ルームミラー
そのルームミラーは、30年以上前に購入したものだ。最初の車(名前は、ブリオだった)以来、それを、まだ、使っている。
標準装備のものでも良いのだが、最初の車に乗ったとき、後ろがちょっと見え辛いような気がした。大きめのものが、カー用品ショップにたくさんあったので、中くらいのものを購入した。
普通の私だったら、何の飾りもついていないものを選択する。でも、どうしてか、ちょっとだけキャラクターがプリントされているものを購入した。そのキャラクターも、大して知っているわけでも、好きなわけでも無かったが、何となく手に取り何となくレジに持って行った。気の迷いというやつだろう。
乗車する人が口々に言った。
これは、お前らしくないな。
そう言われて既に、30年以上になるのだ。家内がほとんど運転するので、お前らしいもらしくないも、全く関係が無くなったが、家内に似合っているとも思えない。
だが、30年も一緒に走っていると、何だか無くてはならないものになってくるのが不思議だ。車を変えたとき、前の車(名前は、大志朗=だいしろう、という)から持ち出し、家に持ち帰った。
新しい車(名前は、小志朗=こじろう、という)を運転するようになってすぐ、家内が言った。
あの、ルームミラー、ある?
え?あぁ、あるよ。家のどこかに。
帰宅してから大志朗から持ち出した荷物の中を調べた。だが、なかなか見つからない。しばらく探して、ようやく見つけた。見つかったのは、机の引き出しの下の棚だ。大事なものが無くならないように、よく、私は、そこにモノを置く。記憶にはあまり無いのだが、無意識にそこに置いたようだ。
翌日の買い物に出掛ける時、見慣れたルームミラーを装着した。すると、
おー。お帰り。
家内が手を叩いてルームミラーの帰還を喜んだ。
多分、小志朗が、我が家の最後の車になる。家内と私が免許を返納するまで、共に走り、私達を守り、行く末を見届けて欲しいものだと思う。
※我が家では、歴代の車に名前をつけている。なんか変だと思うだろうか。確かに、私は、ちょっと変わっている。いや。だいぶ変わっている。