紫陽花の花束に祈りを
実家に帰ると、父が庭の手入れをしていた。
今、ちょうど紫陽花が咲き始めている頃だ。
紫陽花は、小さい花の集合体になっているのも面白いが、土の成分によって、花の色が変わるのも面白い。
先日、父の右目が見えなくなった。
網膜剥離だったらしく、すぐに手術となった。
体は大きくて、声も大きいが、病気となると、急に弱々しく小さく見える。
庭に立ってる父が、紫陽花に紛れて見えたのは初めてだった。
「調子はどう?」
と聞くと、
「光はわかるが、他は見えん」
と父は振り返らずにボソリと言った。
歳を重ねると、体の年季も入ってくるのは自然なことだが、片目が見えないというのは、父にとってショックが大きかっただろうなぁ……と、振り返らない父の背中を見て感じた。
帰り際に、玄関に赤紫色の大輪の紫陽花が花束にして置いてあった。
「きれいだろ?持って帰れよ」
そういって、父は得意げに笑った。
この笑顔を、少しでも長く見ていたいな……。
人生の最終稿を父らしく描いてほしいと、紫陽花の花束に祈りを込めた。
今年もきれいな紫陽花をありがとう。