新しいビジョンを掲げ、「ウェルビーイング先進地域、富山」を目指す
10月7日、富山県立山市で初めての「富山県成長戦略ビジョンセッション」、市民と首長の対話の場が行われました。
今回、NEWPEACE thinktankでは、NEWPEACE代表の高木新平が富山県成長戦略会議のメンバーになったことをきっかけに、富山県のビジョニングにかかわることになりました。
2020年10月の富山県知事選挙で民間出身の新田氏が知事に選ばれたことをきっかけに、多様なメンバーを巻き込んで始まった成長戦略会議。ここでどのような提案を行ったのか、今後どのように富山県がビジョンを掲げて実現していくのかをお伝えしていきます。
富山を変えるためにはじまった富山県成長戦略会議
2021年3月に、座長の中尾氏(富山経済同友会特別顧問、株式会社アイザック相談役)、副座長の吉田氏(日本政策投資銀行富山事務所所長)をはじめとして、藤井氏(マカイラ株式会社代表取締役CEO)や藤野氏(レオス・キャピタルワークス株式会社代表取締役会長兼社長)、そして特別委員には安宅氏(慶應義塾大学環境情報学部教授、ヤフー株式会社 CSO)をメンバーに始まった富山県成長戦略会議。
第1回から、富山県にゆかりのある委員からは、”挑戦する市民が少ない””新しい価値を生み出せるひとが富山県に集まらない”ことが富山県の課題であることがIT、投資、まちづくりなどの様々な領域から指摘されました
令和2年度にとられたアンケートでも、”富山にずっと住んでいたい””一度は県外へ出ても、富山に戻って住みたい”と答えた割合が5割にとどまるといった結果が出ました。その詳細な理由として、”固定概念が強く、転職でスキルアップする文化がない”や、”富山で転職しよう思っても、そもそも新卒以外の求人が少ない”といったキャリアに関する悩みが目立ちます。現在の富山県は”活躍したい!”という強い意欲を持った人々にとってあまり居心地の良い環境ではないということが明らかになっています。また、その他の調査でも、そもそも市民の意識の中で”挑戦”や”賑わい作り”、”グローバル社会における地域づくり・ひとづくり”等の重要度が低く認識され、富山県全体として挑戦しにくい、挑戦しない状態になっているといえます。
多くの委員から富山を良くするために様々な角度から”やはり人材の育成が重要である”と指摘される一方で、それを実現できる環境が整っていないことが課題といえます。
しかし、このような課題は実は富山県だけの問題ではありません。人口減少に直面するあらゆる地域で”地域を盛り上げていける人材”が求められています。その一方で、そのような人材を育成・歓迎できる環境にないという点では、多くの自治体が同じような課題を抱えているのです。
この、”価値を生み出せる若者”が盛んに求められ、競争が激化するまさに”戦国時代”に、富山県はどのようにして変わっていけるでしょうか。どのようにして”長く住み続けたい”と思われるような街になれるのでしょうか。
富山県に、一貫したブランディングを
ビジョニング・ブランディングを専門とする高木新平は、この課題に対して富山県の日本で一番の水質を活かし、”幸せ=ウェルビーイング”を基軸とした、観光、広報、移住の一貫したブランディングを提案しました。
富山県の水質は、名水百選に8箇所も選ばれる(日本一)等、非常に高水準であることがいえます。また、富山湾の魚やコシヒカリといった農産物や地震・津波等の災害が少ない地域であることも、定住・移住先としての魅力として挙げられています。
一見、地元の方々からすればあって当たり前の”魅力”かもしれません。しかし、実はこのように自然の恵みをたっぷりと享受でき、そして災害が少なく、幸福度高く生活することのできる地域は日本でも限られるのです。
また、時代背景としても、世界は今GDPなどの明確な経済指標から、Well-being、幸福(GDW)を大切に地域・国を作っていこうという流れになっています。これまでの資本主義を見直し、より豊かな生活、ひとびとの幸せを願うことが、今後の街づくりのヒントになっていきます。
例えば、デンマークでは”THE END of TOURISM”として、観光地として栄えてきたコペンハーゲンにおいて”観光を辞める”方向での地域づくりが始まっています。コペンハーゲンにおいて非常に有名な”人魚姫像”のようなコンテンツが観光資源なのではなく、本当に街の魅力を形作っているのはコペンハーゲン市民であり、その存在こそを大切にしなければならない、という考え方にシフトしているのです。
未来に向けて、企業・地域市民、そして観光客も巻き込みながら、地域の発展と住民の幸福を両立される必要があるという方向性は、SNSにてライフスタイルに焦点を当てて街をPRするポートランド、アムステルダムにも現れています。そして日本でも、地域密着や地域での体験を大切にする宿泊施設・体験施設が増えるなど、その取り組みは少しずつ広がり始めています。
アピールではなく、おすそわけ
”地域の発展も、市民の幸福も”大切にするという考えでは、これまでの一方的に地域コンテンツをアピールし、お金を落としてもらう施策ではうまくいきません。富山県においても、市民が普段享受している自然の壮大な恵みを、持続可能な形で、市民と外の人たちの間のコミュニケーションを通して”おすそわけ”していく。これによって”当たり前の幸せ”が伝わり、少しずつ富山県のファンが増えていく。そういったコミュニケーションに変わっていく必要があるのです。
しかし、これを実行するにも大きな壁が立ちふさがります。それは、県外の人々も、富山県民も巻き込むことができていないということ。さらに、その前提となる富山県からのコミュニケーションが「移住」「観光」「広報」に分断されていることが背景として指摘できます。
このような現状に対して、高木新平は”カタリスト”に幸せの実験地区として富山県を開いていくことを提案しました。
実は現在、富山県にはその魅力に気づき、地域で活動を興すクリエイターが、都市圏から流れ込み始めています。彼らの”魅力を見つけ、編集し、内と外で化学反応を起こしていく力”を利用し、富山県民の熱も高めながら、その熱を外に拡げていく、”広住観”を起こす必要があるのです。
これまで各目的で分断されていた”広報””移住””観光”といった内外へのコミュニケーション・ブランディングを統一して行うことで、富山県が伝えたい魅力を一気通貫して伝えていくことができます。その中で様々なクリエイターの力を借り、地域の”当たり前の魅力”を再編集しながら伝え、”幸せをおすそわけ”できる環境を整えていくことができる。
これが、ひとも地域も育てながら富山県を変えていくために提案した内容です。
富山県のビジョンを実現する
私たちの提案はここにはとどまりません。
このようなビジョンを提示したうえで、それをどのように実現してくのか具体的な絵を描けることも、”ビジョニング”の強みといえます。
これまでの総合計画や長期計画は市民にとって難解な言葉が使われ、その理想像はあまり伝わっていませんでした。しかし、社会課題が複雑化するこの時代において、行政のみで成果を出すことは限界があります。県がどのように変わっていくのか、そのビジョンを共有しながら、市民を巻き込んだ取り組みが必要です。
そこで、ビジョンの広報方針として、県知事と県民が対話をしながらビジョンの解像度を高め、様々なプレイヤーを県内外から巻き込み実施していく流れを提案しました。
この取り組みの一つである”ビジョンセッション”では、この秋から県知事が15市町村をまわり、直接ビジョンを共有。ワークショップ・トークセッションによって、そのビジョンに対する意見やアイディアを募りながら、仲間集めを行っていきます。
これまでの一方的なビジョン・計画の発表ではなく、双方向のコミュニケーションを大切にしながら、ビジョンをブラッシュアップしていきます。これによって富山県の将来像の解像度がより高まっていくだけでなく、市民自身も地域のビジョンを自分ごと化し、”自分にできることはなんだろう””自分の身の回りでどんな変化が起こるのか”といったことを考えるきっかけとなります。
富山県の成長戦略ビジョン:幸せ人口1000万人
2021年8月26日、新田県知事から「幸せ人口1000万」を富山県成長戦略のビジョンとして掲げることが記者会見で発表されました。
幸せ人口とは、100万人の富山県民と、富山県に何らかの形でかかわり、”幸せ”を感じる1000万人の関係人口の合計を指します。
”自分らしく生きること”が注目され、社会の物差しが変わりつつあるこの時代に、富山県で暮らし、働く人々、富山県によく訪れたり富山県から巣立っていったひとも、富山県に愛着をもってかかわるすべてのひとが富山の仲間となって、”幸せ人口”となって行きます。
目まぐるしく変化し、そして複雑化し続ける社会の中で、このビジョンを達成することは決して楽な道ではないでしょう。しかし、着実に市民を県内外から巻き込みながら、ひとつひとつ変えていけるところから始めていくことが必要です。
そういったビジョンを実現する”VISIONING”を、自治体と共に実践することで、社会を変えていけると考えています。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?