雨降り、遅刻、なのに晴れやか
朝から雨が続いていた。天気予報は一日雨が降るという。だが大切な予定があった。先日知り合った先輩とのお食事。会うたびに素敵なお話を聞かせてくれる方で、今日が来ることを心待ちにしていた。早起きしてメイクをして、お気に入りの服を着て、いざ外に出たら雨がざぁざぁ降り…。天候を確認するのを忘れていた事が悔やまれる。駅までは自転車だとすぐだが、徒歩だとかなり時間がかかる。仕方ないので、バスで駅に向かうことにした。カッパを着て自転車に乗る手段もあったが、せっかくの洋服や髪の毛が汚れてしまうのを嫌った。
雨で濡れたくない、これは多くの人が思うことだろう。道は歩く人が少なく、車が渋滞していた。のろのろとしか動かないバス。スマホと停留所の案内板を交互に見るが、スマホに表示されている予定からどんどん遅れていく、遅れていく…。早めに家を出たアドバンテージがゼロへそしてマイナスへ…。たまらず先輩へ遅れますと連絡を送る。以前読んだビジネス本で人と信頼関係を築きたい時は遅刻は絶対するなと書かれていた。心はめちゃくちゃ急いでいるのに、それに伴わないバスの歩み。むしろ歩いたほうが早かったかもしれない。
先輩から「駐車場が見つからなくて遅くなるからゆっくりおいで」と連絡が来てホッとした。相手に気負わせず気を使えるのが素敵なところだ。心に少し余裕が出来た。本来雨の日は好きだ。それは雨の日だけに聞く特別な曲があるから。
この曲、「雨に唄えば」の劇中歌だ。ミュージカルを観に行ってから、雨の日はこの曲を聞くと決めている。雨の日は体濡れるし寒いし憂鬱、そんな気分が晴れていく。軽やかなメロディがさっきまでのもやもやを吹き飛ばしてルルルンルン♪な気分にさせてくれる。
待ち合わせ場所は渋谷スクランブル交差点前TSUTAYA。渋谷は雨なのに人で混雑している。普段めったに渋谷なんて行かない田舎者としては、ましてやTSUTAYAで待ち合わせなんて、映画に出てきそうなシチュエーションでワクワクした。
「着きました」とLINEを送ると、ほどなく先輩が来て手を振って出迎えてくれた。やっぱり待たせていたのだろうか。イエローの傘にイエローのコートと黄色のコーディネート。派手な色合いだが、周囲から悪目立ちすることなく、むしろすごく爽やかで、どんよりうす暗い雨模様に明るい灯が灯っているようだった。そういえば「雨に唄えば」もイメージカラーが黄色だった気がする。
雨の中、混雑する人混みを歩くとき、濡れる事をいとわずに黄色い傘を高々と掲げて楽しそうに歩く。雨も寒さも、もろともしないのだ。10歳以上年上のはずなのに、それを感じさせないパワフルさと明るさ。こんな人になりたい。会うたびにいつも楽しい。
先輩に連れられてきたのは、五右衛門というパスタ屋さん。ジェノヴェーゼという単語を知った。緑色の調味料でバジル、ニンニク、松の実、オリーブオイルなどを混ぜて作るものらしい。興味本位でジェノヴェーゼパスタを頼んでみて、緑色のパスタを間近にしたときには恐る恐るだったが、とても美味しかった。写真を撮り忘れたので、デザートの写真を上げておこう。これもとても美味しかった。
デザートの名前は忘れたが、フワフワのプリンみたいなものにパリパリの焦がしたキャラメルが乗っていて、とても美味しかった。その隣に乗ってるのはアイス。キャラメルっぽい味だった。これもとても美味しかった。
何よりテンションが上がったのが、クリームソーダがメニューにあった事。メロンソーダの上にちょこんと乗ったバニラアイス、そのフォルムを見ればたちまち子供に戻って、はしゃいでしまう。これもとても美味しかった。子供の頃、クリームソーダはお出かけに行ったときにしか食べられない特別な食べ物だった。同じような思い出を持つ人はいないだろうか。
楽しい時間はあっという間に過ぎ、たくさん勉強もさせて貰った。また明日からも頑張らねば、と気を引き締めた。帰りも駅まで送ってくれて、姿が見えなくなるまで手を振ってくれた。少し気恥ずかしかったが嬉しかった。次に会えるのはいつだろうか。今から楽しみ。
以上、五右衛門は美味しかった話でした。