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数学のない世界(1/2)

はじめに

とある政党(日本維新の会)のとある議員(藤巻健太衆議院議員)の予算委員会での発言が物議を醸しました。ざっくり言いますと、三角関数が使われている場面はあるが、三角関数を知らなくても生きていくことができる。そんなことより金融教育を重視した方がいいというものです。学校の勉強は社会で役に立たないことよりも役に立つことを学校で学ぶべきだというものです。以前から、少し取り上げている学校で習ったことは役に立たない論者です。本人は三角関数不要論者ではないと言っていますが、根底には学校で習うことに社会で役に立つ知識がないという意識があるのでしょう。この発言に賛同される人もいらっしゃると思いますが、文系出身の僕はこの意見に対しては反対の立場です。

数学は本当に不要なのか?


三角関数の話に行く前に数学の話をしたいと思います。学生時代、数学が得意=計算が好きな人というイメージがあったと思います。実はこれ間違いです。数学はあくまでも考え方であり、計算は数字を簡素にする行為のことです。本来の数学であれば、3人の平均身長は(170+160+180)/3で十分ですが、学校で求められる数学は計算をしなければならず170cmとしなければなりません。学校では後者だけが正しいとされていますが、本当はどちらも正解です。決まった式に数字を入れることが計算で、ある事象から式を立てることが数学です。学生時代、数学が得意だった人が数学的なセンスの欠片もないのはこういった理由です。
数学はある事象を説明するための方法であり、計算の前段階です。数学はある事象を説明するのにどういう式を使って説明するのかというものであり、計算はその式に基づき数字をたたき出すことです。計算はコンピューターのほうが得意ですが、一から式を立てる数学は人間の方が得意です。ガリレオも「数学は神が宇宙を書いたアルファベットだ」や「数学は、科学へとつながる鍵とドアである」という言葉を残しています。我々は人とコミュニケーションを取るために言葉を使います。コミュニケーションを取る相手が誰かによって使う言葉や言語を変えます。それと同じようにある事象を数学という言葉を使って説明します。車の制動距離を求めるときに速度の2乗に比例するので、速度から制動距離を割り出します。在来線での最高時速が130km/hとなっているのは、踏切などで立ち往生していて電車が緊急停止しないといけないときに、急ブレーキをかけて600m以内(記憶があっていればですが、、、)に停止できる最高速度が130km/hだからだそうです。
数学を基に導き出された結果を基に新しい技術が生まれています。最近話題になっているメタバースも数学の英知を結集したものですし、電気自動車も数学がなければ誕生していません。学校で習った数学が役に立たないというのは嘘です。学校で習った数学の発展形が今、我々が暮らしている豊かな生活です。電気で明かりを灯し、ガスでお風呂を沸かし、スマホで動画を観たり、欲しいものを注文したりする、これらすべて、数学がなければ実現できていません。電気で言えば、発電所でタービンを回すときに必要な水の量を算出し、蒸気にするために必要な熱エネルギーと熱源のロス比率を求め、そして、タービンを回すときの熱損失の計算など、電気が家に届くまでにこれだけ数学が使われています。
ここまで専門的でなくても、体積を求めたり、面積を求めたりするときに日常的に数学の知識は使うはずです。数学が一切不要であれば、ペットボトルにどれだけの水が入るかなど誰も知り得ないことになります。積分は古代ギリシアで生まれたとされ、そのきっかけは農作物の作付面積を図るために生まれたものと言われています。つまり、数学が我々の生活を豊かにし、そして新しい理論が生まれ、また生活が豊かになっています。数学を不要と考えるのは豊かな生活を捨てることになりする。
数字は嘘つきが使うものという言いがかりがありますが、数学が分かっていなければ、その数字がどのように嘘をついているかを見抜くことすらできません。数学の知識がなければ、根拠もなく単に嘘をついていると喚き散らしている迷惑な人になってしまいます。実はこういったことは統計の分野で多く、少し統計学の知識があれば見抜けるものが山のようにあります。

三角関数より金融教育の矛盾

数学は学術的側面が大きく、実生活で役に立っているかわからないと思われるかもしれませんが、実生活で数学がなければこれほど豊かな生活はできていないことがわかったはずです。金融教育をするうえでも数学は必要です。ローンを組むときについてくる金利はまさしく数学で、完済しない限り、元本に金利が乗り続けることになります。単純に増えるのではなく、雪だるま式に膨れ上がります。この時にy=axのような比例で考えると痛い目に遭います。y=a(1+金利)^年数で増えていきます。
金融教育で一番重要視されるのが投資です。貯蓄から投資へと政府も打ち出していて、投資はお金持ちだけでなく庶民も気軽に行うことになっていきます。投資では確率を基にした期待値もさることながら、三角関数も使うことになります。三角関数はsin、cos、tanですが、sinとcosは周期関数といって一定の距離を進むと同じような軌道を描くようになります。三角関数は周期性を導くときに使うこともあり、何かを予測するときに使われることもあります。株の値動きにもある程度の周期性が見られ、買い時と売り時をある程度予測できるため、三角関数を無視することはできません。
三角関数よりも金融教育というのは、沼の上に家を建てようとしているのと同じです。金融教育も重要ですが、その金融教育をよりよいものにするには数学的知識がなければ意味がありません。藤巻議員の発言は数学的センスの欠片もない発言です。数字が存在する世界には数学が存在します。それはお金もしかり、寿命もしかりです。数学の知識が役に立たないと決めつけるのは、どこでその知識が生かされているかを知らないだけで、もっと言えば不勉強なだけです。数学がなければ、説明できない事象はたくさんあります。
世の中のお金の流れを景気と言い、それを包括的に分析したり、一部にスポットを当てて分析したりする学問を経済学と言いますよね。経済学は文系学問と分類されていますが、経済学者の大半は理系出身者で、世の中のお金の流れを見るときに数学の知識がなければ、正しく分析ができないことを示しています。


次回は高校数学を大学の科目にすべきかというテーマで考えていきたいと思います。

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