MFICU 1日目
入院初日。事務手続きを終え、MFICUに向かうと医師から直ぐに「心嚢水の穿刺」に関する説明を受けた。「赤ちゃんの位置が良ければですが、今日、やります。」今日やるなんて、聞いてません~!と内心非常に驚いたが、以前主治医から「心嚢水の穿刺は正直あまり経験値無く、赤ちゃんの位置が肝心。エコーで見てタイミング良さそうならその場で直ぐ判断します。」と言われていたので「わかりました・・・」と返答し、同意書にサインをした。
比較的あるケースで胸水を抜く処置は医師達も経験があるのだが、心嚢水(心臓の周りのお水らしい)を抜くことは、そう多くないそうだ。
ツグはこの説明を聞いてなんて思っているだろうか、とお腹をなでた。
入院から約3時間後、「エコー行きましょうか」と助産師さんに連れられ処置室の上へ。この時はもう私のお腹は臨月以上に膨らんでいて、歩くのがやっと。台に上がるのは補助が必要なほどだった。(この時妊娠28週)
主治医と他沢山の医師が来てエコーを慎重に判断する。
「これ、今だな・・・今いけるな・・・この角度で、どう?」
「これだと腕が邪魔してるから、こっちからどうですかね」
医師達はどうやらやるらしい・・・針を刺す角度等、細かい相談を始めた。
麻酔も無しに私のお腹から娘の心臓めがけて長い針が刺さるのだ。怖くない訳がない。本当にこの人たちヤル気なのか・・・
と、処置台に上がったことを後悔した。選択肢は無いのだけれど。
そして助産師達がバタバタと用意を始めた。
ツグはというと、相変わらずアクビをしたり目をこすったり、まるで病気を抱えていない子みたいに普通に過ごしていた。(エコーでずっと様子を見られているとも知らず・・・)
「呑気なものね、ツグ。今から針があなたにも刺さるから、じっとしていてね。お水を抜くからね。」私は声を掛けながら医師達の用意が終わるのを固い処置台で待った。もう背中と腰が限界だった。
「では始めます!」
医師達は声を掛け合ってエコーをとり、角度を見ながら、勢いよく針を刺した。
ツグに針が刺さった瞬間、私は息ができなくなった。
私が動いたら位置がずれるという緊張感もあったが、針が刺さった瞬間にツグの心臓の動きが明らかに弱くなったからだ。生きた心地がしなかった。
その間、医師達は連携を取り合いながら処置を進めていた。唯一耳にはいってきた言葉は「徐脈だね・・・」
処置を終えてしばらくエコーでツグの様子をみんなで見ていた。おおよそ2分くらいだろうか、もっと短かったかもしれないが正常な心拍に戻った。「びっくりさせないでよ」と半泣きでお腹に声をかける私。
すかさず助産師が「あなたもびっくりさせないでよ~って思ってるよね」と笑いながらお腹をさすってツグに話しかけてくれた。
「確かに!ごめん!ツグのほうがびっくりしたよね!」と涙が引っ込んだ。
「お母さんも怖かったよね、頑張ったね。頑張ったから今日はもうこれでおしまい!今日から出産まで、ここでは思い切り甘えて過ごしてね」とフォローしてくれた。人のために働く方の優しさと大きく構えていてくれている安心感で心がいっぱいになった。
医師達は心嚢水をわりと薄い色を常識としてもっていたようで腹水をぬいてしまったかと思ったが低形成の肺が少し膨らんだ為「成功しましたよ」と、心嚢水を私に見せてくれた。
病室に戻り、これから始まる入院生活を少しでも心地よく穏やかに過ごす為、部屋をできる限り設えた。ツグに読み聞かせる本も忘れず用意した。私が娘に今できることは声を聞かせてあげることぐらいだったから。
少しホッとしたのも束の間、私の尿蛋白が異常値であることの説明をうけた。検査結果で肺水腫はみられていないが高確率でミラー症候群が疑われるとのことだった。
今思えば酷い言いようだが「私の身体、ポンコツだな」と思っていた。
すぐに命のかかわる状態ではなさそうな為、様子をみましょうということになり、願わくばこのまま変化なく臨月を迎えて下さいと強く願って、濃い一日を終えた。
その日の夜から私はツグに大好きな小説を読み聞かせて眠ることが日課となった。