
指輪
結婚指輪は、私たちの世代は、普段しない人も結構いたような気がする。
かく言う私も、そのクチで。結婚式当日しかせず、その後引っ越しを二度やっているあいだに、どこにどう保管したのかしなかったのか、わからなくなってしまう始末で。
家内は家内で、自分もしないし、私がしなくてもあまり関心も無く、それ以降30年という月日が流れていたのである。
ところが。
長男と長女との車での移動中のことだ。長男の発言で、少しばかり衝撃を受けた。
結婚指輪は、人としての信頼度を上げるというのである。
心の中の、リトルkojuroが、ボソリと、呟いた。
そういうのは、昭和よりもっと以前の考え方なんじゃないのか?
ところが、今の若い世代では、結婚していて、ちゃんと結婚指輪をしていることは、きちんとした信頼のおける人物の証明になるというのである。
その意見に、半分、長女も同意し。Z世代辺りの、まあまあの中流層の意識というのは、聞いてみないとわからないものだと思った。
もしも結婚していなくとも、信頼度を少しでも上げるために、結婚指輪をしておこうかとまで言う始末で。
そこで、家内が言った。
じゃあさ、我が家の結婚指輪、コジくんに探させるから、出てきたら、あげるよ。
……。

帰宅すると、家内と家捜しを始めた。実は、今の家に越してきたとき、密かに見つけ出し、保管しておいたのだ。
やむなく、それを差し出した。
家内が長男にLINEですぐさま連絡を入れたが、長男からは、梨のつぶてである。今のところ。
そんなこんなを語らおうとしてソファーを振り向くと、家内が足を指さして笑いつつ、言った。
まあ、あの子が要らないって言ったら、売る?
!、……。
愛とは、我が家では今や、メルカリに出されるほどのものなのである。
なんにしても、夜のミッション発動だ。
マッサージをすると、家内は上機嫌になる。
家内が上機嫌だと、我が家は平和である。
だから。
これで、いいのだ。