羊水検査

羊水検査当日、お腹をずっと摩りながら病院へ向かった。コロナの関係で付き添いは難しく、一人で。「今日はお外の物が急に目の前に来ても触っちゃだめだよ」と、ツグに話しかけながら。

羊水検査とは、染色体疾患全般を調べる検査です。超音波検査で胎児の状態を確認しながら妊娠中の子宮内から羊水を採取し、染色体異常を調べます。羊水採取の際、妊婦のおなかに直接針を刺すので流産・死産のリスクがあります。

羊水検査を受けると決めたのは何かしらの病気や障害を抱えているリスクが高いのであれば、その知識を出産前につけておきたかったからで堕胎の選択をする為ではなかった。
そもそも、人工妊娠中絶は堕胎罪に抵触するらしい。でも、母体保護法によって免責されるという曖昧さの中で行われているらしい。こんな認識の薄さであること自体、私の知識の無さが恐ろしい。
実際はそんなことを意識して「命の選択」をする人はどれくらいいるんだろう。経済的なこと、身体的なことを理由に中絶したんです、ってそれ本当?羊水検査の結果で染色体異常が確定してしまったらどうするの?
最近は血液だけで染色体異常の確立が分かる検査も増えているが、それに対するフォロー環境が整備されておらず、思わぬ結果に狼狽する人が増えていると聞いたことがある。
私も含め、皆、子どもは普通に産まれてくる。病気や障害というのは自分には降りかからない、関係の無いことだと思っている。

私は命の選択をする為に羊水検査に臨んだ訳ではなかったけど、実際に長い針が麻酔も無しにお腹に刺さり、少し黄色がかった羊水を見たとき「これで何かが決まってしまう」と思った。
長く生きることが出来ないと言われているトリソミー(染色体異常の一種)だったら?産まれることはできるけど支えることが大変な障害が見つかったら?私は、私達夫婦は、受け止めてあげられる?
結局、培養が難航し予定より数日遅れて結果が分かった。

【陰性】でした。

心の底からほっとしたのも束の間、医師からは酷な話が続いた。
「結果は陰性でした。が、状況は好転したとは言えないです。何も状況は変わっていない。この結果も踏まえ、もう一度ご夫婦で考えて下さい。」
羊水検査が陰性であればもう選択を迫られることなどなく、「良かった!これで安心して産めますね!」だと思っていたので頭が追いつかなかった。
やっぱり私の知識は浅かった。
想像力も欠如していた。
妊娠と出産をこんな状況になっても未だ甘くみている自分に嫌気がさした。

でも、結果が陰性だったことで私は余計に覚悟が固まった。
迷わずに決めた、とは言い切れないけれど、ほぼ迷わなかったのは娘の生きたいと願う気持ちの勝利だったと思う。
「この子は確かに私のお腹の中で今を生きてるの。この子の命を私の判断で摘むことはできない。この子自身でそのタイミングは決めるべきだと思う。私はその時迄この子を守りたい。」
私は検査結果を聞いた帰り道、夫にそう話していた。
後から聞けば夫は「未だ顔見ぬ子より妻の命」を選択したかったとのことだった。未だ2歳の息子を残して逝くな、と。それはご尤もだ。ただ、それを飲み込んで「やってあげられることは全部やってあげよう」と、私ごと、娘のことも守ろうと決意してくれた。

羊水検査を受けて、私は良かったと思っている。
何が原因か特定はできなかったけれど、ツグと共に生きる最後の覚悟を与えてもらった。結果として、ツグを産むことが出来たし、ツグがお腹の中で生きている間中、私はとっても幸せだった。いつも励まされていたし、命に感謝を忘れなかったし、元気でいられた。全部、ツグのおかげだ。
羊水検査を受けたから、ツグとの思い出が増えた。

命の選択、というものは生命倫理に反するのだろうか。悩んで悩んで決めても、その答えがどちらにせよ後悔するのではと思う。
産んでやれなかったこと、健康に産んであげられなかったこと、命を諦めようとしてしまったこと。子を想ってなのか、自分のことを想ってなのか。分からないけれど、その答えに対して誰も責めるべきでは無いのは確かだろう。

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