【短編小説】これが私の答えです
「ここじゃゆっくり話せないからさ、場所変えない?ラブホとか。」
時刻は午前11時。
ジョウ――私の目の前に座っている男――は、何寝ぼけたことを言っているのだろうか。
私の友人であるメグミとの浮気疑惑がキッカケで、私から別れ話を切り出したのが昨夜のこと。
LINEでは埒があかないから直接会って話すことになった。
「俺が今から、お前の部屋に行くから」と言われたが部屋に上げる気分に到底なれなくて、翌日に駅前のカフェで待ち合わせすることになったのだ。
「あ、いや、最後に1回やりたいとかじゃなくて。別れ話って周りに人がいたら話しにくいじゃん。」
全くそんなことない。
周りが自分達の話す内容に聞き耳たてていると思うなんて、自意識過剰ではないか。
「もっとこう…静かな場所とか?カラオケとか?」
なぜ密室にこだわる?
今はジョウと密室で2人っきりになりたくない。
「ちょっと、何か言えよ。黙ってたらわかんないじゃん。」
暴言吐かないように、自制しているだけだ。
「メグちゃんも言ってたけどさ、その黙り込むクセ直したはうがいいんじゃない?」
今、ソイツの名前を出すお前の性根を叩き直せよ。
「はぁー。俺ら、もう別れる?」
私は我慢できず、テーブルを強く叩いた勢いで立ち上がった。
「お前から別れ話切り出した空気出すな!
元はと言えば、お前がメグミとラブホ行ったのが原因で、こうなったんだろうが!
メグミのインスタ見てねぇのかよ!
お前とメグミの匂わせ写真がアップされてんだよ!!」
私が大声を出したらせいだろう、周りの人々がチラチラとこちらを見ている。
「ちょ…メグちゃんとは1回だけだし…あ、もうラブホ行こうとか言わないから。」
私の大声に驚いたのか、周りの視線が気になるのか、ジョウの声が震えている。
「まずは座ろ、な…」
そう言いながら、私の腕を掴もうとした。
「汚ねぇ手で触るな!」
払いのける時、自分でも驚くほど大きな声が出た。ジョウもひるんだ様子だ。
――もう話すことはない。
そのままカフェの出口へ体を向けた。
「また話終わってないだろ!」
ジョウは興奮気味に立ち上がり、今度は私の腕を掴んた。
ぞわっと鳥肌が立った。もう愛も情もなくなってしまったようだ。
振り払おうと腕を勢いよく動かしたら、意図せず裏拳がジョウのほほに入った。手の甲がじんじん痛む。
何が起きたかわからないようで、ジョウは目をぱちくりさせている。
何か言ったほうが良いだろうか。
「…これが私の答えです。」