『Make A Move』Incubus(思い入れのある曲シリーズ)
今日はIncubusについて。
ターンテーブルを操るメンバーがいることからも、いわゆるミクスチャー系のバンドとして取り上げられることが多いこのバンド。
ある程度楽器を齧った人であればほとんどの人が好きになってしまうような、そんな魅力を持つバンドだと思う。
実際、自分の学生の頃のバンド界隈の仲間はかなりの割合がIncubus好きを公言していたし、何ならIncubusに影響を受けたのが丸わかりの曲を作っていたバンドも多かった。
これは個人的な印象なんだけども、楽器を始めてすぐの頃は明確にテクニカルだとわかるような演奏に惹かれがちで、そこから徐々に玄人的な、実はテクニカルなことやってましたよーという感じの演奏に惹かれるようにシフトしていく傾向があるように思う。
Incubusはこの括りでいう、玄人的なところをくすぐる魅力を沢山持っている。
メンバーの演奏は一聴して速弾きだとか、もの凄いフィルインだとかを使っているわけではないんだけど(ドラムはあからさまに凄いかも)、いざコピーしようとしてみると「なんか再現できないなぁ」となってしまう。
まずギターのMike Einziger。
あまり目にしたことのない綴りの名前を持つ彼はユダヤ系アメリカ人らしい。
Incubusのみならず多方面で活躍していて、AviciiやPharrell Williamsとも共演したことのある、いわゆる売れっ子的なギタリストだ。彼のギターの魅力はゴリゴリに潰れた音で弾くリフと空間系エフェクトを多用したアンビエント系アプローチのギャップにあると思っている。
多分テクニックも相当な物で、速弾きっぽいフレーズを弾いている曲もあるのだが、敢えてそういった要素は省いた、シンプルだけど耳に残るフレーズやリフを量産してくれる。
次に現ベースのBen Kenney。
この人は元々ギタリストらしいが、あんまり元ギタリスト感を感じないベーシスト然としたフレーズを弾くことが多いように感じる。
全体的にレイドバックした後ろのりなリズムを持っており、前任のベーシストがバキバキ系のTHEミクスチャー的なベースを弾いていたのと対照的だ。
曲中で弾いているベースもいいが、曲間でインプロ的に弾いているフレーズがセンスの塊といった感じで非常に格好良い。
ストレイテナーのベースのひなっちがこの人のベースを賞賛していたのが印象的だった。
ドラムはJose Pasillas。
何だかいかにも上手そうな名前だが、その名の通り鬼のように上手い。
メンバーの中では最もテクニカルな要素が如実に出ていると思う。
この人のドラムは休符というか空間をコントロールしているような感覚を覚えるドラムで、一つ一つ叩いた音の音価までしっかり計算しているかのような緻密なフレーズが堪能できる。
ターンテーブルのDJ Kilmoreについてはターンテーブルの知識が無さ過ぎて語れることがほぼないのが正直なところだけれども、曲の核になっているようなパートも多いし、時々ギターかターンテーブルかどちらか判別できないような音を鳴らしていることもあって興味深い。
ボーカルのBrandon Boydはただのカリスマです。
特にミディアムヘアの時の美男子ぶりが異常で、ロン毛になってからはNuno Bettencourtと見間違えることがある。
そしてようやくこの曲『Make A Move』について。
この曲は映画『ステルス』のタイアップにもなった楽曲ということで、Incubusの曲の中ではかなりキャッチーに寄っている。
ただ演奏ではIncubusの持ち味が存分に発揮されている。
楽器隊が後ろに引きずるようなノリの演奏をしている一方で、ボーカルは前へ前へと無理矢理進んで行くような勢いがあり、そのギャップがIncubusの独特のノリを生み出していると思う。
一番のサビの後のブリッジにベースソロのような箇所があるのだが、どことなく気怠いノリでブルーノートを使ったフレーズを弾いており、Ben Kenneyの魅力が存分に味わえる。
余談だが、この映画『ステルス』の日本版ではHYDEが『COUNTDOWN』という曲で主題歌を務めている。
二曲の違いを味わうのもまた一興だと思うので、そちらも是非聴いてもらいたい。