G
長女の自宅のキッチンで、このあいだ、ヤツが出たのだという。長女はこの春、独り暮らしを始めたばかりだ。本人の希望で、アパートは新築のアパートをわざわざ選んだ。
2階の物件を探したのだが、2月の月末に配属先が決まってからでは、なかなか良い物件は見つからず、しぶしぶ南向き西端1階の部屋を契約して4月から住み始めた。
そして、事件は起きた。帰宅したら、キッチンのシンクまわりに、ヤツが、Gが、出たというのである。
新築で、住み始めて3ヶ月なのに、どういうこと!
週末、すぐに家に来て、対策を打てと長女から指令が来た。
おいおい。田舎に住んでいるんだから、窓を開けていれば昆虫なんかは、いくらでも入ってくるものだよ。と、思いつつ、スケジュール帳に予定を書き込む。
Gとは我が家では宇宙で最悪の昆虫の頭文字である。その名は、ゴキブリ。我が家の女性陣は、昆虫が苦手中の苦手で、特に、Gのことが最悪に嫌いなのだ。
週末、私と家内は、長女の住む街に居た。ホームセンターで2種類のG迎撃用の殺虫剤を入手した。1つは、噴射型の直接攻撃仕様。もう1つは、毒餌の営巣壊滅仕様。
そして長女宅に到着。説明書を熟読してキッチン、トイレ、洗面所、風呂まわり、洗濯機まわりとベランダに設置。直接攻撃仕様のジェット噴射方は、ベッドのすぐ横に据え付けた。
ゴソゴソ音がしたりしたら、寝られないよ〜!
と言いながら、長女は、私達の帰宅時になって珍しく家内と私に纏わりついてきた。Gは、怖くないのかと、長女は私に聞いてきた。
その瞬間、私は、Gとの昔々の戦闘の記憶を思い出した。そして長女に伝えた。
そう言えば、実は、Gを間違って素手で触ったことがある、と。
ギャァーーーー!
長女は、握っていた私の手を放り投げた。
だからさぁ。親しき仲にも、ソーシャルディスタンスだってば。
その時の武勇伝は、またの機会に記事にすることにしようと思いつつ、恐怖におののく長女に、表面では心配そうな顔を見せつつ、心の中で、シメシメと、したり顔を返した。