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ガチャと賭博罪について

1.はじめに

多くのスマホのアプリゲーム等においてゲーム内アイテムを獲得する手法としてガチャが採用されているが、ガチャについてはしばしば賭博罪(刑法185条)等の成否が議論されるため、本稿では、ガチャとの関係で賭博罪の解釈について整理する。


2.賭博罪の構成要件

賭博罪は「賭博をした者」に成立する罪であるが、「賭博」とは、
偶然の勝敗により
財物又は財産上の利益の
得喪を争う行為であって、
一時の娯楽に供するものを賭けたにとどまらない行為
と解されている。[1]


[1]大塚仁ほか編『大コンメンタール刑法 第9巻〔第3版〕』(青林書院・2013年)123頁以下


(1) ①偶然の勝敗により

「偶然の勝敗により」とは、当事者において結果が確実に予見できないこと、又は当事者の意思によっては自由に支配できないことについて勝敗を決することと解されている。

そして、勝敗は客観的に不確実であることを要せず、主観的に不確実であれば足りる。[2]

すなわち、ガチャの仕組み上、次に何が排出されるか事前に決まっていたとしても、ユーザーから見れば、次に何が排出されるかが分からないのであれば、「偶然の勝敗により」の要件を充足することとなる。

こうしたユーザー視点から何が排出されるか分からないというランダム性によりユーザーの射幸心を煽る結果、ユーザーのガチャの購買意欲を掻き立てることにガチャの特長があることからすれば、通常、ガチャに関して「偶然の勝敗により」の要件の充足の有無が問題となることはないと思われる。


[2]大判大正3年10月7日刑録20輯1816頁、大判大正11年7月12日刑集1巻6号377頁


(2) ②財物又は財産上の利益

「財物」とは財産的な価値を有する有体物をいい、「財産上の利益」とは人の財産の中で「財物」を除くすべてを指し、広く債権、重要なデータ、労務・サービスの提供等も含まれる。[3]

アプリゲーム等のガチャから得られるアイテムは、何を財産的価値と捉えるかについては議論の余地があり、ガチャの販売価格相当額や(二次流通があり得る場合は)二次流通価格、(運営会社による換金が行われる場合は)換金額相当額などが想定される。

しかし、およそ無価値なものをガチャの商品としてもそのガチャを購入する人はいないであろうし、いずれにしても財産的価値を伴う無形の財産であることが通常であって、「財産上の利益」に当たると考えてよい。


[3]井田良『講義刑法学・各論』(有斐閣・2016年)190頁


(3) ③得喪を争う行為

「得喪を争う」とは、勝者が財物又は財産上の利益を得て、敗者がこれを失うことをいう。

ガチャから排出されるアイテムには、通常、レアリティが設定されており、希少性が高いアイテムを獲得できる者と希少性が低いアイテムしか獲得できない者とが存在するため、「得喪を争う」の要件を充足する可能性があるようにも思われる。

しかし、運営会社はガチャの販売価格に対応した価額のアイテムを販売しているにすぎず、ユーザーもガチャの販売価格相当のアイテムを獲得するにすぎないから、運営会社とユーザーとの間に「得喪を争う」関係は生じていないというのが実務上の一般的な整理であると思われる。[4]

また、この整理に基づけば、ユーザーどうしの関係においても、皆一律にガチャの販売価格相当のアイテムを獲得するにすぎないから、ユーザー間でも「得喪を争う」関係は生じないことになるだろう。

ただし、運営会社がアイテムの換金を行っており、ガチャの販売価格よりも高いレートで換金するアイテムと低いレートで換金するアイテムとがある場合には、「得喪を争う」の要件を充足する可能性がある。[5]


[4]野口香織『Web3への法務Q&A』(きんざい・2022年)129頁以下、平尾覚ほか「第3回 スポーツ産業におけるWeb3活用事例と法規制」(ビジネス法務・2023年10月)147頁等

[5]松本恒雄監修『NFTゲーム・ブロックチェーンゲームの法制』(商事法務・2022年)143頁


(4) ④一時の娯楽に供するものを賭けたにとどまらない行為

以上の①~③の要件を充足する場合でも、ガチャから排出されるアイテムが「一時の娯楽に供するもの」にすぎないと言えるならば、賭博罪は成立しない。

「一時の娯楽に供するもの」とは、すぐに飲食するなどして消費するもので、価格も低いもののことをいう。[6]

消費の即時性価格の僅少性とを加味して総合的に要件充足性を判断するようである。[7]

ガチャから排出されるアイテムは、通常、使用期限が特に設定されていないか、相当期間の使用期限が設けられているように思われる。

そうであれば、消費の即時性が認められないため、「一時の娯楽に供するもの」に当たらないこととなる。

「一時の娯楽に供するもの」に当たるようにするためには、ガチャの販売価格が低額で、かつ、ガチャから排出されるアイテムの使用期限がすぐに到来するような設計にする必要がある。


[6]井田良『講義刑法学・各論』(有斐閣・2016年)506頁

[7]大判昭和4年2月18日刑集8巻72頁、大判大正13年2月9日刑集3巻95頁、最判昭和23年10月7日刑集2巻11号1289頁


3.賭博罪が成立する場合

賭博罪が成立する場合には、50万円以下の罰金又は科料に処され得る。

また、ガチャが賭博に当たる場合には、運営会社に賭博場開帳図利罪(刑法186条2項)も成立する可能性がある。

賭博場開帳図利罪が成立する場合、3ヶ月以上5年以下の懲役に処され得る。


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