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感情をぶつけ合って闘う人を見た日(2022年10月1日、スターダムを観戦して思ったこと)
思いがけないこと
真夏の最強女子決定戦と銘打たれたスターダムの5STAR GPの最終日。
私にとってはプロレス初観戦がこのシリーズの開幕2日目だったので、リーグ戦の結果を追い続けた集大成を見届ける日になると思っていた。
実際、見届けたのだけれども……思いがけないこともあった。
この日の朝、アントニオ猪木氏の訃報を耳にしたこと。
会場で、氏を追悼する10カウントゴングに立ち会ったこと。
静かに冥福を祈ったあの時間は、印象深く脳裏に残っている
涙腺にきた一戦
奇しくも、私の席はまたしても選手が引き上げる通路がよく見え、なおかつ花道も見やすい位置だった。
全13試合、驚いたり、ぐっときたり、多少の疑問を覚えたりする中、最も私の心が動いたのは、第6試合・ジュリアvs鈴季すずの一戦だった。
前所属団体アイスリボンでの先輩・後輩。ジュリア選手の退団とスターダム参戦を巡って生じた確執と因縁。3年をかけて醸成された怨念が遂にリングの上で激突する……。
雄叫びをあげてつかみかかるのか、無言で殴りかかるのか。私は己の想像力の安直さを知ることになった。
リング上で対峙した両選手の目から、涙が溢れている。
すず選手の張り手から始まった試合。技の応酬の果てに、すず選手の感情が爆発したように見えた。
結果は、15分時間切れ引き分け。
リングを下りる両選手を見つめながら、私は泣きそうになっていた。
嗚呼
感情をぶつけ合える2人が羨ましい。
それが私の率直な思いだ。
他者との関わりにおいて、感情のままにぶつかっていくと、ほとんどの場合その関係は壊れる。感情をぶつけ合って絆が深まるなど、青春か幻想の中にしかない。そういう現実を生きているのだと、私は認識している。
感情を他者にぶつけないために、飲み込む。大したことじゃないと思い込む。
相手にぶつけることができなかった感情が、自分を苦しめてくる。その苦しさに耐えきれない時でも、相手に感情をぶつけることを選ばずに、相手への関心を失い、関係の重要性を下げていくことでやり過ごす。
そうして何となく、表面上は波風のない(薄い)関係を維持できるから、逆に心底、骨の髄まで誰かを憎いと思うことも、実はなくなっている気がする(関係の重要性を下げたり否定したりできなくて、いざ感情をぶつけたところで、相手が受けて立ってくれるかどうかという問題もある)。
だからこそ、羨ましいと思う。
愛憎という言葉だけでは表しきれない思いが重なって極まって、その感情をプロレスという力の勝負に込めて、はたき合い投げ飛ばし合える両選手が、羨ましい。
あれほどの試合の後で、まだまだ足りないと言わんばかりに凄まじい笑顔を見せたすず選手が、本当に羨ましかった。
両選手を羨ましいと思う、そんな感情が自分にあること自体も、一つの発見だった気がする。
さて、次はどんな試合を観られるかな。