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北の果てでクジラを捕れ! エトロフ島 鯨夢譚

『エトロフ島 鯨夢譚 』
萩原博嗣 著

こんなことが実際にあったのか!という驚きの歴史小説です。長崎県平戸市の旧家に残る古文書が、その事実を今に伝えています。著者はそれらの史料を徹底して読み込み、今回、小説として発表しました。

1800(寛政十二)年、二人の鯨漁師が平戸領生月と今の“北方領土”を往復する幕府御用の大旅行をしました。目的はエトロフ島に捕鯨基地を設置できるかどうかの現地調査です。この国家の重要な使命を果たすべく、アイヌの人々も含めた多士済々の魅力的な人物たちが関わって物語を進めていきます。

当時、幕府は南下してくるロシアに対して何らかの措置をとる必要に迫られていました。ラクスマンが今の北海道根室にやってきたのは1792年で、その6年後1798年には幕臣で探検家の近藤重蔵らがエトロフ島南端のタンネモイに「大日本恵登呂府」の標柱を建て、日本領であることを改めて宣言しています。そして実効支配の既成事実を示すと同時にロシアの武力侵攻へ備えるためにも、幕府はこの島に鯨組を設置しようと考えたのです。

ところで、一頭の鯨を獲るためには数十艘の舟に分乗した数百人の熟練の漁師が必要で、また獲った鯨を浜で解体して食肉・油・肥料などに加工するための工員、さらに船大工や鍛冶職人など、数百人の陸上要員も求められます。つまり捕鯨基地を一つ設けるということは、莫大な資本と大量の人員をエトロフ島に投下するということです。ちなみに平戸領生月の鯨組「益富組」は約600人の従業員を抱える大企業でした。

さあ、この幕府の鯨組計画はどうなるのでしょうか?実話をもとにした今回の海洋歴史小説を是非お読みください。
著者の萩原博嗣氏は佐世保市在住の整形外科医です。海上保安大学校航海練習船の医務官や南極海調査捕鯨船の船医も務めた経験があり、江戸時代の鯨漁や航海についての正確で詳細な記述は圧巻です。

『エトロフ島 鯨夢譚 』
萩原博嗣 著
定価(本体1300円+税)
四六判並製 234頁
ISBN978-4-88851-411-8