2020年 愛知教育大学 二次試験 世界史

かっぱの大学入試に挑戦、26本目は愛知教育大学の世界史。時代は古代・中世・近世・近代。地域は東アジア・ヨーロッパ・西アジア。問題形式としては用語記述+論述で3題。では、以下私なりの解答と解説。


第1問 東アジアの反乱

空欄補充 解答 1:陳勝・呉広 2:王莽 3:赤眉 4:玄宗 5:朱全忠 6:靖康 7:白蓮教 8:李自成 9:洪秀全 10:義和団

解説 中国史に関する基本問題。1は「秦末」「蜂起を機に各地で反乱」から、陳勝・呉広の乱を想起したい。2、3は「漢を簒奪」「新の時代」「後漢の成立」で判断。4は「安史の乱」「時の皇帝」で判断。5は「黄巣の乱」「唐を滅ぼし」「後梁を建国」と来たら朱全忠。6は「宋」が「金に華北を奪われた」事変なので靖康の変。7は「紅巾の乱」の「中核」となった「教徒」といえば白蓮教。8は「明を滅ぼした」「反乱指導者」で判断。9は「太平天国を建国」でわかる。10は「1900年に蜂起」「扶清滅洋」で判断。

問1.解答 中央から地方に官吏を派遣する郡県制を全国に施行し、貨幣を半両銭に統一したほか、文字や度量衡を統一し、焚書坑儒による思想統制を行った。

解説 設問の要求は秦の地方統治と統一諸政策の概要を説明すること。注意するのは「秦の始皇帝」に関連しての設問だということ。「地方統治」として郡県制が挙げられるが、この制度自体は始皇帝以前から秦で行われていたものであり、始皇帝が中国を統一したことにより全国で施行するようになった点に気をつけたい。「統一諸政策」としては貨幣・文字・度量衡の統一、焚書坑儒による思想の統制が挙げられるだろう。

問2.解答 誰:張角 何:太平道

解説 黄巾の乱に関わる問題。後漢末に宗教結社太平道の指導者である張角が起こした反乱である。太平道は張陵の五斗米道とともに道教の源流となった。

問3.解答 物産:塩 理由:唐の政府が財政難を解決するために塩の専売を始めたため、塩の自由な取引が出来なくなったから。

解説 黄巣の乱についての問題。塩の密売人である黄巣が起こした反乱であるが、密売の横行した理由は唐政府による塩の専売が挙げられる。

問4.(1)解答 著者名:ボッカチオ 作品名:デカメロン

解説 「14世紀」「イタリアで発生した疫病」「十日間かけて物語を語り合うという内容」から、ペストから逃れた男女が語り合う、ボッカチオの作品である『デカメロン』を想定したい。

(2)解答 モンゴル帝国により東西の交通路が整備され、ユーラシア大陸の東西での交流が盛んになり、さらに十字軍や東方貿易によりヨーロッパと中東との行き来も盛んであったため。

解説 設問の要求は「悪疫」の感染がユーラシア大陸規模で拡大した要因の一つである、13世紀以降の国際情勢を説明すること。設問ではペストの流行について「東は中国から西は中東・ヨーロッパにまで拡大していた」とあり、事実としてはそうだろうが、『デカメロン』内で「東方諸国」とあるのは一体どのあたりまでを指しているのか気にはなった問題。解答としては、「13世紀」と来れば想定したいのがモンゴルの世紀。モンゴル帝国の拡大・発展によりユーラシア大陸にまたがる交通路が整備され、中国商人やムスリム商人などによる東西交流が活発になった。ただそれだけではなく、『デカメロン』における「東西」の範囲を考えれば、十字軍や東方貿易によるイタリアと中東とのつながりも無視できないだろう。第4回以降の十字軍は13世紀以降の出来事であったことを意識したい。

(3)解答 ①:ジャックリ―の乱 ②:ワット=タイラーの乱

解説 「農民反乱」「1358年」「1381年」=14世紀の農民反乱といえば、フランスのジャックリ―の乱とイギリスのワット=タイラーの乱であろう。

問5.解答 トウモロコシ・サツマイモ

解説 「アメリカ大陸から導入」「主食として人口の増加に寄与」「ジャガイモ・カボチャ以外」となると、トウモロコシがまずは挙げられるが、サツマイモもアメリカ大陸原産であることを想起したい。アメリカ大陸原産の作物としてはトマトなどもあるが、「主食として」考えるなら上記の2つであろう。

問6.解答 中国東北地方において、農牧・狩猟生活をしていた女真は明との交易を盛んにして成長していった。16世紀末にはヌルハチが女真の部族を統一し、後金国を建国した。ヌルハチは女真を軍事・行政組織である八旗に編成し、満州文字を創始して国家機構を整え、勢力を広げていった。ヌルハチの後を継いだ2代目のホンタイジ内モンゴルを征服し大ハーンの位を引き継ぎ、太宗として皇帝位につき、国号を「大清」に改めた。(193字)

解説 設問の要求は清が1636年に「大清」という国号を定めた過程を述べること。条件として「ホンタイジ」「八旗」「内モンゴル」「後金国」「女真」の語句を用いること。用語からもわかるように、清の建国時の過程を説明する問題である。大まかな構成としては、ヌルハチによる女真の統一・後金国の建国➝ヌルハチによる八旗の編成・勢力の拡大➝ホンタイジによる内モンゴルの征服➝ホンタイジの皇帝位即位・「大清」国号制定といったところだろう。ホンタイジの治世には朝鮮も服属させるが、それは1637年で「大清」国号制定後なので、「そこに至る過程」としては不必要であろう。字数から言えば一つ一つの用語を少し詳しめに説明しても良いかもしれない。

問7.解答(1)曾国藩 (2)d

解説 「太平天国」「湘軍」といえば曾国藩。李鴻章の淮軍とともに活躍した義勇軍(郷勇)である。「太平天国の都である天京」とは南京のことで、aは上海、bは杭州、cは福州、dが南京、eは安寧、fは南昌、gは武昌、hは長沙、iは広州、jは金田村、kは遵義だろう。

問8.解答 アロー戦争後の北京条約でキリスト教の布教が公認され、列強の進出とともにキリスト教の布教が拡大すると、民衆の民族的反発から起きたキリスト教への排斥運動。

解説 仇教運動について説明する問題。端的に言えばキリスト教排斥運動であるが、背景としてアロー戦争後の北京条約によるキリスト教布教の公認・拡大についても触れられると良いだろう。

問9.解答 (1)日本・ロシア (2)北京議定書(辛丑和約)

解説 義和団事件後の北清事変についての問題。中国に出兵した列強8か国連合軍は、当時中国の権益に関わっていたイギリス・フランス・ドイツ・イタリア・ロシア・オーストリア・アメリカ・日本であり、「主力」となったのは中国に近い日本とロシアであった。そして連合軍に敗北した清は北京議定書を締結し、外国軍隊の北京駐屯などを認めさせられた。


第2問 イギリスの産業革命

空欄補充 解答 1:インド 2:ジョン=ケイ 3:力織機 4:ニューコメン 5:1769 6:マンチェスター 7:(第2次)囲い込み 8:労働組合

解説 産業革命に関する基本問題。1は「17世紀末」「イギリスへともたらされた綿製品」から、当初はイギリスへ綿製品を輸出していたインドを想起したい。2は「飛び杼」を発明とくればジョン=ケイ。3は「カートライト」の発明で力織機と判断。4は「蒸気機関」を「実用化」とあるが、ワットがその後の本文中に出てくるので、ニューコメンを想起したい。5はワットが蒸気機関の改良に成功した年だが、聞いて何になるだろう問題。1769年。18世紀後半という感覚が大事。6は「リヴァプール」との間に「旅客鉄道が開通」となるとマンチェスターだろう。7は「産業革命が可能になった条件」で「土地を追われた農民」とくれば第2次囲い込みを想起したい。8は「労働者」が「組織」して「経営者と交渉」するものなので、労働組合だろう。

問1.解答 C➝B➝A

解説 紡績機の発明順を答える問題。ハーグリーヴズの多軸式紡績機(ジェニー紡績機)が1764年頃、アークライトの水力紡績機が1769年、クロンプトンのミュール紡績機が1779年の発明である。

問2.解答(1)コークス (2)ダービー

解説 製鉄法に関する問題。18世紀前半に製鉄にコークスをもちいる技術がダービーによって開発された。

問3.解答 B

解説 リヴァプールの位置を問う地図問題。ポイントとしてはイギリス中西部の貿易港として発展したことだろう。Aはスコットランドのグラスゴー、Bがリヴァプール、Cはマンチェスター、Dはバーミンガム、Eはブリストルである。

問4.解答(1)プラッシーの戦い (2)クライヴ

解説 「1757年」「インドの派遣」「イギリスとフランスの間」とくればクライヴが活躍したプラッシーの戦いを想起したい。

問5.解答 1813年、東インド会社のインド貿易の独占権が廃止され、1834年には中国貿易の独占権が廃止された。その後コブデンブライトら反穀物法同盟の活動により、1846年に穀物法が廃止された。さらに1849年には、17世紀以降イギリスの重商主義を支えてきた航海法が廃止されることとなった。(140字)

解説 設問の要求はイギリスの自由貿易政策の進展について、時系列に沿って述べること。条件として「航海法」「コブデン」「東インド会社」「ブライト」の語句を用いること。「時系列に沿って」とあるので、年代は必ずしも必要とは限らないが、順序は重要になろう。1813年東インド会社のインド貿易独占権廃止➝1834年東インド会社の中国貿易独占権廃止(正確には1833年に特許状改定➝翌年発効)➝1846年コブデンとブライトらの活動により穀物法廃止➝1849年航海法廃止という動きをまとめると良い。

問6.解答 (1)マルクス (2)『資本論』

解説 「史的唯物論」「資本主義体制を分析・批判」「1867年に出版」とくれば(カール=)マルクスの『資本論』を想起したい。

問7.解答 工場法

解説 「子どもの保護を目的」「18歳未満の夜間労働の禁止」「1833年に制定」でイギリスの工場法とわかる。

問8.解答 ラダイト運動

解説 「機械打ちこわし運動」の別称と来ればラダイト(運動)である。

問9.解答 オーウェン

解説 「社会主義者」「自ら経営する工場の労働条件の改善」「イギリスの人物」で工場主だったオーウェンを想起したい。


第3問 オスマン帝国の歴史

空欄補充 解答 1:アンカラ 2:メフメト2世 3:エディルネ(アドリアノープル) 4:スレイマン1世 5:ハンガリー 6:オーストリア 7:ロンドン 8:アルジェリア 9:ギュルハネ

解説 オスマン帝国に関する基本問題。1は「バヤジット1世」「1402年」「ティムールと戦い」で判断。2は「1453年にコンスタンティノープルを征服」したときのスルタンなのでメフメト2世。3は「イスタンブル」へ遷都する前のオスマン帝国の都なので、現在のエディルネ(当時の名はアドリアノープル)。4は「1529年にウィーン包囲を行い」で判断。5は「モハーチの戦い」「ラヨシュ2世」だけだと心もとないが、「カルロヴィッツ条約」で割譲されたと来ればハンガリーを想起したい。6は先の「カルロヴィッツ条約」の締結国を考えればよい。7は「ギリシアの独立」を認めた会議なのでロンドン会議。8は「シャルル10世」が出兵とくればアフリカにおけるフランスの植民地アルジェリアである。9は「アブドュルメジト1世」が発した勅令なのでギュルハネ勅令。

問1.解答 教皇インノケンティウス3世の呼びかけで第4回十字軍が結成されたが、ヴェネツィア商人の思惑により商敵であるコンスタンティノープルが占領され、ラテン帝国が建国された。

解説 設問の要求はビザンツ帝国がコンスタンティノープルを失った経緯について述べること。気をつけたいのは本文で「1204年、ビザンツ帝国は帝都コンスタンティノープルを約半世紀にわたって失い」とあり、13世紀の出来事を聞いていること。某予備校のように本文を読まずに1453年のコンスタンティノープル陥落について説明しても正答にはならない。ポイントとしては「第4回十字軍」が「ヴェネツィア」の思惑で「コンスタンティノープル」を占領し、「ラテン帝国」を建国したこと、この点が重要だろう。

問2.解答 王朝名:イル=ハン国 人物:ラシード=アッディーン(ウッディーン)

解説 「フラグの建てた王朝」「『集史』を編纂」でそれぞれ判断したい。

問3.解答 (1)ウルグ=ベク (2)アラル海 (3)『バーブル=ナーマ』

解説 中央アジアの文化や地理に関わる問題。(1)は「天文台を建設」「天文学を修めた学芸君主」で、ティムール朝の一風変わった君主のウルグ=ベクを想起したい。(2)は「アム川とシル川が流れ込む」で判断。(3)は「ムガル帝国を建国した人物」でバーブルを想起し、その回想録として『バーブル=ナーマ』は挙げられる。なんかおいしいメロンの紹介とかしている。なお、3代目君主のアクバルについても『アクバル=ナーマ』という史料が残っている。

問4.解答 征服した地のキリスト教徒の子弟を奴隷として徴用すること。イスラームに改宗させた後、イェニチェリや官僚にしていった。

解説 オスマン帝国のデヴシルメについて説明する問題。ポイントとしては「キリスト教徒の子弟(少年)」を徴用すること、「イェニチェリ」などに編入することだろう。

問5.解答 バイロン

解説 「チャイルド=ハロルドの遍歴」「ギリシア独立戦争に参加」「イギリスの詩人」で判断したい。

問6.解答 二月革命はヨーロッパに広くナショナリズムの高まりをもたらし、諸国民の春と呼ばれる運動を引き起こした。オーストリアでは三月革命が起こり、メッテルニヒが失脚した。ドイツでも三月革命が起こり、ドイツ統一を目指すフランクフルト国民議会が開催が決まり、こうした動きによりウィーン体制は崩壊することとなった。(149字)

解説 設問の要求は二月革命が近隣諸国に及ぼした影響について説明すること。条件として「諸国民の春」「フランクフルト国民議会」「三月革命」「メッテルニヒ」「ウィーン体制」の語句を用いること。二月革命➝諸国民の春(オーストリアの三月革命・ドイツの三月革命・イタリアやハンガリーの民族運動)➝ウィーン体制の崩壊という筋書きだが、字数の関係でイタリアやハンガリーなどの動きまではなかなか盛り込めないだろう。ポイントとしては、ナショナリズム(自由主義・民族主義)の高まり・オーストリアの三月革命でメッテルニヒ失脚・ドイツの三月革命後フランクフルト国民議会の開催といった内容が盛り込まれているかだろう。

問7.解答 ショパン

解説 「ポーランド生まれ」「ロマン派の音楽家」で判断したい。

問8.解答 加盟国:セルビア・ブルガリア・モンテネグロ・ギリシア 対立国:ブルガリア

解説 バルカン同盟についての問題。オスマン帝国から独立したセルビア・ブルガリア・モンテネグロ・ギリシアが、オーストリアのバルカン半島進出に対してロシア主導で結成されたのがバルカン同盟である。しかし第1次バルカン戦争後の領土分割でもめてブルガリア対他という構図が成立した。


以上で終わり。地図や史料を使いつつも、オーソドックスな世界史の入試って感じでしょうか。疫病の伝播と国際情勢の関係は改めて考えなければならない問題かもしれませんね。

次回は福井大学の日本史の予定。

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