コーヒーを美味しく淹れられるようになると
コーヒーを美味しく淹れられるようになると、死にたいと思わなくなる。
辛い時間が少し短くなったり、辛さが少々和らいだりする。
ぼたぼた涙がこぼれ落ちる時間と、コーヒーの液体がドリッパーから滴り落ちる時間を、わざわざ重ねてみる。
できたら豆から挽いて淹れてみてほしい。
やっぱり香りの立ち方が全然違うから。
新鮮な豆だとお湯を注いだ時に空気が出てきて粉がぶわあっと膨らむ。
その様子を見ると、私は心底ワクワクする。
コーヒーを好きになって、それを仕事にするようになってからも、たくさんの辛い出来事があったけれど、膨らんでいくコーヒーの粉をみていると
そんなことどうでもよくなる。
そして、涙が止まらない日も、
滴り落ちるコーヒーを眺めながら、いい香りに自分を包んで
今日もよく生きていた、と自分を褒めちぎりながら美味いコーヒーを体内に流し込む。
そう、生きているだけでもう本当に丸儲け。
辛いと言いながら、泣きながら、でも雨風凌げる暖かい家に帰って、温かいコーヒーを淹れることができているんだから
そこで、私は本当に幸せだと気づく。
浅煎りのコーヒーをハンドドリップでスッキリさっぱり飲むのが好き。
どんな日も飲み飽きない、飲み疲れないから。
「飲み疲れる」という言葉を私に教えてくれた人は、
人生に疲れているようにも見えたが、そんな人生をも受け入れて、強く生きようとしていた。不器用な人だった。
きっとこれからも、人生に絶望しながらも、
コーヒーと共に生きる人なんだろうなと思う。
私はまだ人生に絶望はしなくてもいいかなと思っているし、したくもないけど。
だし、辛い時にだけコーヒーを淹れることにしたら、逆にコーヒーを淹れると辛さを思い出してしまうようなバブロフの犬になってしまうのは避けたい。
あくまでも適度にね。
夜にコーヒーを飲んでもぐっすり眠れる人に限りおすすめです。