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金網の中で闘う人を見た日(2023年6月25日、スターダムを観戦して思ったこと)
ソワソワ
この日は林下詩美選手率いるQueen’s Questと大江戸隊の全面戦争ケージマッチがメインイベント。ここに至るまでのQQ内の不協和音とかリング上だけじゃない大江戸隊からの攻撃とか色々ありすぎて、どうなってしまうんだQQ、と不安やら心配やら祈りやらで私はずっとソワソワしていた。
カタルシス
そうしてメインイベントを待つ間に、とある試合の後で女子プロレスラーがブチ切れる瞬間に心が動いた。
ゴッデス・オブ・スターダム選手権を制したのは白川未奈選手とマライア・メイ選手のタッグ。女神の名を冠したClub Venusに相応しい戴冠。
その影で、ベルトを落とした前王者の元に現れたのが中野たむ選手。赤と白の二冠王者。その白いベルトに挑むMIRAI選手を煽りに来た。
挑戦表明からこのかた、マイクがあまり上手ではないこと等を指摘され続けてきたMIRAI選手。中野選手の煽りはゴッデスのベルトを落としてしまったところに的確な追い討ち。言葉を返せるのだろうかと見守っていると、MIRAI選手は無言で中野選手に打ちかかりリングにねじ伏せた。
そこでようやくマイクで「調子に乗ってんじゃねえぞ」と……残念ながら噛んでしまう。
それでも、このMIRAI選手がブチ切れる瞬間はゾクっとした。
プロレスラーではない私は、ブチ切れそうになっても怒りを物理的に表現することはまずない(万が一、物理的に表現してしまったらきっと自分の方が怪我をする)。
しかしプロレスラーなら、プロレスラー同士なら、ブチ切れて拳に訴える表現方法を採れる。
自分にはできないことをしてくれる姿を見て、私の心が動く。これもある種のカタルシスなのだろう。
そんなカタルシスとは別にふと思ったのが、赤と白の二冠王者にどう挑むかということ。
一つのタイトルを持つ王者に挑んだ挑戦者は、勝ったら一つのベルトを獲れる。
ならば、二冠王者に挑んだ挑戦者は、勝ったら二つのベルトを獲れる、と考えても間違いではないだろう。
けれど、二冠王者は赤の獲得と白の獲得、計2試合を勝ってきたから二冠王者なのだ。
だから一試合に一つずつベルトを賭けて闘うのも一つの方法だろう。
ただ、私の個人的な希望というか、単に「観てみたい」様式として思ったのは、「赤と白のベルトを賭けて、時間無制限3本勝負」とか面白いんじゃないかなということ。
これなら、2試合を勝った王者から2+1=3回のピンフォールなりギブアップなりを奪うことが勝利条件になり、どちらが勝ってもその選手の強さの証になると思う。まあ、素人考えかもしれないけれど。
金網
そうこうするうちに金網が設置され、セミファイナル開始。
アーティスト・オブ・スターダム選手権試合でもあったこの試合は、「ケージマッチ・エスケープルールの基本」を見せてくれた試合でもあったと思う。
タッチして交代などなくほぼ乱戦。金網を登って逃げるためには、追手の体力を削っておく。追いかけられないためにうまく連携する。金網に登ればコーナーポストの倍の高さから飛べる。金網から脱出する順番も重要……といったことがわかったし、高所よりも閉所が嫌いでケージマッチが苦手な岩谷選手の動向が、スターダムのアイコンな印象と落差があって面白かった。
メインイベント
いよいよメインイベント……。
時間無制限、ケージマッチ、エスケープルール、凶器持ち込み可、敗者はユニット強制脱退。盛りすぎなくらいの条件。凶器片手にTシャツやタンクトップを着た大江戸隊は、ルールを提案したこともあって手慣れている印象。対するQQはいつものリングコスチューム。凶器を携行してはいなかったけれど、リング上にはテーブルとラダーが置かれていた。
そして試合開始。
まずは凶器なしでの乱戦状態から、詩美選手と上谷選手が協力して天咲選手を脱出させようとするも、大江戸隊に阻まれ失敗。
妃南選手と吏南選手が相手ユニットのレスラーを次々と投げて転がし、姉妹対決を経て金網を脱出。
意外と脱出が早かったのが渡辺桃選手。愛用のバットをケージの外に投げ飛ばしてから颯爽と脱出していった。
もう脱出するのかなと思ったら、金網の上まで登ってからムーンサルトしたのがスターライト・キッド選手。そのキッド選手めがけて金網の上からダイビングフットスタンプを決めたのがAZM選手。きっちり見せ場を作った二人も中盤で金網を脱出した。
脱出してからも味方のサポートや相手ユニットの妨害に忙しい選手たち。QQの持ち込み凶器?がここでお披露目。AZM選手がCO2噴出器で鹿島選手の脱出を妨害! 得意げなAZM選手が可愛くて心和む瞬間だった。
諸先輩方に奮戦した天咲選手も中盤で金網を脱出。テーブル上で瑠悪夏選手の冷凍庫爆弾を受けたレディ・C選手も、詩美選手の肩車サポートを受けて脱出。
さらには、誤爆や行き違いの続いていた上谷選手を、詩美選手がラダーに促して脱出させる。ああ、やっぱり詩美選手はQQのリーダーになるべくしてなった人だ、カッコいい! と心が震えた。
しかしケージ内には刀羅ナツコ選手と鹿島沙希選手がいて、詩美選手は2対1のハンディキャップマッチ状態。ナツコ選手の飛び技を受けた後、金網上で殴り合う詩美選手。大江戸隊の凶器サポートもあり、ナツコ選手は脱出。詩美選手は再びケージ内へ……。
鹿島選手を投げて転がし、詩美選手が金網を登る。いつの間にか詩美選手の額から血が流れていて、登るスピードが上がらない。外からは渡辺桃選手が妨害の手を伸ばす。その横から金網をよじ登る上谷選手。
何をするつもりなんだろう。詩美選手と訣別するとか、そういう流れ? 固唾を飲んで見守るとはまさにこの時で、桃選手が上谷選手にバットを手渡すというお膳立てまであって、観ている側の緊張も高まる中、上谷選手がバットを振り下ろす。
金網から滑り落ちたのは桃選手。上谷選手は詩美選手の手を取って、脱出をサポート。よかった……QQが、詩美選手が壊れなくてよかった……と心底ほっとした。
ナツコ選手に罵倒されて袋叩きにされた鹿島選手の今後も心配ではある。AZM選手等、気にかけている選手はいるようだし、引退はしないとの発信もあったので、ひとまず見守りたい。
試合の勝敗だけでなく、誰が脱退することになるのかの予想も含めて、心がたくさん動いた試合だった。
プロレスは深い。
さて、次はどんな試合を観られるかな。