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80年代の過小評価されている洋楽アルバム①

シングルオリエンテッドの時代

80年代の洋楽シーンはどちらかといえばアルバムよりシングル主体の時代だったように思います。MTVの隆盛と関係しているとも思いますが、アルバム単位で名盤と挙げられるのはトーキング・ヘッズ「リメイン・イン・ライト」やドナルド・フェイゲン「ナイトフライ」といったアルバムのトータル性で語られる作品は意外に少なく、ポリス「シンクロニシティ」にせよU2「ヨシュア・トゥリー」にせよ、シングルヒットがその評価に貢献している面が大きいように感じられます。
今回はそういった中で、特に評論の世界でもファンの間でもスルーされているけれどもこれは良いと思えるアルバムをご紹介します。

Elvis Costello & The Attractions "Goodbye Cruel World"

84年発表。再発盤のライナーでコステロ自らが「おめでとう!あなたは最悪のアルバムを手に入れましたね」と書いたことでも有名。
前作「パンチ・ザ・クロック」がアメリカでもヒットしたため、引き続きクライヴ・ランガーとアラン・ウィンスタンレーがプロデュースを担当するも両者の関係性は悪かったそうで、バンドサウンドを引っ込めたプロダクションにコステロが反発していたらしい。結果として「パンチ・ザ・クロック」に比較して地味な印象になった作品。
ただこのアルバムに収録された曲はコステロのキャリアの中でもトップクラスに質が良い上に、歌唱力が一気に増したような印象があり、聴きどころが満載。ダリル・ホールやスクリッティ・ポリッティのグリーン・ガードサイドも参加。
注目曲:"Worthless Thing"/ "Home Truth"/"I Wanna Be Loved" 

Sheena Easton "Do You"

85年発表。そもそもシーナ・イーストンはアルバムの評価がされない人で、その証拠に彼女のアルバムのCD再発はベスト盤ばかりという状況が長く続いていました。
さてこの作品はシックのナイル・ロジャースによるプロデュースで、確実にマドンナ「ライク・ア・ヴァージン」のヒットを受けての起用でしょう。前作「プライベート・ヘヴン」はプリンス作品を収録するなど目配りの聡さがうかがえる彼女ですが、彼女の資質的にはナイルとのコラボの方が合っているように思います。
全体の完成度は「ライク・ア・ヴァージン」には及ばないとは思いますが、これは力作で、曲の良さとシーナのヴォーカル緩急、ナイルによる切れ味の良いサウンドがうまく噛み合っています。
注目曲:"Do It For Love"/"Kisses"/When The Lightning Strikes"

Kaja (Kajagoogoo) "Crazy People Right To Speak"

85年発表。カジャグーグーからリマールが抜け、さらにジェズ・ストロードも抜けてカジャに改名した唯一の作品。
1stはリマールの声とポップ感覚が魅力で、そのリマールが抜けた2ndは彼らの元々の音楽性であるフュージョン&ファンクを押し出した作品でこれもヒット。で、この3rdはヒットにならずほぼ黙殺された状態ですが、これが実に良い。
シングルは「涙の傷あと(Shouldn't Do That)」のみでしたが、アルバム全体で捨て曲は一切なし。1stにあり2ndで消えた抒情性も形を変えて復活し、一方で硬質なアレンジが実に魅力的。明らかに音の質感が変わったので誰がプロデュースしたのかと確認してみると、デュラン・デュランを手がけたコリン・サーストンから離れてケン・スコット(デヴィッド・ボウイ作品でも有名)で、同じく彼が手がけたレベル42「ワールド・マシーン」と似た感覚もあります。
注目曲:"Shouldn't Do That"/"Your Appetite"/"Jigsaw" 

Spandau Ballet "Through The Barricades"

86年発表。スパンダーといえば「トゥルー」のイメージが強すぎるわけですが、ファンにとっては続く「パレード」やこのアルバムにも相当思い入れは深かったはず。タイトル曲は「トゥルー」と並ぶ名曲でイギリスなどでもシングルヒットしましたが、アルバムはアメリカでは完全にスルーされた状態。
本作は「トゥルー」「パレード」と続く中で彼らの一つの完成形だったはずで、ゲイリー・ケンプのソングライティングが光る名作です。
続く「ハート・ライク・ア・スカイ」はイギリスでもセールスは失速しますが、プロダクションもすっきりとし、彼らの濃厚な個性が味わえるのはやはり本作まで。
注目曲:"Through The Barricades"/"Swept"/"How Many Lies"

Rick Springfield "Tao"

85年作品。リックのチャート上の全盛期は81年の「ジェシーズ・ガール」から84年の「ハード・トゥ・ホールド」までですが、シングル「セレブレイト・ユース」が出たときはぶっ飛びました。当時ここまでデジタルに振れたロックはまだなかったように思います。ところがそんなに売れなかった。爽快なロックのイメージからあまりにかけ離れたせいだったんでしょうか。
そもそもリックという人もあまりアルバムで語られることの少ないのですが、現在に至るまでこの人のアルバムは丁寧に作られている印象があります。
ファンの間では、シングルにもなった「ステイト・オブ・ザ・ハート」の人気が非常に高く、リック節が冴え渡る名曲。「Tao」の路線は続く「ロック・オブ・ライフ」までですがこれも佳作。
注目曲:"Dance This World Away"/"Celebrate Youth"/"Written In Rock"

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