資格と給与
Xで給与が低いと嘆く事務所勤務者や求職者は目立ちますが、給与を払う側の考えはあまり見かけませんので、一開業者である私が給与を払う側の目線で思った事をストレートに書きます。
多くの社労士は雇用していない、していても数人の規模なので私と似たような状況だと思います。
ですので開業社労士には共感してくださる方がそれなりにいるのではないかと思いますが、逆に大規模事務所の開業社労士や勤務者から見ると共感されないかもしれません。
全員が同じ意見だとは思いませんので、一般的な規模の社労士事務所を運営する開業者の一意見として参考程度に眺めてください。
社労士業界の給与
あまり言うと「業界を貶めるな!」と怒られますが、社労士業界は給与が低いです。Xでも頻繁に話題になります。
統計を出せと言われると困りますが、求人情報・SNSでの勤務経験者の声などを見ればお分かりいただけるかと。
また、額面がそこそこ高い事務所でも固定残業の時間数がかなり多いケースもあります。
なぜ社労士事務所は給与が低いのか。
それは単純に給与の原資になる売上を増やしにくいからです。
(中にはもっと給与を払えるのに自分の取り分を最優先している所長もいるかもしれませんが…)
私が考える売上が増やしにくい主な要因は3点。
労務は緊急性が低いので重要視していない経営者が多い
顧客も中小零細が大半なので契約できても高単価は難しい
従業員がいる事業主が契約対象のため、そもそも市場パイが少ない
これは顧問業務に限った話なので、助成金に特化した事務所なら違うかもしれません。
私は助成金をやらないので分かりませんが…
もちろん「うちは事業会社並みに、いや、それ以上に払っているよ」という事務所もあると思いますが、そちらの方が少数であり全体傾向として低いのは事実です。
実際に開業のうち半分以上が一人事務所です。
あえて一人でやれる規模にコントロールしている人もいるでしょうけど、売上・業務量の規模的に雇用したいけどできない人が多いというのが実際のところだと思います。
私は今でこそ職員雇用をしていますが、運が良かっただけであり、食えずに預金が底を尽きかけた経験があるので実体験としてもよく分かります。
「業界としてこんな状況でいいのか!」みたいなお叱りの言葉もあるかもしれませんが、この件は今回の本題ではないのでここまで。
とりあえず売上がガンガン増えていきやすい業界ではないという前提をまずお伝えします。
※「お前のやり方が悪いだけだろ」みたいな批判・営業マウは要りません。
給与はどこから出るの?
Xでは合格者がその資格を武器に社労士事務所の面接を受けたけど、思ったより給与提示額が低くて悲観しているのを見かけます。
企業規模や業界に関係なく全ての会社・事務所に共通しますが、給与を払うためには「入ってくるお金=売上」がないと原資が用意できません。
その売上をもとに、どれくらいなら給与として出せるか・雇用形態はアルバイトなのか正社員なのかを決めます。
もちろん売上全てを給与には回せません。
事業としてやっている以上、利益も出して預金も増やさないといけないです。
事業主である私も業務を行いますから、私の収入も必要です。
それらを総合的に判断していくら払えるのかを判断しないといけません。
最初の話に戻りますが、社労士は売上を増やしにくい背景があるので、給与をそんなに高く払えないというのは至極当然という結論になります。
もちろんですが、
①今は売上の余裕はないけど今後営業を強化するために先行して採用する
②売上が既にあって雇用できる原資が用意できたから採用する
のどちらが先なのかによっても違ってくると思います。
①のパターンだと売上を増やすために所長が自分の収入を削ってでも職員給与に充てていることになります。
社労士事務所に限らず、お客様の給与でも役員報酬が従業員給与並み又はそれより少ないケースも実はありますが、先行投資で①にしているのだと思われます。
有資格者に対する給与の考え方
やっと本題に入りますw
Xで社労士試験に合格して、でも給与額が低いと嘆いている方にお伝えしたいことがあります。
「有資格者を雇用しても売上が増えるわけではない」のです。
もちろん合格したという努力は認められるべきものです。
しかし社労士事務所の半分以上は雇用がなく、雇用があっても1~3人くらいの零細が多い。
そこらへんの商店街のお店と変わらない規模なんです。個人商店なんです。
給与をたくさん払える規模ではないんですよね。
高給を可能にするには売上が必要です。
有資格者を雇用しただけで自動的に売上UPしたら開業は苦労しません。
自ら有資格者でありながら、雇用できる売上規模ではない開業社労士が多いのは何もよりも説得力があり重い事実です。
開業者だって自分が食うのに苦労していないわけではありません。
だから資格を持っているだけの理由で待遇を良くするのは、個人商店規模では難しいのです。
資格手当
「でも有資格者なら資格手当くらい支給しても良いのでは?」という意見もあると思います。
しかし少なくとも私は、有資格者でもそれだけの理由で手当を支給するつもりはないです。
その理由は3点に集約されます。
業務に必須ではない
資格と貢献度&適性は別
売上が増えるわけではない
1.業務に必須ではない
事務所は所長の資格で開業登録しますから、職員の社労士資格の有無は業務に全く影響がありません。
手続きも所長名で行いますし、その責任も全て所長が負います。
そして実際に事務所内に有資格者がどれくらいいるか?なんて気にするお客さんはほぼいません。
雑談で聞かれる程度はあるかもしれませんが、そういうのを本気で気にするお客さんは大きな事務所と契約しているはずなので、多くの開業者にとって事務所内の有資格者数などは気にする部分ではないのです。
2.資格と貢献度&適性は別
これはかなり重要だと個人的には考えています。
私はやはり貢献度が高い人を評価したいです。
実務をそつなくこなしてくれる、売上をもたらしてくれる、全体の効率を上げてくれる、とか。
また、試験合格と業務適性はイコールではないんですよね。
実務は事務作業が多いですが実際に事務が苦手な人って意外と多い印象ですし、お客様対応がきちんとできるかどうかも試験とは別の話。
有資格者でミスが多い人、無資格者で業務をきちんとこなせる人。
どちらを評価しますか?と聞かれたら、私は当然に後者です。
ですから有資格者だけという理由で給与を上げるのはこちらも躊躇しますし、月給は簡単には下げられませんから、もし入社して給与に見合う担当売上をこなせなかったら…というリスクを考えてしまいます。
毎月の手当は難しいですが、1回限りで賞与に上乗せするというのはもちろんありだと思います。
3.売上が増えるわけではない
繰り返しになりますが資格だけで売上は増えません。
原資が増えないのだから、給与が増えないもの変な話ではありません。
もちろん私の場合は資格の有無より貢献度を評価したいという話なので、資格手当を支給してくれる事務所はそれなりにはあると思います。
私にとってそこは評価ポイントではない、というだけの話です。
社労士事務所勤務が許容できる人
給与面では一般的な社労士事務所はなかなか厳しいのが現実です。
個人商店である以上、結局は所長次第ですし、待遇以外にも所長との相性も重要です。
「給与は高くないけどそれ以外の労働環境は満足できる」という事務所も多いはず。
しかし給与はどうしても売上とは切り離せないので、所長の人柄が良くても給与が良くなるわけではありません。
そう考えると社労士事務所勤務が許容できる人は2パターンに集約されると思います。
開業前の修行と割り切れる人
収入にそこまでこだわっていない人(ダブルインカムや実家暮らしで家賃がかからないとか)
実際に私も採用活動をする中で、一家の大黒柱である立場の方からも応募がありました。
しかし、事務所規模的に毎年定期昇給なんてできないし、こちらが想定している給与では難しいと感じたので不採用にしたことがあります。
(採用した直後は良くても、給与は長期的な不満につながると思っています)
給与面だけなら事業会社を検討すべき
給与面だけで考えると社労士事務所ではなく、事業会社の人事担当を目指した方が良いです。
もちろん全ての事業会社が良い給与ではありませんし、事業会社でも零細なら社労士事務所と変わらないような待遇の企業も多いです。
あくまで可能性の話なので、結局は個別判断するしかありません。
ただ、同じ労務業務であっても内部に入って多くの社員と関わる人事担当者と、外注として主に手続きや相談がメインになる社労士事務所は同じではありません。
私は両方経験しているか分かりますが、どちらが良い・悪いという話ではなく立ち位置や業務の性質が全く異なります。
それも踏まえた上で「社労士業務をやりたいの?人事担当をやりたいの?どっちなの?」という点も大事かと思います。
(あとは事業会社でも内製化なのか外注なのか、そのスタンスにもよる)
給与も妥協したくないけど、でも社労士事務所で勤務したい人は、根気よく業界で数少ない給与が高い事務所を探してください。
Xでも給与が高いことをPRしている社労士はいます。
もちろん通える範囲でそういう事務所があるか、あったとして求人しているか、採用されるかは全く別の話ですが…
私の場合ですが、もし「採用してくれたら売上〇円UPさせるので、そのうち〇%を給与としてほしい」みたいに売上貢献するならいくらでも払う気持ちはあります。
(ただ、そもそも売上UPできるような人は自分で開業しちゃうでしょうしね…)
これは事業主である私自身も同じで、売上UPしないと職員給与どころか自分の収入すら上がらないわけです。
※ちなみに私の事務所は職員に営業活動はさせていませんが、自ら売上UPしてくれるならそこはかなり評価します。
最後に…
景気の良くない話が大半でしたが、もちろん良い事務所も多くありますよ。
あくまで「給与面だけ」で見ると待遇の良い業界ではないのは事実、と言うだけの話です。
「色々偉そうに言ってるけどお前の事務所になんか行かねーよ、バー〇」と思う方もいるはずですが、それはそれで良いと思います。
中には業務・事務所に夢を見すぎて、誤った判断をする方もいます。
夢の前に、生活するための収入は本当に大事です。
有資格者だから給与が優遇されるべきと思うなら、そういう評価制度のある職場、財務的に余裕のある職場に行くべきです。
少なくとも社労士業界でいうなら、余剰人員を抱えても財務的な体力がある大きな事務所・法人を検討対象にすべきだと思います。
零細事務所だと売上と給与はより密接に関係しますから、毎月払う義務の発生する月給に関してはシビアにならざるを得ないです。
(ただ大きい社労士法人だから給与が良いわけではないのが、また難しいところですw)
以上、もしかしたらこれを読んであまり良い気分がしなかった方もいるかもしれませんがご容赦ください。
あくまで一開業者の意見なので、あとは自分の人生です。
自分で考えて自分で決めてください。
転職を考えている人は良い職場と出会えることを願っています。