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『長崎石物語 石が語る長崎の生いたち』

地層好き・地形好き・岩石好き・登山好きなあなたの為の一冊です。2005年の初版以来、ロングセラーを続けています。
 
著者の布袋厚氏は、医師免許と博物館学芸員の資格を持つという異色の自然史研究家です。弊社から2020年に刊行した同じ著者による『復元!被爆直前の長崎 原爆で消えた1945年8月8日の地図』は全国的に大きな反響を呼び、今も増刷を続けています。その布袋氏が長崎市とその周辺の山々や海岸を歩きに歩いて調査・発掘して書き上げた『石が語る長崎の生い立ち 長崎石物語』を今回改めて紹介します。

読むと驚くことばかりです。
何と長崎港をぐるりと囲む山々は大昔(560万年前という太古の昔ですが)火山だったそうです。テレビ塔や展望台がある稲佐山(いなさやま)にも火口があったし、週末には市民ハイカーで賑わう岩屋山、そして「七高山(しちこうさん)巡り」でお馴染みの金比羅山も烽火山も彦山も愛宕山も帆場岳も、ようするに長崎市内の山は殆どが火山だったのです。

地質調査によると数百メートル級の中小火山が∩の字(下辺の開いている方が今の長崎港口です)に並んでいて、それらは溶岩ドーム型、溶岩台地を作る楯状火山、またてっぺんに丸い火口をもつ円錐形の成層火山だったりと、さまざまな形状をしていたそうです。なぜこんなことが分かるのだろうかという疑問にも丁寧に著者は答えています。

そして火山に囲まれた深い谷は、氷期が終わるころに海面が上昇して奥深い入り江となりました。火山活動がなければ、天然の良港と言われた長崎はなかったわけですね。

本書はほかに、眼鏡橋に代表される中島川石橋群、出島の石垣、唐人屋敷、寺町の石垣、町に残る石畳、討ち入りの元祖となった喧嘩坂、幕末・明治の外国人居留地など、長崎の歴史を石の視点から物語っています。何度読んでも興味の尽きない一冊です。

本書の「まえがき」で、著者は「もてる時間のすべてをふりむけて、長崎火山の調査研究をすすめている」と述べています。そして長崎火山の全容が明らかになった時点で『よみがえる長崎火山』(仮称)として上梓する予定だそうです。

人がまだいないずっと昔、ティラノサウルスが獲物を追うその向こうに噴煙を上げる稲佐山を想像するのは何とも楽しいものです。『石が語る長崎の生いたち 長崎石物語』をお読みいただき、この秋の夜、どうか面白い物語を思い描いていただければ幸いです。
 
長崎石物語
布袋 厚著
定価(本体1,600円+税)
ISBN978-4-88851-077-6