな楽しみ方も出来る楽曲ですね。

10センチの台本 凶器にもなるの
(中略)
狭い録音ブースに男の人とふたりきり
マイクひとつ向き合う 女同士の方が楽ね

『GAMER'S ACTRESS~My Sweet xxx Voice~』


そんな試練にも負けず”精”一杯(←意味深に読めちゃうネ)嬌声を吹き込む「わたし」の可愛らしさは、単なる萌えに留まらない。

その一因として、ボーカル・「み~こ」さんのたぐいまれな感情表現力があるでしょう!

普段は電波な萌えヴォイスの印象が強いが、声幅の広さと感情の演じ分けなど多彩な魅力を持つ御方!!かしこかろう~!!


本楽曲のみ~こさんは普段の電波な声音を抑えめに、一貫して包み込むような優しい声音で「わたし」の体験を物語っていくんですね。

著名な楽曲で見られる「オタクを導く萌え教祖様」のようなカリスマ性を敢えて抑え、歌詞を丁寧になぞるようにして穏やかにメロディを御しているように感じます。いつもの歌声も最高ですが、こちらもと~~っても素敵!


さて、み~こさんの魅力を語っていったところで曲中の「わたし」についての話に戻っていきましょう。

「わたし」は声優として、日々様々なセリフを読み上げていきます。あえぎ声やシモ用語に類する用語を口にするのは、性別関係なく決して楽なことではないでしょう。

もちろん余裕で下ネタいけるぜ!という方もいらっしゃるとは思いますが、他方でとても苦手という方も多いかと思います。

事実「わたし」もシモな用語の前では若干のはにかみ、あるいは照れをみせていることから、あまりこうしたアダルトな用語を発することに慣れていないと分かりますね。


しかし会話の中で照れを見せてしまうのは、演技をしている当の「わたし」だけじゃないんですよ。

「エロゲに声を当てている声優さん照れちゃってェ、萌えだ~」なんていう短絡的な構造に留まらない感情表現、ここに本楽曲およびMOSAIC.WAVのリリシズムが持つ深みがあります。

「コレの意味お・し・え・て」って わたしが言ったら
あなたは下を向いて 照れながら答えるの
「それは…胸で…ナニを…こうして…」

「あ、つまり×××ですね☆」

『GAMER'S ACTRESS~My Sweet xxx Voice~』


この部分から、シモ用語を口にすることに対して、恐らく作り手だと思われる「あなた」の方が「わたし」よりも照れてしまっていることが伺えますね。

若干照れを覗かせる瞬間こそあるものの、基本的には”仕事だ”と割り切って「あ、つまり×××ですね☆」と言い切れる「わたし」の気高さに対して、「あなた」はあくまでシモ用語に照れを隠せない様子。



嬌声を吹き込むことに対して矜持を持つ気高く美しい「わたし」と、

エロゲに対してどこか後ろめたさを覚えている「あなた」達……



本楽曲ではこの対比が全編にわたって描写されます。

2番サビ後では出演したエロゲの発売日に店頭へ赴く「わたし」と、エロゲを売る場にどこか場違いな雰囲気の「わたし」がいる事実にどこか照れてしまうエロゲオタクたち……という関係性が描写されるのですが、

これってキャラクターを少し変えただけで、基本的には「わたし」と「あなた」の話をしている1番と対比関係は殆ど共通なんですよね。


この楽曲は”エロゲお仕事もの”的な受容をされうる余地があるというのは先ほども述べましたが、実はもっとオタクにとって普遍的なテーマを扱っているんですよ。



それは、オタクの「引け目」。あるいは「居づらさ」です。


「わたし」にエロ用語を教えたり無修正原画を見せたりしなくてはならないスタッフ……あまりエロゲをプレイしなさそうな「わたし」がフロアにいると何となく気まずいオタク達……

アニメでもMOSAIC.WAVの楽曲が聴きたかった、スね……


彼らは「わたし」に対して、どこか似たような種類の引け目を感じているのではないんでしょうか?

女の子の前でえっちな言葉を言わなくてはならない仕事に就いた自分、エロゲが欲しい!と発売日にわざわざお店へやってきた自分……

彼らが反射的に照れてしまうのは、そんな自分が「わたし」に見られていることの辛さから目を逸らす、ある種の防衛本能なのかもしれません。

お天道様に堂々と言えないような趣味を持ってしまっている事への罪悪感という、オタクとは不可分の暗い感情。これを深く描写するMOSAIC.WAVの才気迸る詩世界は掛け値無しに素晴らしいと言えるでしょう。



とはいえ冷静に考え直すと、芸術(ユースカルチャー)ってのはすべからくそういうモンでしょ?って思うんですよね。

世間というお天道様の下で堂々と「これが好きです!!」って言える芸術や文化なんて、たかがしれてるとすら言える。

全ての芸術が親や社会の前で楽しめるようになったら、それこそ尖りのない退屈な世界でしょう。人には言えないような薄暗い先鋭的な美にこそ価値がある。それは純文学だろうと同人音声だろうと同じ事。

じゃあ照れることなんて意味ねぇよなぁ!!!!なぁ!!!って!!!!!



……いやいや、そんなことはとっくに分かってるんですよ。

でもね、そうは思いつつも、好きなもので胸を張ることが出来ないってのは多少なりとも苦しいものですよ。


なんで俺は好きなものを語るときにいちいち「○○っていうアニメ、実は凄いんですよ……」って丁寧に前置きしなきゃいけないんだ?

なんで俺は映画好きに向かってアニメの傑作が如何に凄いかを語るとき、どことなくアウェーな雰囲気を感じているんだ?


……こんなことを思うことはしょっちゅうです。「アニメの良さが”にわか映画クン”にゃ分かんねぇか……」という感情も本心ですが、同時に「なんで分かってくれないんだよ!!!」という感情も紛れもなく本心なんですよ。

本当に周りの目を気にせず粛々と趣味道を突き詰めてたら、こんなnoteなんていう趣味を始めませんから。やはりどこかで趣味を通じて人間との関わり(或いは承認?)を欲している、どこまでも弱いオタクなんですね。


それを包み込んでくれるのが、この楽曲の「わたし」なんですよ。
分かってくれるんじゃない、ただ寄り添って抱擁してくれるんです。

あなたの為なら 言えないセリフなんて無いわ

『GAMER'S ACTRESS~My Sweet xxx Voice~』


確かに彼女は、陵○系作品の頻出用語を読めないくらい二次元エロに関する知識がありません。もしやアニメもジブリくらいしか観ないのかも?

でも彼女は収録ブース越しに、PCのモニター越しに、あるいはゲームショップの軒先で……エロゲを待っている「あなた」達のためにどんなセリフも、とびきりの愛を抱えながら読んでくれる。


恥ずかしがらなくても良いよ わたし全部知ってる

『GAMER'S ACTRESS~My Sweet xxx Voice~』


これがどれだけ嬉しいことか。これがどれだけありがたいことか。

ちなみにこれは「生きてて偉い♡」みたいに空虚で無意味な100%の肯定をするってのとはワケ違いますよ。アレを糧にして生き始めたら人間としておしまいです。

この楽曲が歌う優しさって「エロゲやれて偉い♡」とは似て非なるものなんです。別に漫然とエロゲやるお前は特に偉くねーから!


肯定とか否定とかいう問題よりも更に前、「”君がそれをただ好きでいること”……その事実に引け目を感じなくて良いんだよ」というささやかな肯定なんです。

無意味な全肯定とも、無理解な全否定とも異なる、優しく包み込むような……天使の詩のような……それでいて毒々しいアキバ・ポップという文化。

その神髄がMOSAIC.WAVの初期衝動と複雑に絡まりあって生まれた、さながら宝石のような楽曲が『GAMER'S ACTRESS~My Sweet xxx Voice~』なのです!




「その(人には言えないような)文化を好きな貴方はここにいて良い」という包み込むような優しさ、これが本楽曲の素晴らしい所ですよね。

何度も繰り返すようですけど「生きてて偉い♡」ではないんです。
「オタクなんてよぉ!」というオタク特有の冷笑仕草でもない。

↑この上記2パターンって安易に多くの人が使っている言葉だと思うんですけど、普通にあんまり良くない言葉だと思うんですよね。


オタクの過剰な卑下は冷笑オタクくん化へのファストパスですし、「○○できて偉い」というフレーズはそこに「偉い/偉くない」の格差を生みかねないので慎重になるべきです。なにより無責任すぎるし!


オタクを冷ややかに見るのでも当然なく、ただ与えられるだけの温かな優しさを「あなたはそこにいて良い」と与えるMOSAIC.WAVの慧眼。

発売から20年が経たんとしている今だからこそ、その冴えた優しさはどんどん鋭さを増しているように感じられます。

オタクに対する強い風当たりや、お洒落でなくてはならない音楽業界の流れへのカウンターパンチを原動力に活動しているMOSAIC.WAVだからこそ歌える名曲。皆さんもぜひ、何度も聞いてみてください!



最後にちょっとだけくだらない話をひとつ。

やはりね……人に言いづらい趣味や仕事をしている人を包み込む天使のような美少女を、こうして美少女ゲームの声優として描くというのが罪深い!こんなん好きになっちゃうよ~~~~~~~って!!!!!!!!!

もうこんなの俺の天使じゃないですか!!!中原岬ちゃんばりのファム・ファタール!!!俺の元にも来てくれ~~~~~天使~~~と思っちゃうわけですよ!!!!!


そんなアホ野郎こと僕たちへ向けて、本楽曲の作詞・作曲・編曲を担当した柏森進さんは公式サイトの歌詞ページにて、本楽曲についてこんなコメントを残しています。

みんな!美少女ゲームの声を充てている声優さんの気持ちになったことがあるか!!

この曲を聴いて知った気になったらそれは勘違いです!

旧・公式サイトの歌詞ページより 太字は引用者による


ほぅ………………………………………………………………。




結論

好きなコンテンツの発信者(と、似た境遇のキャラクター)を過度に「天使」などと理想化して、コンテンツ享受者である自分やコンテンツ全体を取り巻く構造の罪深さから目を逸らすのは、、、、やめよう!!!


楽曲でオタクにファンタジーな夢を見せた後、丹念に正気へ戻してくれる柏森さんのしっかりした倫理観………………………………大好き!!!





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