金庫
私と家内の年金手帳なのだが、確か、金庫に入れたはずなのだ。
ところがこの金庫、ポータブルで持ち運べるタイプのもので、どこに置いたか忘れてしまっていた。
退職を前に、いろいろな準備をしていくにつけ、それを思い出し、見つけようと試みた。
ところが、なかなか見つからない。
心の中の、リトルkojuroが、ボソリと、呟いた。
どっかにあったような気がするんだけどなぁ。和室の。
探しても探しても見つからないまんま、数ヶ月が過ぎたとき、畳の上に落ちた洗濯ばさみが転がって。長女が2年前に持ち帰ってきた開梱前の荷物の下をまさぐったところ、突如その姿を現した。
やった、やったと喜んで、まだ家を空けていた家内にLINEすると、家内からも喜びのコメントが来た。
コジくん、やるねぇ!
そうでしょ、そうでしょ、俺って、やるときゃやるのよね。
探していた金庫が見つかっただけで、何事かを成し遂げたり創造したわけではない。
それでも、高ぶる気持ちを抑えられないほどに、嬉しかった。
ところが。
開かないのだ。ダイアルが、デフォルト解錠状態から回ってしまっているようだ。
心の中の、リトルkojuroが、ボソリと、呟いた。
だって、金庫だもんな。
……。
その夜は、しょぼくれてふて寝をした。
翌朝の通勤電車の中で、ひょっとしたら昔、ダイアル暗証の紙を写真に撮ったような記憶が突然降りてきて。
GooglePhotoで、「金庫」で、検索してみた。
ビンゴッ!
見つかった。事務所では、早く帰宅して解錠したい欲求に負けて、仕事が全く手につかなかった。
帰宅し。手順通りダイアルを回す。
ガチャッ。
開いた、開いた、開いたぞ!
その夜は、喜びすぎて、眠れなかった。
金庫のお陰で、2日間、まともな仕事ができなかった。
なんのはなしですか。
そんなこんなを家内に語ろうとしてソファーをみると、家内が笑って脚を指さして笑って言った。
金庫、もう、無くしちゃダメよ。暗証番号もね。頼むね。
その責任をとって、倍返しの刑に服することになった。
なんでなんだ……。
マッサージをすると、家内は上機嫌である。
家内が上機嫌だと、我が家は、明るくて平和である。
だから。
これで、いいのだ。