飛生芸術祭2024に行ってきました

ずっと行きたかった「飛生の森」の芸術祭

ずっと行きたいと思いながらも毎年、仕事の都合で行けなかったりして、今年およそ10年越しの願いが叶いました。住んでいる札幌からは片道2時間強の白老町竹浦「飛生の森」で開催中のアートフェスティバルです。
期間は昨日9月7日(土)から、来週9月15日(日)までの約1週間で、入場無料(ドネーションあり)。当地ならではの鑑賞体験ができる、素敵な芸術祭です。

まず白老駅前のbrew galleryへ

芸術祭会場の前に、通り道となるJR白老駅前に今年オープンしたbrew galleryに立ち寄り「飛生アートコミュニティー グループ展」(8月24日〜9月15日)を鑑賞。これまで同コミュニティーに関係してきたアーティストたちの粒ぞろいの作品が、説得力のあるギャラリー空間で観られることが、確実に街なかに明るい光をもたらしていると感じます。
私としては、石川直樹さんの写真や冨田美穂さんの版画を目の当たりで体験できたのがとても嬉しかったです。
お二人の作品は、個人が世界を深く見つめていく方法を見せてもらっているような気がして惹かれます。石川さんの場合は、常人離れした探検に裏付けされた一時が固着した写真。冨田さんは、見つめつづけて心に刻まれた一頭一頭の牛たちの、細部と全体を統合して自分の体でもう一度写し直す木版画。その体験と時間が体に迫る作品だと思います。

窓からの光を取り入れながらも、壁面は白でギャラリーらしく。
うちの近所にもあったらと羨ましくなります。

芸術祭会場へ

白老駅前でランチを食べてから、車で約20分ほど田舎道を走り会場に到着。廃校を利用した会場と聞いていましたが、屋外には熊の彫刻や3人乗りのブランコなど、普段から利用している人の様子が伺えます。
手描きの看板に迎えられて入場すると、中学生〜高校生くらいの方が嬉しそうにあいさつしてくれました。「遠いところからありがとうございます。ぜひ楽しんでください」とガイドマップを手渡し、虫よけも貸してくれました。とても明るい雰囲気で、こちらも嬉しくなります。

⽩⽼町の旧⾶⽣⼩学校にアトリエを構え、1986年に発足した⾶⽣アートコミュニティー。

そこで制作する若手アーティストたちによる小さな「⾶⽣芸術祭」がはじまったのは2009年のこと。「⾶⽣芸術祭」は、⽊造校舎と周囲の森を展覧会場として、多様な表現をお披露⽬し、たくさんの⽅々と出会い交流する、⼀年に⼀度の催しです。

この場、この土地でしか成し得ない創作・表現とは何かをずっと考え続け、多くの有志とともに協働を続けています。

飛生芸術祭ウェブサイト「はじめに」より
廊下で出迎えてくれた「守り鳥」(2009)は、登別軟石で作られた彫刻。
芸術祭は2009年スタートだそうなので、当時からの守り神ということでしょうか。
ひんやりとしたイメージ、しかし動きのある形の存在感がぴったりです。
キャプションには記載がありませんが、どなたの作か知りたいです。

校舎内の作品

まずは校舎会場内で作品を鑑賞。お目当ての一つだった国松希根太さんの作品は、音響空間を作るKOMAKUSさんと共作で今年2024年の作品「音の影」。彫刻を聴覚で体験する実験作品とのことです。
体育館を埋めるスケールの巨木が中央に待ち構え、どこかシンとした音が響く様子には、薄曇りの日に一人で森に入る時のような緊張感を覚えました。

実物のスケール感を体験してほしいです。
卵のように磨かれた写真奥・左の作品は、実際に色んな角度から観るのが良いです。
森の中の枯れ木と同じく蜘蛛が住み着いたりしている様子が観られます。
これは都会のギャラリーでは観られないかも。
SIAF2024で観た時とは印象がかなり違いました。

こちらもとても良かった、奥山三彩さんの「放課後の教室」。部屋に入って気だるげな白い少年の姿が目に飛び込んできました。キャプションによると、桂や樫の木を削ったものを白く着彩した彫刻で、色もなにか、記憶がささやく影のようなイメージです。
私は小学校の休み時間を思い出しました。こうしたポーズを取っている仲間はいなかったような気がする(真横に寝そべって飛んでいたり、壁によじ登ったりも)のだけど、なにか「思い起こさせる」のが芸術の持っている力なんだなと考えました。

絶妙な表情をしています。
白壁に色付きで影が映り込み、映像を投影しているみたいです。

きちんとギャラリーに生まれ変わった学校

そして、会場の雰囲気に驚きました。
リノベーションが本当に綺麗です。これまで観た廃校を利用した文化施設は、展示用設備の追加以外に基本的には学校の雰囲気がそのまま残されていましたが、ここは「ギャラリー空間」であることが前提となり、その屋台骨として学校の歴史が生きている、目的にかなった呼吸をしている建物に生まれ変わっています。

相川みつぐさんの濃色な作品群。
歴代校長先生の肖像画や校歌の歌詞が飾られていそうな位置に、新たな物語が生まれています。
「とびうさぎカフェ」では、バタフライピーのハーブティーなど、落ち着く飲み物があります。
奈良美智さんのドローイング! なんか、ここはサイン入りプレイス感。
「タイムトンネル」(職員玄関?)では小学校と地域の歴史を紹介。
右端のヒヨドリの絵が、躍動感ありいいですね。
「閉校式の準備をまじめにやる」。どこか切ないけれど、元気に過ごしていたんだって感じます。

屋外「飛生の森」展示

体育館裏の雑木林「飛生の森」は、環境に馴染む木製のオブジェを中心に、作品と森林環境の空間を楽しむという場所でした。
徒歩で一周するとおそらく15分くらいだろう広さの敷地です。
環境に馴染み変化していく、常設の作品が多数あり、中でも音のおもちゃのような清水郁太郎さんの作品が素敵でした。爽やかに鳴り響く「ソラミレバ」、またキツツキのドラミングができる装置(本物のアカゲラもいたっぽいけど)は気持ちいい。木々の中って案外、室内より音が伝わるのかもしれません。

印象に残ったのは、地域の子どもが「大きな巣があったんだけど壊れてしまった」「ここを動かすと音がなるんだよ」とか、解説をして回っているのが聞こえてきたこと。
たぶん大人と同じような当事者意識を持っているのではと感じます。子どもも、自分が創作したものや他の体験と同じように、この芸術祭を嬉しく思っているんですね。

ちびっこには専用の入口があります。くぐってみたい。
近寄ると存在しているのがわかるというバランスで作るのは、尊敬の一つの形かも。
大きな「巣」の中の「卵」。
「Tupiu」という鳥を迎える物語は今も進行中とのことです。来年はどんな姿になるのだろう。
2019年にできた黒い鳥のゲート「Tupiu」。(公式サイトの説明)

おわりに

校舎内はきちんと作品そのものが主体でありつつ、ここでしか観られない体験ができました。それは空間が機能しているということでもあるかと思います。
飛生の森では、「Tupiu」の物語が、作品だけではなく雑木林の可能性も含めてどのように展開するのか想像しました。

一点、持ち帰ることができる作品リストがあると、振り返りになお良いですね。

来年はどんな作品が迎えてくれるのでしょうか。コミュニティーを巡る風の様子が形になると思うと、今から楽しみです。
また、今回は時間の都合でワークショップの類に参加できなかったので、次回はそうした体験を楽しみにいくのも良いと思いました。

皆様もぜひ、観に行かれてはいかがでしょうか!

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