小さな女の子
「こんばんわ」
小さな女の子が僕に声をかけてきた。
「今日も遅かったね。お腹すいたけぇ、はよーご飯にしよーや。」
彼女はなぜか流暢な広島弁で話しかけてきた。
そもそも、なぜここに小さな女の子がいるのか。
いやいや。小さなと言っても小さいにもほどがある。
「小さな女の子」と聞けば、年の小さな女の子を想像するだろうが。そんな単純な話ではない。
ここは、僕が一人で住んでいる一軒家。
仕事から帰ってみると、リビングのテーブルの上で言語が喋られるはずのないサイズの少女が待っていた。
例えるなら、昔姉ちゃんが遊んでいたリカちゃんだのバービーだのの人形サイズだろうか。
ただ、体型は残念なことに寸胴短足の純日本人体型だ。
雰囲気は10歳そこそこの、まさに少女。
「またコンビニ弁当かあ。ちゃんと野菜もとりんさいや。」
口調はまるでおばさんだ。
僕はおもむろにスマートフォンを取りだして「幻覚 幻聴 病院」と、検索していた。
無人のはずの家に、小さな女の子がいるといえばそれはまるでホラーだ。
しかし、この緊張感のなさはなんだろう。
ははぁ。なるほど。ちょっと前にテレビでもやった借りぐらしてるなんとかってやつか。
そうかそうか。
「そんなわけあるか!!君はなんだ?!」
ようやく僕は声を出した。
この間1分弱と言ったところか。
小さな女の子は、コンビニの割り箸の袋から爪楊枝をよいしょよいしょと取り出しながら、横目でこちらをちらりと見た。
「なにー、言われてもねぇ。自分でもようわからんのよね。これが。ここにも初めて来たような、昔からおったような。」
そしてこちらを見据えて、にこりというよりはニヤリとわらって
「あんたも自分が何かって聞かれても、よう答えんじゃろ?そんなもんよ。存在なんてものは。」
小さな女の子は、ここにきてやたら哲学めいたことを言ってコンビニ弁当を早く開けろとせかした。
バツイチ独身、一人暮らしの男の家で。
こうして奇妙な共同生活は始まってしまった。
「明日は、忘れんよーにプリン買ってきてーよ。」
僕の頭は寂しさのあまり壊れてしまったようだ。
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