松田華音:信頼できる弾き手—パシフィックフィルハーモニア東京:第7回練馬定期演奏会【コンサートミニレポ#13】
パシフィックフィルハーモニア東京:第7回練馬定期演奏会
2024年9月14日(土)14:00開演(13:00開場)
練馬区立練馬文化センター
Artist/出演
指揮:飯森範親
ピアノ:松田華音
Program/プログラム
シベリウス/交響曲第2番 ニ⾧調 作品43
シチェドリン/ピアノ協奏曲第1番
シベリウス/交響詩「フィンランディア」 作品26
2021年、松田華音さんは日本センチュリー交響楽団、指揮は今回と同じ飯森範親とともに、シチェドリンの1番を日本初演している。この作品は私も前から大好きな作品であり、この機会は逃すまいと思って練馬に赴いた。
プログラムの表紙には「ロシア的抒情性」と書いていたけれど、シチェドリンに「抒情」という言葉はあまり似合わないような気がする。たしかに3楽章などは抒情的ではあるのだが、シチェドリンの場合は客観的にそれを作っているという感じがする。つまり、本気で抒情を目指しているというより、抒情大喜利をしているというような。
ロシア仕込みの松田さんの演奏は、このような乾燥して作風にぴったりと合致している。クリアな発音で、シチェドリンをこれほど魅力的に弾けるピアニストは日本にはあまりいないだろうと感じさせられる。ピアノ協奏曲も素晴らしかったが、アンコールの《バッソ・オスティナート》においてはさらに良さが際立ったように思う。
松田さんは2025年4月に新交響楽団でシチェドリンのピアノ協奏曲第2番の日本初演が決定している。これほどの重要作曲家の重要作品が今まで無視されてきたという事実には驚きを隠せない。と言いたいところだが、日本の音楽界というのはとかくこのような有様であるのも事実である。とりわけピアノという楽器に携わる者たちの志の低さには呆れるばかりである(オーケストラや吹奏楽などの世界でもこのような印象を受ける人も多いだろう)。技術だけあって思想がまるで欠如した弾き手の多いこの業界において、数少ない信頼できる弾き手の一人が松田さんであることは間違いないだろう。
そのシチェドリンを挟んだのは、シベリウスの交響曲第2番とフィンランディア。フィンランディアを最後に演奏するというフィンランド・スタイルの演奏会を組むという趣向も含め、個性的なプログラムを組むことのできるパシフィックフィルハーモニア東京(PPT)もまた信頼できる演奏家(たち)に数えることができる。技術的には(シチェドリンは特に)問題がないとは言えない演奏だったが、しかしこのプログラムで気概を見せつけてくれれば不満など生じ得ない。在京のプロオーケストラの中で異彩を放つPPTだが、本年3月の16人退団のような不安定さが懸念される。このようなオーケストラをこそ、音楽界は守らなくてはならない。今回も年に1度の練馬定期、このプログラム、そして松田さんの名前をもってしても客席に空きがある。
いま、本当に問われているのは、聴き手の方なのかもしれない。
(文責:西垣龍一)