お土産
9月の中旬、長男ははるばるイギリスへと旅立ったのだが、私は、ほぼ3年ぶりに、福岡に出張に出かけた。
このご時世になり、2年間、出張という出張は、自ら、控えてきた。そしてこの春、晴れて役職を外れたことで、地域出張は、終ぞ、回ってくることがなくなった。
だが、この春から配属された部署は、イベントごとには説明員として参加する機会もあり。この9月中旬には名古屋。その翌週に福岡へと出張するメンバーに組み込まれたのだ。
人前でのプレゼンも、説明も、質疑応答も、久しぶりということで、たどたどしいこと極まりなくて。かなり恥ずかしい思いをした。
そしてそのイベントが終了し、現場を撤収して空港についたとき、同僚たちは、まず、家族へのお土産を選定するのだった。
私は、今まで散々出張三昧で。そのたびにお土産を山ほど買い、家内には、もうお土産は必要ないから、という言葉までもらった身だ。もういいだろうと思ったのだ。そして、今回も、何も買わなかった。
持ち物検査場でのやりとりも、もう、すっかり忘れていて。そしてオリンピック前からかなり厳しくなり、いまやスーツも脱がねばならない。検査員の指示通りやるものの、カバンの中のペットボトルやパソコンを出すのを忘れていたりして、検査機を何度も通し直した。
心の中の、リトルkojuroが、ボソリと、呟いた。
こういう要領の悪い人、周りのお客様からすると、相当迷惑なんだよな。
ところが、最後の最後に詰まったのは、意外なものだった。それは、ドライバーだ。撤収時の作業で使ったので、安全靴と共に入れて持ち帰ろうとしていた。それをすっかり忘れていて。
検査員に、言われたのだ。
出発まで、時間がまだ、ありますよね。放棄しますか、預けますか。預けるならば、窓口まで、ご一緒しますが。
心の中の、リトルkojuroが、ボソリと、呟いた。
このドライバー、ちょっと高かったよな。放棄は、ないよ。
検査員に連れられて、窓口まで行き、預けると、こんな、ケーキの箱みたいなものに、入れられた。
どうも、このまま、手荷物受け取り所で、回るらしい。
この日、羽田到着が遅くて、家内が、車で迎えに来てくれた。入れた駐車場を間違えて、かなり歩いたが、こういうとき、歩数を稼げた。カロリーを消費できたと思うようにしている。
心の中の、リトルkojuroが、ボソリと、呟いた。
なんて、心の広い、女王陛下(注1)だろう。
家内に、この箱を見せて、冗談で、お土産だよ。ケーキ。と、言ってみた。
何の反応の言葉もなく、完全スルーされたが、それだけで済まされるわけはなく、帰宅して、自主トレ(注2)1クール(注3)が待っていた。
マッサージをすると、家内は、上機嫌である。
家内が上機嫌だと、我が家は、明るくて平和である。
だから。
これで、いいのだ。
(注1)女王陛下とは、家内のことである。私に、ときどき、インポッシブルなミッションを与える、指揮命令系統の最上位者なので、ときに、家内のことを、そう呼ぶ。少なくとも我が家では、いとやんごとなき人なのである。
(注2)私は、家内のマッサージを、よくする。家内に促されずに、自らの申し出で家内のマッサージをすることを、自主トレと、勝手に呼んでいる。
(注3)我が家のマッサージは、家内が録画したドラマやバラエティ番組を見ながら行うことが基本なのである。1クールとは、ドラマ一本分。つまり、1時間、ハーフとは30分。クゥォーターとは15分を、意味する。