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知らなくていいこと

 知りたくない情報が勝手に入ってくる。
 ニュースアプリをスクロールしていると、まだ観てないドラマのネタバレをしている記事が突如現れるように。
 急いで閉じても、目に入ったタイトルと数行の記事がインプットされている。覚えたいことはなかなか頭に入らないのに…
 
 「これ実は元彼とおそろいのシャツなんだよね」
 
 初めて彼女の家に遊びにいった。
 まだ新しそうなTシャツがゴミ箱に入っていた。
 つい「なんで捨てるの?」って聞いてしまった。
 
 洗面所には元彼が使っていたであろう電気シェーバーが置いたままだった。

 「あ、それ返しそびれたんだよね」

 嘘はつきたくないからと彼女は正直に言ってきた。
 そうなんだって流した。そりゃあ彼女にも彼女の歴史があるのだからと納得しようとした。だけどもしかしたらまだ元彼と続いているのかと考えてしまった自分がいた。実際にはちゃんと元彼との関係は解消されていた。
 知りたくないことを知ってしまったせいで、彼女のことを疑ってしまった自分がいた。
 やっぱり知りたくなかった。
 
 久しぶりに更衣室であった同僚から「お前の部署人間関係やばいらしいな」と言われた。
 確かによく人の愚痴を言い合っているし、人のミスを見つけては犯人探しをしているようなところだ。僕は今頃知ったのかよ、情報遅いなーと思いながら「大変なんだよ」と答えた。

 「不倫してる人多いらしいね」

 予想もしていなかった言葉に動揺した。彼はその後も話したそうにしていたが、用事があるからといって、その場を離れた。
 知りたくなかった。これ以上知ってしまったら今まで通り働けなくなりそうだ。
 なのにもしかしてあの人とあの人かと考えてしまっている自分がいる。
 「知らぬが仏」とよく言うが、そう思うのはどうやら日本人だけではないらしい。 


〔英語〕Ignorance is bliss.(無知は至福である)

〔中国〕眼不見心不煩(見なければ心も休まる)

〔朝鮮〕모르면 약이요 아는게 병(知らなければ薬、知れば病) 
 

ことわざを知る辞典

 何かの拍子で知りたくなかったことを知ってしまうことがある。それによって、その後の関係性が変わってしまうこともある。
 何が正しいのか、どうすればいいのか僕にはまだわからない。だからといって投げ出すのではなく、傷つきながらも、その都度その都度考えて生きていきたい。だって、頭を使えるのは生きている間だけだから。

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