タイトルを掴み取った先には何があるのか。 〜見えた景色と見えなかった景色〜 #consadole #ルヴァン決勝
進藤選手の蹴ったボールがGK新井の腕にスポっと収まるのを見た時、
「ああ、終わった」
と思った。
不思議と涙は出なかった。
北海道コンサドーレ札幌が決勝の舞台に立つことが決まった10月13日から試合までの2週間を、札幌に関わる全ての方々は色々な思いで過ごしてきただろう。
選手やスタッフの方々の気持ちは私には想像することしかできないが、いつも札幌を応援しているサポーターの気持ちや行動は明らかにいつもと違っていた。
初めての遠征の計画を立てる人、SNSで決勝により多くの人が足を運ぶよう呼びかける人、札幌の今までの歴史を長文で振り返る人、当日の応援の準備をする人、新しくゲーフラや旗を手作りする人、勝った時に投げる紙テープを買い漁る人、
正直私は、勝った後にどう喜ぶかよりどういう気持ちで挑んでどうやって勝たせるかを考えたかったし、勝った後にどのような行動をとるかなんてその時考えればいいと思った。
そして毎日のように登場する捨てアカウントのアンチ、それに傷つく人、飲食店のSNSを見て選手の移籍を心配する人、
決勝前に何やってんだよ、と思った。札幌史上初の決勝戦の前にアンチやSNSの不確かな情報に反応したり犯人探しをする他にやることはないのか、イライラしていたが、今考えるとそんな私の感情もクラブ創立以来最大のビッグマッチの前にソワソワして落ち着かなくなってしまっていたのだと思う。
鹿島やガンバ、浦和がたくさん持っている「タイトル」というものは、長年私たちには手の届かないもので、どこか別の世界にあるものだと思っていた。強くなって、浦和に勝てるようになっても、ガンバに勝てるようになっても、(鹿島にはまだ勝てないけど。)タイトルを獲れるようになったとは思わなかった。
その「タイトル」を願ってもいい、ユニフォームに星がつくことを想像してもいいときが急にやって来たのだ。浮かれ気分になったり、逆に緊張したり、攻撃的になってしまう不慣れなサポーターの気持ちも理解できる。
タイトルを手にしたその時、どのような感情になるのかは正直全くわからなかった。仲間とこれまでの苦労を思い出し涙を流すのか、意外と冷静に喜びを噛みしめる事ができるのか、想像することもできなかった。
当日は朝4時に起きて、始発で埼玉スタジアムへ向かった。
ルヴァン決勝なんてお祭りだし、応援なんて自己表現だ。自己主張強めで行こう。
普段の試合の時はしない赤と黒のメイクに、いつものドーレくん帽にはスパンコールの星を縫い付けて、スタジアムに到着してからは、手作りのタトゥーシールを顔や手に貼った。
本当は旗などのものづくりもしたかったが、2週間という準備期間は初めての決勝に挑む私たちには短すぎた。
埼玉スタジアムには今までのアウェイでは見たことのないような人数の札幌サポーターが列に並んでいた。北海道という土地柄、アウェイの応援に行くのはそう簡単ではない。今回が初めて遠征だったサポーターもたくさんいるはずだ。
入場前には人文字の準備をお手伝いさせていただいたり、来場していたドーレくんと戯れることもできた。
余談だが、あの北海道を象った人文字は絶対に他のチームにはできない演出で、その一員になったときには北海道コンサドーレ札幌のサポーターであることが心底誇らしいと思った。
入場後は、スタジアムを散歩したり、南広場に行ってイベントの様子を見て回ったりと、思いの外リラックスして過ごす事ができたように思う。
正直、川崎の応援やサポーターは全く怖くなかった。
札幌のサポーターは戦に来ているような心待ちであったのに対し、すれ違う川崎サポーターのゆるさに、彼らは埼玉スタジアムに遠足かピクニックに来ているのではないかと錯覚した。
もちろんそれが悪いことだとは全く思っていない。これぞクラブの個性だなと思った。
この日私は一度しか泣かなかった。
人文字の説明書きの紙の裏に綴ってあったエモーショナルな文章を読んでも、リーダーがついにこの日が来たぞとみんなを煽っても、埼スタから覗く大きな空にスティングが響き渡っても、手拍子なしのバビロンを必死な思いを込めて歌っている時も、負けてタイトルを逃した時だって泣かなかった。
しかし後半AT50分、もうこれで終わりかとか、準優勝かとか、そんなことを考える余裕もないぐらい息を切らせながら応援しているときに決まった深井選手のゴールには何か分からない感情が大爆発して気がついたら絶叫し、目からはあり得ないぐらいの涙が流れていた。
「まだ!!!まだ終わってないから!!!」と前で太鼓を叩いていた仲間の声が聞こえる。
全くその通りだ。極めて冷静な意見である。
だけど、嬉しいわけでも安心したわけでも感動したわけでもない、意味の分からない涙は頬を流れて止まらなかった。
そのまま後半が終わり、間髪も入れずにGO WESTで延長戦に挑む選手を迎える。
この時周りのみんながどんな顔をしてどんな行動をとっていたかは全く見ていない。決勝戦のラストワンプレーのコーナーキックで1点が決まった時にはこういう気持ちになるのかと、感情を理解するのに必死だった。
延長戦の30分間はあまり覚えていない。
体力のない私には120分以上の応援は気持ちでどうにかなる程簡単ではなかった。後ろで応援していた子に心配されるほどフラフラになりながら声を出すことに精一杯だった。
私たちサポーターの中での合言葉のようなものの一つに「90分跳べるか。」というものがある。
試合前日に飲み過ぎた仲間には、「そんなんで90分跳べるのかー?笑」と声をかけたし、いつまでゴール裏に来れるかという話では「何歳になるまで90分跳べるかなー?」と表現した。
90分でいいなら何歳になったって跳びたい。120分跳ぶのは想像以上にきつかった。
PK戦についてはあまり言うことがない。私はそもそもPK戦が好きじゃないので、あまり感情を乗せることができなかった。
タイトルを掴み取った先にはどんな景色が広がっているのだろうか。
キャプテンが優勝カップを掲げる時、金色の紙吹雪が散った時、優勝者としてすすきのへ行こうを歌う時、どんな気持ちになるのかは、待ち侘びたこの日が来てもやはり分からなかった。
見えたのは、激戦の末、準優勝という結果に終わった時の景色。見たことのない新しい景色だった。
悔しいわけでも、嬉しいわけでも、また来年ここに来たいという気持ちもあまり湧いてこない。ただ結果を受け止めるだけ。
このまとまらない気持ちの中で、この日を終えて唯一感じることができたのは、やはり「SAPPORO CITY IS No.1」だということだ。
決勝で負けたって、J2に降格したってそれは変わらない。北海道コンサドーレ札幌は私たちのNo.1なのだ。
私たちが一番大好きな街にある、一番応援のかっこいい、一番大好きなクラブを、サッカーで、日本で一番にしたかったのだ。
それ以上のことはちょっと今は出てこない。ここまでを今の私の正直な感想として、次のビッグマッチが来たときにでも読み直すこととしたい。