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新しい観光キャンペーンのあり方、ビジョンを起点に「市民から広がる誘客」

去る9月16日、”敦賀をひろげるプロジェクト”の第1回セッションが、福井県敦賀市にて行われました。コロナ禍ということもありオンライン×オフラインのハイブリッド形式での開催になりました。

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2021年度、NEWPEACE thinktankは福井県敦賀市と協働し、”敦賀をひろげるプロジェクト”を実施しています。古くはユーラシア大陸へとつながる交通の要所として、近現代では原子力発電との共存共栄の中で発展してきました。魚がおいしく、ふるさと納税も盛んですが、一方で”敦賀市といえばこれ!”とぽんと出てくるような魅力を作り出せていないことも一つの課題でした。

2024年春には北陸新幹線が開通する敦賀市では、現在市民を巻き込んでの魅力発見、創造が行われています。今回の”敦賀をひろげるプロジェクト”では敦賀に住んだり働いている市民約30人が集まり、”敦賀”を市内外にひろげていくための取り組みを作っていきます。

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今回はそんな”敦賀をひろげるプロジェクト”を担当されている、敦賀市観光部 新幹線誘客課 課長補佐 松田さんのインタビューを交えながら、このプロジェクトをご紹介していきます。

ご回答者
敦賀市観光部 新幹線誘客課 課長補佐 松田和之さん
平成13年4月に入庁。税務や防災関係にも従事しつつ、大半を中心市街地活性化や観光まちづくりの分野に従事。


新たな"敦賀の魅力"が生まれつつある

NEWPEACE:

今回なぜこのプロジェクトを始めようと思われたのですか?


松田さん:

2024年春に北陸新幹線が延伸し、その終着点として敦賀にも新幹線が開通することになりました。これに合わせて敦賀市を含む、沿線の自治体では観光客の呼び込みや移住者を増やすための取り組みや企画が盛んに行われています。敦賀市ではこれに向けて、官民協働の推進、まちづくりプレーヤーの発掘・育成やプロモーション計画の策定といったソフト面に特化した専門組織として、”新幹線誘客課”を立ち上げ、様々な面からまちづくりに取り組んでいます

NEWPEACE:

新幹線開業に向けて、どのような課題感があったのでしょうか?

松田さん:

まず第一に、情報を効果的に届けるという点、そして二つ目に競合の存在が課題だと思っています。
効果的な情報発信はどこの自治体にも共通の課題かもしれません。SNSの台頭により、情報を得る手段が更に多様化し、個人の行動や好みも多様化している現在において、地域の魅力を上手に表現したり、効果的に届けること、そのための企画を立案する、といった経験が少ないため、”敦賀に来てほしい”と思っても、どのように敦賀の魅力を伝えていけば良いのかがわからないのです。それに加え、これまでPRの手法は誰にどの程度情報が伝わったのか計測することが難しく、また明確な効果を測定することも難しいという点があります。

二つ目に、近隣地域と同じことをしていては差別化にならないという点があります。特に新幹線が開通する場合、近隣で新幹線が開通する自治体とお客さんの奪い合いになります。その中で他の自治体と同じような施策を打っていたのでは差別化に繋がらず、効果が薄れてしまいます。加えて、市内の機運醸成も取り組むべき課題であったため、”市民をどうにか巻き込んでいきたい”といった思いもありましたね。

NEWPEACE:

なぜ市民を巻き込む必要があったのでしょうか?


松田さん:

これまで敦賀市は、原子力の街として発展してきた部分があります。発電所が安定して稼働しているときは作業員の方や多くの関連する社員の方が訪れ、商店街や飲食店などが潤っていました。しかし東日本大震災以降、原子力の長期停止による影響もあり、新しい産業の軸を打ち出す必要がありました。新幹線開業の契機を捉え、新しい魅力を創出し、観光客や移住者を増やす必要があると思っています

一方で、古くから交通の要衝として栄えてきた歴史がある本市は、様々な歴史的資産があるが故に、これまで”敦賀といえばこれ、”といえるような魅力に絞った打ち出しが出来なかったという背景もあります。“これしかない”という明確な魅力があれば、それを中心に産業が育ち、観光や移住が生まれるきっかけになるのですが、敦賀市には市民が一丸となって押し出す絞った魅力がありませんでした。

多くの自治体が新幹線開業などをきっかけに箱物を建設したり、大々的な観光・移住のPRを行います。しかし外部へのPRと、実際にお客さんが市内に来て本当に楽しんでもらえるのか、魅力を感じてもらえるのかといったことは別問題だと考えています。

このような背景から、私たち敦賀市では、外部へのPRをするためにも、市民ひとりひとりが敦賀に誇りを持ち、魅力を認識し、そこから少しずつ”敦賀”が広がっていく、そういう姿を実現することが必要だと考えました。新幹線開業をきっかけに、敦賀の新たな魅力が生まれ、市民が盛り上がる。そしてその盛り上がりを聞きつけて、新幹線などを利用して市外からも人がやってくる。こんな姿を目指したいと考えています。

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バックグラウンドが違うからこそ、面白い。

NEWPEACE:

敦賀市では2020年にもワークショップが行われています。その時の様子はいかがでしたか?


松田さん:

昨年のプレ開催では、商工会議所や観光協会の方々など、普段の街づくりや観光の取り組みでも協働している方々とワークショップを行いました。普段は立場上、なかなか本音を引き出せていなかったのですが、
実際に混合でチームとなり、壁新聞を作成するワークショップを行う中で、自然と腹を割った話し合いが出来たと思います。そのような機会はこれまでなかったので、半日のプレイベントだけでもとても刺激的でした。

その後、今年の夏からようやく市民を巻き込んでの本プロジェクトが始まりましたね。
これまで、市役所として街づくりや観光の話をするのは、先ほども挙がった商工会議所や観光協会の、いわゆる”プロ”の方々がほとんどでした。”敦賀をひろげるプロジェクト”ではこれまで対話出来てこなかった市民の方々が、大学生からご年配の方々まで、敦賀市内外から集まってくれました。定員30名に対し40名超の方々にご応募いただき、市民の方々にも新幹線開業に向けて何かしたいという機運が高まりつつあるのかなと思っています。

実際にキックオフと第1回のセッションを終えてみての感想ですが、様々なバックボーンを持った市民が集まることで、より多くの市民が共感し、関わってもらえる取組が生まれる可能性を感じています。
すでに市民の方々から様々なアイディアが挙がってきており、今後よりミックスされ、熟成されていくと新たな”敦賀の魅力”の種が生まれていくと実感しています。

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市民の市民による市民のためのPR

NEWPEACE:

今回のプロジェクトを通して、PRへの認識はかわりましたか?


松田さん:

今回のプロジェクトでは、市民を巻き込み、その盛り上がりを市外へ向けて発信していくというアプローチですが、そのためには、行政として、市民へ向けてのPRとその後の市外へのひろがりというPRの両方を考える必要があると思っています。
その両方に共通して重要なことは、「共感」ではないかと感じました。
行政として、目指す方向性とそれに向けて市民と盛り上がるための共感、そして市外の方が敦賀の盛り上がり見て敦賀を評価してくれるための共感の2つが必要であると感じました。
そのためにも、市内外にも伝わっていくコミュニケーションの起点として”ビジョンを示して共有する”ことの大切さを改めて認識しています。

NEWPEACE:

市民との対話を行う中で、変わったことなどはありますか?


松田さん:

これまでは”どうやって魅力を伝えていくのか”という方法論をメインに課題を据えていました。そのために広告をうったり、イベントを開催したりと、様々工夫をしてきましたが、うまくいっている自治体ばかりではないのではないかと思います。今回の大きな学びとして、行政としていいと思うものを伝える一方通行のPRでは魅力は伝わらないということがあります。私たちから一方的に魅力を作り上げて、それを市外に拡げるのでは意味がありません。市民の方々一人一人が自信をもって、街に誇りを感じてもらう、街の理想像を描くことができることができると、持続的に街の魅力が伝わっていくのではないかと考えています。

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VISIONINGと伴走力のthinktank

NEWPEACE:

今回の事業において、NEWPEACE thinktankはどのような存在でしたか?


松田さん:

”官民融合”というスタンスを大切にされていると思います。そのため、市民の盛り上がりを通して市外に発信していくという点をうまく整理した提案などをいただき、漠然と考えていたことが整理された感があります。また、行政の考え方や都合を考え、”一緒に走ってくれる”存在だと思っています。
行政はどうしても行政の言葉で話してしまいます。それを市民にも伝わるように翻訳して、共通言語をもって対話ができるように整えてくれています。市民とともに街を作るというビジョンを実現するうえで、必要不可欠なコミュニケーションだと思います。

また、VISIONINGを掲げているからこそ、どんな姿がこの街に必要かということを、コロナ禍ということもありオンラインベースのコミュニケーションが多いですが、行政としてやっていきたいことを引き出し、共通認識を作ってくれていると思っています。そういった理想像に向けて、具体的にワークショップを設計したり、Slow Innovationさんやgreenzさんといった魅力的な方々と一緒に、敦賀にゆかりのある方々を巻き込んで、市民が変わっていく瞬間をプロデュースしてくれています。

NEWPEACE:

今後、よりNEWPEACE thinktankに期待することはありますか?


松田さん:

今回の取り組みは市民が街中に魅力を見出し、作っていくための土台作りだと思っています。そのためには行政と市民、敦賀市と市外の方との共感が大事だと思います。
そのうえで、いいと思うことを共有するためには、コミュニケーションやそれを表現する手段が大切だと思います。わかりやすいKPIだけを追うのではなく、市民との共通認識を作ったり、お互いの本当に感じていることを話せる対話の機会を作ることが大切です。

今回NEWPEACEさんに入っていただき、”VISIONING”を活用しながら”敦賀をひろげるプロジェクト”を通じてビジョンや価値観を共有し共感を生む過程を一緒に考えていただいていますので、共感を生み、表現する手法やツールなどの点に強みを発揮していただけるのではないかと期待しています。

今回の事業自体が他の自治体や外部から評価を受けたりすると、市の中でもこの事業やプロジェクトの見え方が変わり継続性が生まれてくるのではないかと思っています。”敦賀をひろげるプロジェクト”で敦賀をしっかりと広げつつも、このスキーム自体も他の地域に広がっていくことが出来れば嬉しいです。

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