非常通報
もうすぐ夏休みも始まるという8月はじめの土曜日の夜、夕飯時だった。私が住んでいるマンションの非常通報が突然、鳴り響いた。
すぐに誤報通知が入らなかったので、様子を見るために中庭が見えるベランダに出てみる。すると、お隣さんも出てきている。
あ、どうも。お久し振りです。
そんな言葉を交わしながら、あたりを見回してみると上の階も下の階も、みんなが顔を出して確認しようとしていた。向かいの棟は、玄関側になるのだが、みんながそこに出てきている。それぞれ、自分の棟や向かいの棟、左右の棟、中庭を確認している。ひととおり見回したところ、どこかで火の手が上がっているとか、慌てている様子は、なさそうだ。
ところが、警報がなかなか鳴り止まない。鳴り出してから、既に10分ほどが過ぎている。かたや、防災センターからの誤報通知も入らないので、みんなが対処に困っている。
防災センターは1階にある。仕方がないので行ってみようと思い玄関から出ると廊下にも人が何人も出て会話している。
どうなっているんでしょうねぇ。
と言い合っている様子だ。
エレベーターホールに行くと、エレベーターは稼働していたが、他の階からも人が行き来しようとしているらしく、満員表示で乗り込み拒否状態だった。
これで本当に火事なり事故が起こっていたら、ちょっと大変なことになるなと思いつつ、非常階段で1階へと向かった。
防災センターに着くと、かなりの人でいっぱいだった。マンションの理事役員たちも集まっている。我がマンションの理事は真面目だ。きちんと整理して混乱を回避すべく捌こうとしている。そして分業して、説明人員と確認人員に分けて行動しようとしていた。
そしてどうも、誤報であろうということは確かなようだ。どこからの誤報かは明らかにはならなかったが、説明役の理事は、管理人とともに、誤報なので安心して欲しいということと、警報音を消す方法を集まった人達に手際よく何度も説明していた。
そして、確認役は、念のためマンション全体を確認して回ろうと、確認地域を、これも手際よく分担して、間も無く各班が目的方面へと出動していった。
ひとまず誤報であることはわかったので、私は自室に戻ることにした。たいしたことにならずに済んだと思いつつ、日本人特有なのかも知れないが、人は警報が鳴ってもまず、誤報と思うものなのだとちょっと不思議に思った。そして同時に、我がマンションの理事役員たちは優秀で働き者で、責任感が強くて恵まれているとも思った。
警報音は帰宅してすぐに消音したものの、防災センターから誤報でご迷惑をおかけしましたという通達が流れたのは最初に非常通報が鳴り始めてから1時間近くしてからだった。
翌々日、管理室から掲示があった。発報したのはマンションの委託領域の、外部から入っている歯科医院だったこと。そして原因は、煙検知器の周辺で害虫駆除剤を噴霧したからだと書いてある。つまり、本当の原因は、やはり、ヤツ、Gだった。
Gめ、よくよく何度も現れ、迷惑をかけてくるヤツだ。掲示板の前で私は心の中で呟きながら、拳を握りしめた。
*G(ゴキブリ)については、今まで私は3つの記事を書いている。3つの記事へのリンクを、貼り付けてみた。もしも読んでいらっしゃらなければ、G撲滅キャンペーンの一環で、別のGを、どうぞ。