フルーツバスケット S1 ~24話 帰りましょう~
「元気そうだな。夾。」
そう言って紫呉の家を
訪ねてきた男の名前は草摩籍真。
十二支ではないが
草摩家の人間であり、
道場の先生をしている。夾の師匠。
由希や神羅も籍真から武術を教わった。
籍真の祖父も夾と同じ
猫憑きだったので夾の事を
1番理解しており、夾の育ての親でもある。
夾の母親は自殺(と言われている)、
父親とは絶縁状態である。
母親が亡くなった際に
親戚や周りの大人たちは
「夾のせいで死んだ」と
まだ子供の夾に好き放題言う。
「俺のせいじゃない」と震えながら
嘆く事しかできない幼い夾を引き取ったのが籍真。
その後、育ての親として夾と一緒に暮らしてきた。
***
久しぶりに会う師匠に
「おかえり!」と師匠にしか
見せない笑顔で迎える夾。
修行の旅が終わり道場へ帰るという籍真に
夾も一緒に道場へ帰りたいと言うが、
「ここへ残りなさい。」という籍真。
話が違う!とごねる夾に
「お前にとってここは最良な環境だ。
あの子(透)と暮らす事が
偶然にしろ必然にしろ、
お前にとって癒しになるなら…。」
籍真がそう言うと、
「俺はここが嫌なんだよ!
ぬるま湯みたいで、ふやけていくみたいで
時々…時々すごく嫌でたまらなくなる。
癒される事なんて望んでない。嫌なんだよ!」
夾の言葉を聞いて籍真は
そうではないだろう…と心の中で呟く。
***
今夜、籍真は紫呉の家に
泊まっていくそうだ。
籍真の布団をどこに敷くのか
神羅が聞きに行こうと2階に上ると、
ベランダから籍真と紫呉の
話し声が聞こえる。
「今夜、アレを外す事で
騒がしくなるかもしれぬ事を
先に詫びておきます。」
紫呉が籍真にそのような
決断をなぜ急に?と聞くと
「今日、あの子のあの顔を見て
彼女ならあの子の心を開くのでは…。
彼女もまた、受け止めてくれるのでは…。
そしてそれを見極めるのに最良の時期は…
今しかないと…。」
籍真がそう言うと、
紫呉は心の中で
(あなたまで彼女に全てを
委ねてしまうのか。)と呟く。
「ですが、成功する確証はないのでしょう。
彼女が受け止めても夾が拒絶する可能性もある。
今度こそ、夾が壊れる可能性も。
あなたすら憎み、もう2度と笑いかけてはくれぬかも。
それでも万に一つに賭けるのですか?」
籍真は何も答えないが
それでも彼女に賭けてみたいと
心の中で思う。
そして透を呼び出し、
今日の夜、時間が欲しいとお願いする。
***
外は今にも雨が降りそうだ。
ダルそうにする夾を外に呼び出す籍真。
「師匠、話は外じゃなくても良いだろう。
こういう日は特にダメだって知っているくせに。」
「私の祖父もそうだった。
猫憑き故か。
本来の物の怪が雨を嫌う故か。
そろそろ、本来の姿の事も
きちんと受け止めなくては前に進めないよ。」
「受け止めてるよ!
俺の人生は猫憑きとして
産まれた時点で終わってるって。
それが鼠のあいつのせいだってことも。
あいつがそもそもの元凶ってことも。」
夾の言葉を聞いて悲しそうにする籍真。
「変わっていないね…。
お前はこれからもそうして
生きていくのか?
耳をふさぎ、目を閉じ、由希を憎むことで
全てを覆い隠し、そんな形でしか
自分をたもっていけないのか?
そして…。そして死んでいくのか?
たった一人で。祖父のように。
お前は言ったな。ここが嫌だと。
だが、違う。
お前は逃げようとしているだけだよ。」
籍真はそう言うと夾の左手を取る。
「ぬるま湯と称した温かいものが
自分を癒していくのが分かる。
だが本来の姿を知られたくない。
知られて失うのが怖い。
その曖昧な状況から
お前は逃げようとしているだけだよ。
ならば私はその逃げる手を取ろう。
失うか、失わざるか、
その結果を導こう。
お前の人生は本当に
終わっている代物なのかどうか。」
籍真は夾の左手についている
紅白の数珠を素早く外す。
その瞬間、玄関先で
やりとりを見ていた
透と目が合う夾。
数珠が手から外れると
夾の姿は猫の姿とは異なる
怪物のような見た目に変化していく。
***
母親の言葉がフラッシュバックする。
「大丈夫。私はあなたを
愛しているから。
だから誰にも見せないの。
誰も見ないで。私の子供。」
そして慊人に言われた言葉も。
「気持ち悪い。
これが夾の本当の姿なの?
身体が醜くひしゃげてるよ。
それに、なんてひどい匂い。
何かが腐ってるような。
これが、猫の物の怪の本来の姿?」
***
「…夾…くん…?」
怪物に変化した夾を見て
唖然とする透。
透に見られた瞬間、
森の中へと逃げる夾。
「見られた…見られた…
終わりだ。もう終わりだ全部。」
***
「…あれが、猫憑きの夾が
隠していたもう一つの姿です。
気味が悪かったですか?
怖いと思いましたか?」
籍真が透に聞く。
透は何も言わずに夾が
逃げて行った方へと走りだす。
***
雨が降る中、森の奥で1人佇む夾。
思い出していたのは母に昔言われた言葉。
「どうしたの。
また慊人に何か言われたの?
大丈夫。私はあなたを愛しているから。」
母の言葉を思い出しては
「やめろ!」と否定する夾。
振り向くと透がいた。
「お前何しに来てんだよ。
目見えてんのか。鼻きいてんのか。
気持ち悪いだろ!
なんで放っておかないんだよ。
同情なんぞごめんなんだよ!」
と突き放す夾。
透がさらに近づこうとすると
「触るな!」と言って突き飛ばす。
透は吹き飛び腕にケガを負う。
いっそ失うなら傷つけて
2度と会いたくなくなるよう、
自分を避けるよう、ぐちゃぐちゃにしてやる。
もう嫌なんだ。
失うのも、同情されるのも
惨めな気持ちになるのも
押し付けられるのも。
心の中で思う夾。
そしてまた母親の言葉が
フラッシュバックする。
「違うのよ。あなたはちゃんとした人間よ。
その証拠にほら、すぐに元の姿に戻るもの。
私は少しも怖くなんてないわ。」
違う。
本当は怖かったんだろ。
だから1日に何十回も
俺の数珠が外れないか確かめたんだろ。
「あなたは私の自慢の息子よ。」
違うだろ。
だったらなんで俺を外に出さなかったんだ。
「かわいいから誰にも見せてあげないの。」
恥ずかしかったんだろ。
「いいえ。大好きよ。
あなたのためならお母さん死んでもいいもの。」
なんでそんな事言うんだよ。
本当のオレを認めてもくれないくせに。
なんで愛情ばかりひけらかすんだよ。
「母さんは誰よりもお前を愛していたんだぞ。」
父親の言葉もフラッシュバックする。
「やめろ!!
そんなもの俺に押し付けるなよ!
そんなものいらない…いらないんだ。」
母親は愛の言葉でごまかして
夾自身に向き合ってくれないまま
亡くなった。
そして母親が亡くなったのは
お前のせいだと父親に責められる夾。
(ぐちゃぐちゃに傷ついているのは
夾の方じゃんか。)
透は立ち上がり、家の方向へと
ゆっくり歩いていたが、
このままだと夾は一生あの家に
帰ってこないと思い夾の所へと引き返す。
来るなと拒む夾に抵抗する透。
今の夾は声も姿も違うので怖いけど
これからは理解していきたい、
夾が透の弱音を聞いてくれたように
自分も夾の弱音を聞くし教えてほしいと
夾に真っ直ぐ向き合う透。
これからも一緒に過ごしたいという
透の言葉を聞いて、いつの間にか
人間の姿に戻っている夾。
「全てを愛してくれなくても良かった。
怖がっても良かった。
怖がるのは醜い俺をちゃんと
見てくれてる証拠だから。
でも母さんは愛情でごまかして
見ようと、考えようとしなかった。
俺は一緒に考えて悩んで欲しかったんだ。
一緒に生きて行こう、って。」
泣きながら透を抱きしめる夾。
誰も言ってくれなかった言葉を
透がくれて自分の為に泣いてくれた。
***
明け方。
紫呉の家の前で待つ籍真。
透が戻ってきた。
腕の中には猫の姿になった夾。
安心して微笑む籍真。
24話おわり
***
来たー!この時を待っていた!
語りたいことはたくさんあるけど
親から受ける影響は絶大だね。
これは誰でも精神やられるって…。
親が愛情で言っているのか
自分の保身の為に言っているのか、
子供は小さいながらにも
敏感に感じとるものだよね。
子が親を選べないのと同様
親も子を選べない。
花ちゃんのお話を見て思ったのは
どんなに親が子供の事を理解し、
愛していても、花ちゃんのように
家族以外の他人と関わり、認められる事で
初めて自分を受け入れられるパターンもある。
だから夾の親が
夾の本当の姿や境遇を理解し、
理解した上で愛していたとしても
夾が自分を受け入れられるとは限らない。
親子だからって絶対に
理解しなきゃいけない訳じゃない。
家族がダメならよそで作ればいい。
他者と関わる中できっと
自分の事を心から理解して想って
くれる人がどこかにいる。
フルバからはいつもそんな
メッセージを受け取っているような気がする。
親との関係とか境遇とか
自分の当時の気持ちが
やけに刺さるんだよな~。
コンプレックスをぐさぐさと
えぐられているような感じだけど
最後は優しく包み込んでくれるみたいな。笑
こんな不思議な気持ちになる
漫画はフルバが初めてだ。
初めてと言ったら、夾の初めての
「透」呼びは色々な感情が
混ざりまくって胸キュン
どころじゃなくなったよね。
何にせよ名シーンだったな~。