入線
勘太郎というカラスとの、ほんのちょっとした交流があったのだと、昔、記事にしたことがある。
今や私の出社時間も遅くなり、勘太郎と事務所の前の交差点で会うこともなくなってしまったのだが、勘太郎のことは、ときどき思い出す。
つい先日、最寄り駅の線路内にいる、カラスを見つけた。
勘太郎は、物怖じしない性格だったから、一瞬、勘太郎かと思ってしまって、心の中で、勘太郎!と、呼びかけてしまった。
都心の勘太郎が、こんな田舎に飛んでくるはずもなく。勘太郎でないことは間違いないのだが、さらに、声をかけた。
今度は、ちょっと小声で。
そこにいたら、危ないぞ!
私が乗る電車が入線してこようとして。勘太郎は、ほどなく、飛び去った。
私は、ちょっと懐かしく。そして、寂しく思い。
その飛んでいく姿を、しばし眺めていた。
ガタン、ゴトン!
電車が入線してきて。ふと、我に返った。
心の中の、リトルkojuroが、ボソリと、呟いた。
勘太郎、飛び去ったね。
いや。あれは、勘太郎じゃないし。
そんなこんなを家内に語ろうとしてソファーをみると、家内が笑って脚を指さして笑って言った。
で、勘太郎って、いつの頃の友達?
家内は、話を五分の一も聞かないで返してくることがある。
ああ。5年も前の、友達だよ。
今宵も、お決まりのミッションに勤しもう。
マッサージをすると、家内は上機嫌である。
家内が上機嫌だと、我が家は、明るくて平和である。
だから。
これで、いいのだ。