大黒淳一「石炭を呼び起こす」@JR岩見沢駅自由通路
9月29日〜10月14日(月・祝)まで、JR岩見沢駅自由通路で開かれている大黒淳一さんのサウンド・インスタレーション「石炭を呼び起こす」。その中で、10月6日に開かれた大黒さんら4人の音楽家によるライブパフォーマンスを鑑賞してきました。
CAI03で観た同氏の展示「音のアントロポセン」がきっかけで、頂いたチラシに興味を持ち、当日は純粋にライブを楽しもうという気持ちでした。しかし前後の観光も含めて、これまで馴染みのなかった岩見沢市や空知地方の歴史と現在の空気を知る、厚みのある体験ができました。
このイベントは、北海道開拓期の経済成長を担った空知・室蘭・小樽地域の歴史を「北の産業革命」と称し紹介するプロジェクト「炭鉄港」が、日本遺産に認定され5周年を迎えたことを記念したアートプロジェクトとして開催。主催は北海道空知総合振興局で、官公庁主体のイベントのようです。
開催地の岩見沢市は、当時の一大エネルギー源である空知地方の石炭を各地に運ぶ交通の要衝として栄えた歴史があり、同駅前の「炭鉱の記憶マネジメントセンター石蔵」「旧北海道炭礦鉄道岩見沢工場(岩見沢レールセンター)」が構成資産となっています。
僕はこのライブ前の予習(道草)で、石蔵でやっていたパネル展や三笠市の「幌内変電所」と周辺の環境を観て、初めて空知地方の歴史に気づきました。小樽の手宮にも続いていたんだ、とか、「炭鉄港」の各地にも興味が出てきたのですが、それはまた別の機会において、以下にライブの話を。
あいさつ
はじめに、モデレーターを務めた端聡さん(CAI03)が背景や当日の演者たちを紹介し、主催の空知総合振興局代表者・阿部さんのあいさつへ。「空知の炭鉄港の記憶を途絶えさせずに伝えることで、未来に思いを馳せる機会になってほしい」との弁に、端さんが「熱意に動かされ、この企画が実現しました。ここ空知がなければ北海道の近代化はなかったかも。ネガティブな面の記憶も含め、当時の人達にアートでレクイエムを送るサウンド・インスタレーションです」と応えていました。
このとき、アートイベントは未来を作るものなんだと直感しました。遺産を見て勉強するのは未来への思考の種を育てることですが、それに加えるべき、現在からつながる未来の方向を実感させるなにかが、アートにはあるのかもしれません。
その後、大黒さんが約100mの自由通路内で展開しているサウンド・インスタレーション作品について説明。「近代化を担った石炭それ自体は、植物の化石。それを呼び起こす方法を考えながら、列車のフィールドレコーディングや振動を音に変換したものを編集し、太古の記憶を呼び起こすようなイメージの作品にしました」とのこと。その後、フルート畠中さん、マリンバ小川さん、ピアノ有馬さんの共演者3名が自己紹介し、演奏の準備に移りました。
会場の様子と演奏
演者は通路端のスペースで演奏、鑑賞者の多くはちょうど反対側の壁に列をなし、中央を通行者のスペースとして開けていました。
僕は100mある通路の一番左側に立っていました。楽器の位置は、左から大黒さんの電子楽器、小川さんのマリンバ、畠中さんのフルート、有馬さんのピアノ。電子楽器以外はほぼ、クラシック音楽で使われる歴史のある楽器で揃えられています。
そこで様子を見ていたら、突然スピーカーから音が流れ演奏がスタート。これは、もともと会場で流れている作品の音を基調としたもので、ここに演者たちの生演奏が乗り展開されます。
それぞれの場所で、抑揚は控えめながらまったく違う音が鳴っており、それがゆるやかに連携しつながって聴こえていました。
これは「音のトンネル」という感じ。
反対側から聴いたらどんな景色だったんだろう。おそらく楽器の生音が中心で、基調の作品の音はもっと背景的に聴こえてくるんだろうけど。
また、演奏中も、駅の利用者らが目の前を通行しているのですが、不思議とその通行音が耳に心地よく届きます。さまざまな歩幅の歩行者、友人らと連れ合う生徒たちが押す自転車の車輪の音。そして、眼下の線路を走る列車のリズム。
石炭ではないですが、熱を持ったものたちがいつも、交差しているのだなと想起されます。
約30分間、過去と現在が交錯して未来に向かう音の空間が、ゆるやかにしかし緊張感をもって存在していました。
おわりに
普段展開しているのサウンドインスタレーションは、演奏後30分後くらいに再開とのことでしたが、帰宅時間が迫っていたため体験できずじまいでした。
僕にとっては、岩見沢から色んな場所に展開する「炭鉄港」の関連施設や、自分が住む札幌の来歴にも、もっとイメージが広がるきっかけの一日になりました。
10月14日まで展示されているので、興味がある方は、関連施設の観光も合わせたコースで回られることをおすすめします。
最後に、コインパーキングから出られず事件が発生して(新札受付不可・サポート電話がつながらない)シャッター街の間になんとか見つけたコンビニへ両替に行くオチがついたのも、ある意味今の岩見沢なのかとも⋯⋯。いい未来を創造するために、生きた文化が根付いていくと良いですね。
以下は演奏中に撮影した写真です。ミラーレスカメラならではの消音機能は、こういうシーンでとても大事ですね。