【対談】たま──影響とその評価、最高の1曲について石垣翔大&安藤さやかが語りつくす(後編)
1990年代にアンダーグラウンドシーンから大ヒットし、解散した今も多くのアーティストに影響を与えるバンド、たま。前編に引き続き、今回もたまを愛し大きな影響を受けたミュージシャン・石垣翔大(ex.曇ヶ原)と、音楽ライター・安藤さやかが思う存分その魅力を語る。
■石垣&安藤が考える各メンバー究極の1曲は?~知久&滝本編~
安藤 まずは知久さんのベスト曲、行きましょうか。ショウタさんはいかがですか?
石垣 悩んだんですけど、やっぱ「ねむけざましのうた」にしました。あれは知久さんの原点っていうか、本質を表してるんじゃないかっていう感じがするんです。あの曲は“悲しみの歌”っていうより、悲しみの先にある希望を歌った曲だと思う。初期の音源だと歌詞がちょっと違ってて、“やがて悲しみはびっこを引き”が“やがて鼻水は糸を引き”に変わったんですよね。初期の方がより“悲しみ”が際立ってたけど、それをもうちょっと普遍的なものに変えようとしたのかなと思います。知久さんの原体験には悲しさや寂しさがあると思っていて、その先にある希望みたいなものを感じるのが「ねむけざましのうた」なんです。
安藤 悲しさ、寂しさでいうと「らんちう」「かなしいずぼん」のほうが感じますが、なぜそこではなく「ねむけざましのうた」なのでしょうか?
石垣 そこはね、“逃げ”が出ました(笑)。あのへんはみんな大好きですから。知久さんのいろんなことを考えて「くだもの」と悩んだんです。「くだもの」も知久さんの根っこの部分を感じる曲ですよね。確か両方とも18歳ぐらいの頃に作った曲だそうです。
安藤 なるほどなるほど。確かに「ねむけざましのうた」はいいですよね。弾き語りだけでも成立する曲なのに、バンドにアレンジしちゃうっていうのもいいです。
石垣 知久さんがギターを弾いて、3人がオルガンを弾いてるところもいいです。あの編成でやるっていうのは、まさに“たま”だなっていう。
安藤 ベースがいるからベースを弾かなきゃいけないって決まりは無いですが、実際に“弾かない”って決断は、実はなかなかできないことですよね。やっぱりギターが2本いれば、ギターは2本入れたいし。キーボードがいればキーボードも鳴らしたいし。そこから引き算するのは難しいけど、平気で引き算しちゃう。それが“たま”。
石垣 それこそ“たま”ですね。安藤さんはどうでしょう?
安藤 意外な選曲かもしれませんが、「夢の中の君」です。たまの曲は基本的に、内向きの音楽だと思ってるんですよ。小劇場的であり、どんなに大きくても500人ぐらいの会場で、小規模に演奏する想定でまとめてる音楽だと思ってるんです。だけど、「夢の中の君」は違う。この曲だけはハードロックというか、スタジアム・ロックみたいな空気がある。知久さん本人はフュージョンとかサイケデリックって言うかもしれないんですけど、この曲だけは“ロック魂”が見えるんですよね。
石垣 実際、野外フェスで歌ってる映像もありますよね。
安藤 映像だと声の感じも違って、深いロック・ヴォイスになってて。「このミュージシャンはスタジアムに響かせる自己陶酔的なロックを作れるんだ!」っていう驚きがありました。あとは演奏としてのパーカッションの重さもカッコいい。
石垣 やっぱスネアが効果的に使われてますね。マラカスで叩く特殊奏法も効いてますし。
安藤 滝本さんのコーラスもかっこいいし、全編にわたって“たまらしくない”曲なんですけど、知久さんはクイーンもお好きという話を聞くと、「こういう曲を“作っちゃった”のかな?」って思うんです。アーティストの個人的な嗜好を感じるって意味で、「夢の中の君」なんですよ。この曲は居酒屋の流しスタイルで弾く曲じゃなくて、1万人の前で歌う曲です。
石垣 それは新しい観点でした。フェス映えすると言ってもいいですね。
安藤 そして滝本曲ベストですよ。滝本さんの選曲には性癖が出ます。
石垣 僕は滝本さんのベスト曲、最初に決まりました。個人的な体験からの選曲なのですが、バンドで演奏した「空の下」です。
安藤 待ってください、ずるすぎる! それソロ曲!
石垣 これには前置きがあるんです! 僕、初めて見たたまのライブが結成15周年公演でして、いろんなゲストの人が来てたんですけど、そのとき栗コーダーカルテットの栗原さんと川口さんのふたりを招いて「空の下」を演奏してたんですよ。当時「空の下」は収録アルバム自体が廃盤になっていて手に入らなかったから曲自体知らなかったんですけど、初めて聴いた時に「なんて美しい曲なんだ!」って思って。そしたら隣で聴いてたお姉さんが泣いてたんですよね。そのことがとにかく印象に残っていて、これは超えられない体験になりました。なので僕の滝本曲ベストは、たまで演奏した、もっと限定すると15周年記念ライブでやった「空の下」です。
安藤 実体験はやっぱり強いですよ。でもずるいのはずるい(笑)。じゃあ次点はなんですか?
石垣 次点は「ふたつの天気」かなあ。あの歌詞はセンスの塊ですね。あれはやっぱ歌詞にシビれます。“僕はここで 君はどこかで ふたつの天気”ですからね。
安藤 SNSで繋がってる人とまさにそういう状況になることがあって、「なんか未来予知みたいな曲だな」って思ったりもして。いやしかしショウタさんが「空の下」挙げるなら私も「ぼくはいま深い夜」挙げますよ?(笑)もはやネットではファンクラブ限定テープの無断転載でしか聴けない曲になってますし、そもそも坂本弘道さんの曲ですが、あれは世界一美しい曲だと思ってます。でも、個人的ベストは「むし」ですね。ネットにあがってる動画の滝本さんの美しいこと美しいこと(笑)。
石垣 なるほど~、あれはもう全てが美しい曲ですよね。
安藤 滝本さん本人もギターで弾き語りされてて、すごく上手いのですが、たま版を聴くと知久さんのギターってすげえなって思います。ギターの音じゃないみたいな、弾力がある音。レッド・ツェッペリンの「移民の歌」は「原曲以上のアレンジはできない」と言われる曲だそうですが、私に言わせれば「むし」以上にアレンジ不可能な曲はないですよ。蝉笛の音、パーカッションの打音、ほんの僅かに入るオルガン、何もかもが完璧です。
石垣 あれは石川さんのパーカッションも素晴らしいですよね。ちゃんと曲に寄り添ったフレーズになってるもん。
安藤 素晴らしいですね。「なんであんなことができるの?! 普通もっとエゴが出るだろ!」って思うんです。アウトロとかも信じられない美しさがありますね。ちなみに次点は「サーカスの日」でした……それにしても意外だな。私、ショウタさんは「パルテノン銀座通り」を挙げると思ってたので。
石垣 あれはね、大好きです(笑)。
安藤 「パルテノン銀座通り」と「サーカスの日」は雰囲気が近い曲ですよね。私が提唱してる“ベッドタウン・ポップ”って感じです。
石垣 僕のいうところの“郊外感”かな。
安藤 そう。「東京は夜の七時」の煌びやかさにはない、郊外の空の広さと寂しさ。滝本さんの曲は待ち合わせたレストランがもう潰れて無くなっちゃってるんじゃなくて、行きつけの喫茶店でお冷やを飲む曲なんです。
■たまの演奏技術と2000年代インターネットの思い出
安藤 たまは演奏が上手いバンドですが、特に知久さんの演奏はね、心を折るんですよ(笑)。しょぼたまの「ハダシの足音」なんて、マンドリン弾きながらコーラスをやり、かつハーモニカでオルガンパートまでやってしまう。意味わかんないですよね。「3人になっちゃったけど、1人が3役やって、うまいことやってるから問題なし」になってる。何それ?!っていう。
石垣 楽器始める前に見た時は、たまのメンバーって“なんでもないようにやる”から難しさを感じてなかったんですけど、いざ楽器始めてみるととんでもないなと。
安藤 コード自体は簡単だから、コピーするだけならなんとかなります。でも、ちゃんとやってみると「は?」ってなる。どこで演奏技術を磨いてるのかがわかんないことが一番怖い。「4台のチェンバロのための協奏曲・イ短調」とかヤバい。
石垣 あれはもうほんとに凄い。良くも悪くも2007年~2008年頃からニコニコ動画が台頭してきて、そういうところに動画がガンガン上がってきて、それによってたまの演奏技術が再評価されるようになったと思うんですよ。
安藤 懐かしい。小学校3年生だったあの頃、ニコ動で「邦楽アンダーグラウンド」ってタグを巡ってました。
石垣 僕が19か20歳ぐらいの時にニコ動ができたかな。
安藤 当時のYouTubeは「海外の怪しげなサイト」でしたよね。ポルノ動画とかグロ動画とかあって、アングラな空気で。それに比べるとニコ動って安全なイメージがありました。
石垣 そうそう。まだニコ動の方がちょっとポップでした。そこにみんな勝手にいろいろアップしちゃって(笑)。
安藤 違法行為ではあるのですが、結果的にそのおかげでたまは今でも評価されてる部分があるんですよね。だってネットで映像も音源も見れない昔のアーティストって、後追い世代にとって、出会うきっかけすら無いものだから。
石垣 確かに。
安藤 音楽番組の「20~30代のクリエイターが影響を受けたアーティストランキング」にしれっとたまが入り込んでて、「さよなら人類」のヒットについて語られてることがあるんですけど、いつも思っちゃう。「あなたたち、絶対ニコ動でイカ天の映像見てた世代でしょ!」って(笑)。今トップシーンを走ってるクリエイターは、それこそニコ動の黄金期を過ごしてきた方々なわけで。あの頃のボカロソングはグロくてアングラで、エロくて……な曲がいっぱいありました。その中に「本物のアングラはこれだぞ!」みたいな感じで、たまがいた。クリエイターの皆さまも、絶対にそれを見てただろと(笑)。番組的には「さよなら人類」しか使えないけど、実際はイカ天の映像や「電車かもしれない」から影響受けてるはずです。
石垣 そうですね。確かにね。
安藤 小さい頃、私は音楽より美術を志してて、現代芸術の展示会を巡ったり専門誌を買ったりしてたんです。そんなときにニコ動で近藤聡乃さんの「電車かもしれない」を見て、凄い音楽を作る人がいるんだと驚いたものでした。今思えばあれも無断転載なんですけどね(笑)。そのあとに見たのがイカ天初出演時の演奏。もう一言一句覚えてるくらい繰り返し見ました。
石垣 あれは見ますよね。
安藤 ただ、今思うとあのイカ天初出演のときのメンバー、けっこう“作って”ますよね(笑)。
石垣 “作ってる”ね、キャラをね(笑)。だいぶやってるなと思います(笑)。
安藤 あれ、やってますよね! 当時から全国のライブハウスをゴリゴリに巡ってて、満員にしてたようなバンドが、あんな“今日はじめて東京来たから右も左もわからないんです……”な態度なワケがない(笑)。
石垣 知久さんは作ってると思いますね。
安藤 石川さんと知久さんは“やってる”ように見えます。滝本さんと柳原さんは無関心を装ってるけど、若干本心が漏れ出てる。演奏とのギャップを狙ってるんだろうなっていうあざとさを感じる部分もあって、ちょっと愛おしいです。
石垣 何かで見てすっごい印象的だったのが、「イカ天で知久さんを見て猫背で可愛かったから自分も猫背になってみたけど、何年か経ってソロライブに行ってみたら普通に背筋が伸びてた」みたいなエピソード(笑)。今でも猫背ではありますけどね。
安藤 猫背っていうか、ギターを弾く形に骨格から最適化されていってる印象があります(笑)。にしてもテレビに出ていたときのたまはビジュアルからキャラから結構作ってる感じがします。
石垣 そうそう。やっぱりキャラを練ってるんだろうなって。
安藤 イカ天で披露した曲順もすごく良いじゃないですか。初っ端「らんちう」で一発かましちゃう。普通だったら安全な「さよなら人類」を持って来そうなところで「らんちう」にしちゃいますからね。あれは衝撃ですよ。多分若いクリエイターたちは、あの「らんちう」を見て衝撃を受けてると思います。こんなやべえバンドがいるんだと思って、自分でやるようになって、改めて凄いバンドだと知って、影響受けたんだろうなって。当時の映像はもう無断転載以外ではほとんど見れなくなっちゃいましたが、有難さが大きいです。
石垣 無断転載なんですけどね。でも助かったな、映像はもう全然手に入んないですもん。
安藤 「麦茶をもう1杯」とかね。残してくれたことが有難いですよ。
石垣 あれは本当、びっくりしました。こんなすごい演奏があるんだって。
安藤 三味線みたいなギターもかっこいいし、柳原さんの歌声は洋楽カバーで輝くし。何より石川さんがカッコいい。でも、たまのカバーで言うと「ムーン・リバー」が最高だと思ってます。最後に「おやすみ」で締めるのがたまらない。
石垣 音源も映像も少ないのがほんとに悔やまれますね。
安藤 ホントに。でも、私と違ってショウタさんは生たま見てるわけじゃないですか。
石垣 見ました。3たまでの15周年記念公演が最初です。斉藤哲也さんがサポートで、栗コーダーカルテットのおふたりが出て、あと確かライオン・メリィさんも来てたかな。
安藤 栗コーダー、よくよく考えるとアングラ界隈の出身ですが、今や“教育テレビから聞こえる音”代表ですからね。しっかし子どものころに聞いた「ニッポンのタヌキ」が知久さんの歌声だと知った時には人生の伏線回収を受けた気分がしました。
石垣 なんか、CMソングのポップさみたいなものもありますよね。僕が子どもの頃は『星のカービィ』のCMソングもやってました。
安藤 今だとヒガシマルうどん。でも、改めて考えるとアングラシーンの雄みたいなミュージシャンたちがテレビでCMソング歌ってるのって面白い現象ですね。まあ魑魅魍魎はびこるアングラ界隈に分類されるアーティストとはいえ、脱がないし、出さないし、ライブハウス壊さないし、燃やさないし。
石垣 豚の頭投げないし(笑)。
安藤 コウモリ食わないし(笑)。安心安全ですからね。そういえば下ネタも少ないし。
石垣 そのへんは女性ファンが多いことも意識してるんでしょうかねえ?
■石垣&安藤が選ぶたま究極のパフォーマンス
石垣 事前に来ていた「たま究極の演奏は?」については今でも悩んでるんですけど、“究極”っていう意味では、『さんだる』に入ってる「れいこおばさんの空中遊泳」かな。あれは知久さんと柳原さんのツインボーカルで、お互いが追いかけるように歌うじゃないですか。でも一緒になるところはひとりの声みたいになる。ミックスのとき、声があまりに似すぎていてどっちだかわかんなくなったそうです。そういう意味で究極の一曲に感じますね。
安藤 古い音源聞くと、知久さんと柳原さんって声質似てるんですよね。そこからお互い個性付けしていって今の形になった所もあるんじゃないかな。逆にバッハのチェンバロソナタとかは選択肢に入らなかったんですか?
石垣 あれはもうずるいもん(笑)。技術に走りすぎているので、“究極”っていうのとはちょっと違うって感じ。あれはもう「知久さんが凄い曲」です。
安藤 余裕があるのも凄い(笑)。私は「金魚鉢」を究極の一曲として挙げます。この曲はソロパフォーマンスで小技を入れまくってバンドサウンドを補完するのも好きなのですが、バンドアレンジだと逆に、ベースとボーカルだけの所が出てきたりと、音を抜きまくるじゃないですか。これができるバンドはなかなかいませんよ。
石垣 そうですね。もはやギターから手、離しちゃうし。
安藤 最近の邦楽ロックは特に足し算の印象が強く、ギターは2台いて、キーボードも鳴ってて、ベースも元気で、ドラムも音が多くて、それで短い曲をやって盛り上げるのが主流なのですが、たまは真逆。あんなに空白だらけなのに成立するんですよね。
石垣 “音を抜く能力”っていうのは「金魚鉢」、出てますね。
安藤 音を抜くって言うとクイーンの「We Will Rock You」は世界一有名な“音抜き曲”ですが、あれは一発ネタみたいなものだから二発目はありません(笑)。でも、「金魚鉢」は一発ネタじゃないんですよね。信じられないパフォーマンスですよ、ホントに。
石垣 初期のカセットテープだとアレンジがちょっと違うんですよ。だんだんサウンドが研ぎ澄まされて行って、音を抜いたり引いたりするようになっていってます。
安藤 人が増えたのに音が抜けるのは不思議なところですね。Gさん加入からイカ天出るまでにこのバンドで何が起こったんだろう?
石垣 それ。何かがあったんですよね。
安藤 何か革新的なことがあったんでしょうけど、意外とそこって『「たま」という船に乗っていた』でも空白期間じゃないですか。
石垣 楽器のバリエーションは増えてます。パーカッションはセットが完成してますね。キーボードはカシオトーンだったのがオルガンやアコーディオンへと変化して、バリエーションが増えてもいます。
安藤 一方で、デビューしてからのたまは完成された後だから、人数は変われど、音作りの大きなところで変化してない。だからこそGさん加入~イカ天までの空白期間が謎めいてきます。あの数年に何があった?
石垣 謎ですね……有名なところでは知久さんがケラさんに「エレキギター弾きなさい」って言われたらしいですけど、やっぱりやらなくなって。
安藤 知久さんがエレキ弾いてる映像、ちょっとだけ残ってますよね。性に合わないっていうか、凝り性だから「自分が理想とするエレキギターとギタリストの存在」が頭の中にあって、知久さんご自身が思う自分のスタイルと合わないんだと思ってます。
■たまの音楽がクリエイターに与える影響とは?
石垣 たまの影響として、「音楽って、もっと自由でいいんだ!」っていう気付きを与えた所はありますよね。「バンド」って言われたら、もうフォーマットが決まっちゃってるじゃないですか。僕も子どもの頃「バンド」といえばヴォーカルがいて、ギター、ベース、ドラム、キーボードがいて……ってものだと思ってたんですよ。でも、偶然行った中古CD屋で、なんかアコーディオンを持ってる人や、太鼓を叩いてる人、ギターじゃない何かを持ってる人が映ってるジャケット写真を見つけて、「一体なんなんだ、これは?」と思ったのが、たまに出会ったきっかけだったんです。要は、バンドって決まった枠に囚われなくてもいいんだっていうのを教えてくれたのがたまでした。
安藤 歌詞的な意味でも「もっと自由でいいんだ!」がありましたよね。私が子どものころ、2000年代のJ-POPはストレートなラブソングが主流だったので、その中で初めてたまを聴いたときは衝撃的でした。「これは頭を使う音楽だな」って思って。
石垣 ビジュアル面も大事だと思ってるんですよ。僕がたまを知ったのは1999年なんですけど、その頃って第2次ビジュアル系ブームが来てたもんで、みんなちゃんと衣装をキメてやったり、化粧をしてたりしてて、「バンドっていうのは“そういう人”がやるもの」と刷り込まれてたんですよね。でもそこに、あの不思議な格好したたまが現れたんです。民族衣装みたいな服着てたり、ランニング着てたり。こういう服でバンドやってもいいんだ!っていうインパクトがありました。
安藤 最近、たまのファッションって再評価されてますけど、改めて見るとホントにオシャレですよね。柳原さんが謎にスカート履いてたり、割烹着を着てたりするんですけど、やたら似合ってるんですよ。知久さんは子どもみたいに見えるぶかぶかなファッションをしてたり、滝本さんも謎の民族衣装着てたり。石川さんは石川さんですが(笑)。
石垣 実際あのビジュアルって、大きかったと思います。
安藤 普通の格好して出てきてあそこまで流行ったかって言われたら、わからない。評論家ほど軽視しがちですが、ビジュアルって大事ですよ。人間椅子やカブキロックスのビジュアルとか見ててもそう思います。あれはイカ天の功罪な部分もありますけどね。
■“たま”と“ソロ”の違いとは?
安藤 4人の中でソロ限定曲が多いのは、必然的に柳原さんになるわけじゃないですか。柳原さんのソロ曲でたま時代と一番変わったことといえば、歌詞の具体性だと思います。たまでは絵画的だったものが、いい意味での「普通のJ-POP」をしている。いい曲ばっかりですよね。
石垣 確かにそうですね。たまの時代に歌ってたような幻想性を捨てて、地に足つけてる感じ。
安藤 バンドの構成も変わって、サウンドも変化が大きいです。そういう意味では知久さんの変わらなさは凄い(笑)。ギター1本なのに、うますぎてバンドのサウンドと大きく印象が変わらない。力技ですね。
石垣 知久さんは力技ですね~(笑)。年齢を増すごとにどんどん曲が素朴になってる感じはします。
安藤 反面、若い頃に作った曲は演奏がうまくなってるっていう。「電車かもしれない」とか最後のほう超カッコよくなってます。
石垣 石川さんはギター弾き語りになったということもあって、そのへんの変化は大きいですよね。歌詞には死生観が出てくるようになってきてると感じます。
安藤 石川さんの歌詞ってソロとたまでは若干違いますよね。「カニバル」と「夏のお皿はよく割れる」と「夜の牛たちのダンスを見たかい」ではちょっと違うというか。言語化しにくいけど、たまではアングラアングラしてない感じがします。不思議なのはやっぱり、滝本さん(笑)。
石垣 そうなんですよね(笑)。僕、滝本さんのソロライブだけ見たことなくて。
安藤 私もないんですよ。ソロアルバムは持ってるのですが、印象としては「狂気の原液」。他の3人はともかく、滝本さんは何を基準にたまの曲として採用してるのかがよくわかりません。最初の頃は他の3人と違う所に入ろうとして「日本でよかった」みたいな曲を書いてたように思いますが、柳原さんが抜けてからはポップな側面として「レインコート」とか「パルテノン銀座通り」とかが出てきてて。ただ、じゃあ何故「G線上のスキップ」をたまでやらなかったのか、そのへんがわからない(笑)。
石垣 確かに。あれはたまでやっててもおかしくない曲ですよね。
安藤 でも、たまって意外と変拍子の曲は少なくないですか?
石垣 ……あ、確かに。
安藤 緩急ある曲は多いけど、変拍子って思いつかないんですよ。
石垣 言われてみればそうかもしれない……「ぎが」とか「青空」とか、変な1拍が入る曲はあるけど……。
安藤 そういう意味では“変拍子”が滝本さんの特徴かもしれませんね。
石垣 たまに変拍子の曲が少ないのって、新発見かもしれない。メンバーも気付いてないかもしれないですね。
安藤 でも各メンバーは変拍子の音楽も好きっていう不思議。そう思うと、たまのたまらしさって何だろう。“変拍子”ではないってことは今わかりました。つまりプログレではないのかな? いや、プログレではある気がする。フォークかと言われれば、フォークじゃない気もする。たまのたまらしさは、ジャンル論争と直結してますね。
石垣 本人たちも「フォークに行けばフォークじゃないって言われる」って言ってましたね。
安藤 「たまはたま」っていうと“逃げ”な気がする(笑)。友部正人さんや原マスミさんを聴いてるとやっぱりアングラフォークなのかなと思いますが、“地下生活者界隈”はもっとアングラだし。どんどんわかんなくなっていきますね。
石垣 ジャンル考察における「変拍子が少ない」っていうのは大きな発見でした。
安藤 でもね、それを言ったらクイーンの「ボヘミアン・ラプソディ」も変拍子ではないですから。
石垣 確かに(笑)。たまのジャンル論争はキリがないですよ。“プログレッシブ・ハード・フォーク”って言われればそれっぽいですが、なんか違うっていう。
安藤 私は“メタル”って言っておきます。ブルースが芸術性を突き詰めていった結果メタルになったと仮定したとき、「たまって、メタルじゃね?」って視点が出てくると思うんですよ。
■なぜたまは若者にも好かれるのか?
安藤 どうしてたまは若者にもウケるのか。さっきも話に出ましたが、ビジュアルは絶対あると思うんですよ。担当楽器とビジュアルが一致してますもんね。柳原さんがアコーディオン担いだときの妖しさとか、嘘みたいだと思うもん(笑)。知久さんがあの格好でギター弾いてんのも、石川さんが太鼓叩いてるのも、滝本さんがベース弾いてるのも、できすぎてて嘘みたいだって思います。
石垣 あと、いつ聴いてもたまは“新しい”ですよね。古さを感じさせないっていうか。たまって「ノスタルジック」とよく言われますが、聞けば聞くほど「いや、ノスタルジックじゃないぞ?」と思うんです。
安藤 後継者ができなかったからこその斬新さがいつまでもありますよね。
石垣 たとえば今、シティ・ポップ流行ってるじゃないですか。でも、僕が中学生ぐらいの頃、シティ・ポップ聴いてたら音楽マニアに親の仇みたいに叩かれたんですよ(笑)。ですけれども、それがまた1周して評価される時代になってる。一方で、たまに関してはそういうことは無いと思うんです。いつ聴いても新しいから。
安藤 「再評価」とは若干違うんですよね。
石垣 いつ、どの層が触れても新しく感じるから、矛盾した言い方かもしれないですけど、“普遍的な新しさ”があるんです。
安藤 もうひとつ、たまの録音は音質がいいんですよ。ここはイカ天の功績ですね。ヒットしたことによってバンドは精神的に疲労したけれど、海外録音までして、黄金期の上質な音源がしっかり残せてる。その遺産で、最後まで録音状態がいい。いくら曲が斬新でも録音が古臭かったら時代が出ますが、たまに関しては音が良いので、古く感じません。ミックスも良い。そういう意味では、楽器がアコースティックだったことも良い方向に行ってますね。
石垣 確かに。アコースティックバンドには時代関係ないですからね。ドラムを使ってないのも良かったかもしれない。時代のクセが出ますから。
安藤 楽曲以外のたくさんの要素が重なって、「たまはいつ聴いても新しい」になってるんですね。
石垣 そしてもちろん、曲もいい。もう十分評価されてますけど、もっと評価できるんじゃないかってところがあります。
安藤 クイーンの映画みたいに、ストーリー仕立てのたまの映画を作ってほしい。そういう意味で漫画版『「たま」という船に乗っていた』は素晴らしかったです。
石垣 すごく良い作品でしたよね。「よくできた」っていうとあれですけど、ちゃんと取材して作った作品になってました。
安藤 第三者視点が入ったことによってマッシュアップされた部分もあり、すごくいいものになったなと思う一方、やはりあれはあくまでも石川さんの目が見た“たま”であることは間違いないので、他のメンバーからも話を聞きたいところではあります。
石垣 そうですね、ほんとに。
安藤 でも、彼らは大手のレコード会社に所属していないので、メディアからの取材っていうのは難しいんですよね。滝本さんのインタビューとかめちゃくちゃ読みたいのに……でも、本人に聞いたことろでわからなかったりして(笑)。今でも滝本さんは私の中で、バックグラウンド不明の謎のベーシストです。
石垣 町田出身っていうことぐらいしか確かな情報がない(笑)。
■今も愛されるたま
安藤 たまの良さは結論、曲がいいことなんですよね。もうYouTubeさまさまです。
石垣 ほんとに。YouTubeで知った若い人がたくさんいますからね。
安藤 ただ、あの公式みたいな振る舞いをしている、多くの人が公式だと思い込んでる謎のアカウントについては、誤認されないよう「非公式」と一言書いてほしいな(笑)。しかし解散から20年以上経ってもたまの話をこんなにできるっていいことですね。
石垣 そう。たまの話ってね、バンド長いことやってましたけど、意外とできる人少ないんですよ。だからこうやってじっくり話せるのって、貴重な体験です。
安藤 最近はSNSでいろんな人がファンアート描いたりして、漫画版『「たま」という船に乗っていた』が出て。今ってもしかして、第2~3次くらいのたまブームなんじゃないですか? 今、『たまの映画(2010年 今泉力哉)』が公開されてたら良かったのに。
石垣 ですね。10年早かったかな。
安藤 でもあの映画、柳原さんが出てないのが惜しいんですよね。そこが今でも引っかかってます。あと、知久さんと石川さんが一緒に高円寺を散歩してるのに、滝本さんは別のところにいたりもして……って、なんで滝本さんだけ別撮りなんだろうっていう(笑)。ほんとに滝本さん、何者なんだろう。SNSでも農業やってたかと思えば家買ってたり。
石垣 不思議なひとですよね、滝本さん。
安藤 それでは結論は「滝本さんは、謎の人」ということで。ありがとうございました!
石垣 謎ということで(笑)。ありがとうございました!
Text:安藤さやか
Thanks to 石垣翔大(ex.曇ヶ原)